• 津田大介

    ジャーナリスト/メディア・アクティビスト

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    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、多様性の大切さを感じる特別企画。

    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。

    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

    津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

    メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会の関係、表現の自由とネット上の人権侵害から地域の行政と文化事業など、情報社会とリアルな社会のフィールドを横断しながら執筆・取材活動を行うジャーナリスト、メディア・アクティビストの津田大介さん。取材やリサーチ、プロジェクトごとにさまざまな土地を訪れる仕事柄、道の駅で新たな茶葉を発見、持ち帰ることが恒例になっているのだそう。ここ一年、外出自粛期間で遠方への出張も減った分、訪れた場所を思い出すかのように取り寄せることも増えたという“お茶”は津田さんにとってどんな存在なのでしょうか。忘れられないというエピソードやその馴れ初めから、お話を伺います。

    「お茶を意識的に飲むことが増えたのは、東日本大震災のあとですね。取材のために仮設住宅を訪れると、おもてなしなんてできる状態ではないのに、その土地のお茶を出していただく機会がとても多くて。お茶を淹れていただくと、空気が変わるというか、ゆるむというか。記者と取材対象という関係というより、人と人との関係になる。石巻ではお茶を飲みながら話をする時間を『お茶っこ』と呼んでいて。東北ってローカルなコミュニティや結びつきが強いんですが、村全体、集落全体が同じ仮設住宅に行けずバラバラになってしまって、コミュニティが分断されたことで出歩けなくなってしまう人がいるという話も聞きました。ただ一方で、知らない仮設住宅の間柄でもおばあちゃん同士はその仮設住宅の中で『お茶っこ』をやって、少しずつ仲良くなっていくというお話も聞いて。『お茶っこ』は石巻の文化であり、コミュニケーションのツールなんだなと」

    津田さんにとって、お茶の時間は人と人を繋ぐ“コミュニケーション”のかたち。外出や移動が頻繁にできない昨今、デジタルメディアやSNSを介してのオンラインの結びつきが増える日々に、ゆるやかに人を結びつけてくれるフィジカルなコミュニケーションともいえる“お茶っこ”には、とても可能性を感じているのだそうです。今はなかなか会いにも行けないのですが、という津田さんの手元には、ジップロックに小分けにされた10種類以上の茶葉が。中でも、特に思い入れがあると紹介してもらったのは、津田さんにとって古くからの友人であり、現代アーティスト「カッパ師匠」こと、遠藤一郎さんによる「カッパの番茶」。

    「ご紹介したいお茶はたくさんあるので、本当は選びきれないのですが。お持ちしたのはカッパ師匠という名前で活動している友人の現代アーティスト、遠藤一郎くんが作っている『カッパの番茶』。2011年からの付き合いで、車体に大きく『未来へ』と描かれた、各地で出会った人々がそのまわりに夢を書いていくマイクロバス――彼の作品『未来へ号』という車で一緒に東北にも行きましたね。彼は最近は九州を拠点にしているんですが、2018年に突然、目的も理由も告げられずに『津田さん鹿児島にきてください』と連絡をもらって。空港に着いたらいきなり温泉に連れて行かれて、信じられないくらいうまい鳥刺しやとんかつなどをご馳走されて、一泊二日歓待されてました。何も告げられなかったんだけど、最後に『休んでください』と。休むの下手そうだからと。その時に、ちょうど彼が作っていると手渡してくれたお茶です」

    独特な風合いと味わいを称えた「カッパの番茶」の茶葉は、何色とも言えないような複雑な色味。そんな茶葉の見た目に劣らず、一つひとつのお茶に異なる“人”の想いや記憶、ストーリーを話してくれた津田さんにとって、その一杯の先に思い浮かべるのはどんな“色”なのでしょうか。

    「やはり一番には、震災後から毎年訪れている、いわき万本桜の光景が思い浮かびますね。山から見下ろせる田んぼが何ヘクタールか広がっていて、春、苗を植えた時の新緑から夏は青々として、秋になると稲穂になって黄金色に。冬になると全部刈り取られて土の色になる。季節ごとに色が変わっていくんです。川内有緒さんの『空をゆく巨人』でも“いわきのすごいおっちゃん”として登場する志賀忠重さんと、中国・福建省出身の現代美術家・蔡國強さんが中心となって進めているプロジェクトなんですが、自分もほぼ10年間、月に1回のペースで、植樹に参加し続けていて。作業を終えた後、みんなで囲炉裏を囲んで飲むお茶が、美味しいんですよね。お茶って誰と飲むかということがすごく重要だと思うんですよね。緊急事態宣言が出てから、会いたくても会えない人がたくさんいる。そういう人たちとまた、会いたいし、話したい。家でもお茶を飲むと、その人の顔が浮かぶんです。お茶ってカラフルなんですよね」

    「お茶ってカラフル」。その一言に不意を突かれた津田さんとのお茶の時間。仕事場にいても、家にいても、出張先のホテルでも、どんなに忙しい時もお茶を飲まない日はないという津田さんが、いつも十何種類も茶葉のストックを切らさないようにしている理由。これだけの長い年月、“お茶する”という言葉とともに茶の文化が続いてきた理由は、そこにすべて集約されているような気がした、忘れられないひとときになりました。

    津田大介|Daisuke Tsuda
    ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長/ポリタスTVキャスター。大阪経済大学情報社会学部客員教授。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。メディアとジャーナリズム、テクノロジーと社会、表現の自由とネット上の人権侵害、地域課題解決と行政の文化事業、著作権とコンテンツビジネスなどを専門分野として執筆・取材活動を行う。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)、『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
    tsuda.ru

    Photography: Kisshomaru Shimamura
    Text & Edit: Moe Nishiyama & Yoshiki Tatezaki

    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、
    多様性の大切さを感じる特別企画。
    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、
    目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、
    目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。
    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。
    あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

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