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相田尚美

茶 岡野園

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人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、多様性の大切さを感じる特別企画。

自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、目を瞑って、ひと呼吸。
香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、目に見える以上の、
その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。

一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

相田尚美(茶 岡野園)

埼玉県東大宮に、70年近くつづく茶屋[茶 岡野園]はあります。住宅が中心のゆったりとしたこの東大宮駅近くで、母、姉とともに祖父の代からの暖簾を守るのが相田尚美さんです。「町のお茶屋」として、まさにこの町の風景を作ってきたお店を受け継ぐ尚美さんが心に浮かべた“お茶の色”とは。

光の角度によって輝いて見える深い緑色の茶葉。もちろん動いてなどいませんが、「溌溂とした」と表現したくなるほど生命力を感じます。このお茶は、今年尚美さんと姉の芽美さんが実際に手摘みを手伝ったという狭山の新茶です。尚美さんはその時の茶畑の様子を次のように話してくれました。

「新芽が風になびいて、きらきら光っているんです。もう本当にきれいで。摘むたびに清涼感のあるいい香りが漂ってくるんですよ。葉は小ぶりですが、肉厚感があって葉脈がしっかりしているのが狭山茶の特徴ですね」

一本一本新芽を摘んでいく手摘みはとても大変な作業で、一日中摘んでもお茶になるとわずかな量。貴重である所以を、身を持って感じることができて有意義だったと尚美さんは話します。

「1時間かかってもカゴひとつ摘めるか摘めないかくらい。それだけの労力と時間をかけても、これだけしかできないんだということを自分で体感することは、お茶への愛着もより強く湧きますし、お客さまに伝える上でも大切なことだと思っています」

[岡野園]は、お茶の販売を専門とするお茶屋です。つまり、茶農家が育て、製茶問屋がつくったお茶を、お客さんへ手渡すという立場。生産現場に足を運び、生き物である茶に触れることで、「リレーのバトンのように、たくさんの方々の手を渡ってきたお茶をお渡しできる。この2年間は特にそのことが当たり前じゃないんだって感じました」と尚美さんは話します。

尚美さんにとってのお茶という存在を聞くと、次のように話してくれました。

「お茶は常に飲んでいますが、“区切り”という感じでお茶を飲むことが多い気がします。流れる時間の句読点。お茶の仕事をしていても、癒しはやっぱりお茶。そこでほっと安らぐという源は、お茶が植物だということなんだと思います。茶畑とお客様をつなぐ町のお茶屋だから、それを伝えられる立場にいると思います」

新茶の時期は摘まれて24時間以内に製茶という加工を経て、2日後には[岡野園]のお店に届くのだそう。そうした鮮度感とスピード感は、淹れた瞬間の香りからすでに感じられます。そして、お茶の「季節感」もまた尚美さんが意識することの一つだと言います。

「北限に近い狭山茶ではお茶を摘む時期というのは一年のなかで2ヶ月だけ。そして、新茶の青々とした香りが楽しめるのは今この時だけです。お茶って、見ただけだといつも同じに見えますよね。でも、四季をちゃんと表すものでもあると思っています。私は毎朝、向かいの公園を眺めながらお茶を飲んでいるのですが、春は桜が徐々に咲いていって、満開になったら桜吹雪が舞って。新茶の時期は青葉がどんどん茂ってきてきらきらとして、秋になったら落ち葉の絨毯を見ながら、冬は木漏れ日を感じながらお茶を飲んで、と。移ろう自然の景色に添って、だんだんとお茶の香りや味わいも深く変化するし、気温に合わせて飲む温度を調整することで淹れる楽しさも日々実感するんです」

春夏秋冬それぞれの美しさはもちろん、各季節の間にある移ろいまで感じることは、都市に住む私たちにとってむしろ羨ましくすらあります。公園には、幼稚園児やサラリーマン、散歩する近所の人々などが日々往来するのだそう。そうした人も含めた町の景色の移ろいも、その一部として存在するお茶屋として大事にしています。

「この町の景色と移り変わりを常に感じているということかもしれません。日常に寄り添う立場、感覚でお茶を飲み、それを伝えている」

茶畑とお客の間で、それぞれの移り変わりを感じながら、お茶という憩いを届けつづける[茶 岡野園]。次の季節にはどんな色のお茶と景色を見せてくれるのでしょうか。

相田尚美|Naomi Aida
1953年、祖父の嘉一郎さんが埼玉県大宮市で創業した[茶 岡野園]を、現在、母の初美さん、姉の芽美さんとともに受け継ぐ。嘉一郎さん直伝のほうじ茶の焙煎も担っている。
instagram.com/cha_okanoen
祖父から孫へ 現代の町のお茶屋 [茶 岡野園]の営み

Photography: Kisshomaru Shimamura
Text & Edit: Moe Nishiyama & Yoshiki Tatezaki

人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、
多様性の大切さを感じる特別企画。
自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、
目を瞑って、ひと呼吸。
香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、
目に見える以上の、
その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。
一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。
あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

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