• アレキサンダー・ジュリアン

    闇花屋/FLOWER PUSHER/草月流師範

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    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、多様性の大切さを感じる特別企画。

    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。

    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

    アレキサンダー・ジュリアン(闇花屋/FLOWER PUSHER/草月流師範)

    東京の地下アイドルから企業広告、大統領のVIP装飾まで手がける何でもありの闇花屋、FLOWER PUSHER、草月流師範…さまざまな肩書きをもつアレキサンダー・ジュリアンさん。インスタレーション、写真作品、テキスタイルの制作など幅広いフィールドで、切り花や食虫植物、野菜、観葉植物など、日々多様な植物と向き合うジュリアンさんにとって、「お茶」はどんな存在なのでしょうか。

    「お花屋さんのお仕事は料理人のお仕事と近いと思っています。市場に出回っている素材の組み合わせに、自分なりの調味料を加えて即興的に花束やデザインを作る。植物って刹那的なものなので、枯れたら終了。花にも季節によって旬があります。そういった意味では、お米も、お野菜も、お茶も同じ植物。お茶を飲む=植物を食しているという感覚がとても強いので、口に入れる時はその植物感を意識しています。色を見て香りを感じて、色と一緒に植物から煮出したものを食べている感覚ですね」

    お花を仕入れるための市場では、言語化することが難しい繊細な色の数々を瞬時に見分けて判断をすることが求められるのだそうです。「色と一緒に食べている」という感覚は、毎日多くの「色」に向き合うお花屋さんという肩書きを考えると、うなずけます。

    「職種的に一番色を見る仕事をしていると思うので、僕は色中毒かもしれません。たとえばピンクの認識一つとっても超幅広い。シャビーなピンク、くすんだピンクもあれば、濃いピンク、赤っぽいピンクもある。特に難しいのがラベンダー色。人によってイメージしているラベンダー色って全然違うんですよ。グレープソーダみたいなイメージの人もいれば、これ(ジュリアンさんの着ている服の模様の一部)をラベンダーっていう人もいるし、もっと薄いものをラベンダーという人もいる。面白いなと思ったのが、コロナの巣ごもりが始まった頃は、黄色のお花を買っている人が若干増えたんですよね。家にいる時間が伸びたからか、明るいものを選ぶ人が増えた気がします」

    日々色に向き合う職場にも、お茶は水筒に入れて毎日欠かさず持参しているというジュリアンさん。お仕事でいろいろなお花の産地を巡るときには、その土地ごと、お茶屋さんを見つけると足を運ぶようにしているのだそう。今回、紹介してくれたのは何度も足を運んだことがあるという福岡県の八女茶。

    「福岡県八女市は玉露の生産が有名な地域。今年は60gで5000円以上するお茶を泣きながら奮発しました。ふだん飲むのは、島根県の津和野で生産されているカワラケツメイの豆茶から、二日酔いに効くとされている熊本の不知火地区でしか飲まれてないレアなお茶などさまざまですね。地元の文化資産みたいなものをチェックしてた方がその街の表情がわかりやすいのと同じで、仕事でいろんなお花の産地を巡るとき、その土地ごとの和菓子屋さんやお味噌屋さん、お醤油屋さんを事前に(地図上に)ピンをしています。その延長でお茶屋さんにも足を運ぶと、その土地にしかない茶葉が見つかったりするのでおすすめです」

    訪れる土地ごと、そしてその日の気持ちや体調でも、心地よいと感じたり、選ばれる花の色も変化するというのだから不思議です。そして野菜や果物に旬があるのと同じように、日本の、茶の樹という植物から生まれる日本茶には、身体にもしっくり合う感覚があるのだというジュリアンさん。お休みの日は、季節の変化を肌で感じられる砧公園の大島桜の下が定位置。双眼鏡とSONYのスピーカーをセットで持参して、お茶を飲みながら地域の自治体で配布されている『ミニ野鳥図鑑』を片手に野鳥や植物の観察をしたり、公園を訪れる人を観察したりするのだそうです。

    「大島桜は他の桜に比べて、お花や葉に香りがあり、葉は和菓子の道明寺、水羊羹にも使われています。この大島桜の周りはほとんどソメイヨシノ。ここだけ大島桜なので、ちょうど桜の季節は白いお花が満開になってました。お茶には新茶のシーズンがありますが、お花も一番花といって最初の新芽が出てくる状態の時が一番、香りも品質が良いんです。植物のエネルギーがパンパンに詰まっていて、季節のものを食すというのは、人の身体にとって必要な養分だと感じています」

    「化学染料で染められた服と草木染めの服を比べてみてもよくわかるんですが、基本、自然が出す色ってとてもきれいです。ケミカルじゃないから視覚の情報としてすっと入ってくる」。お花畑にいたら紛れ混んでしまいそうなカラフルなシャツを着てきてくれたジュリアンさん。植物の色を身に纏い、季節ごとの色とともに植物を食す。十人十色の「色」の愉しみ方や味わい方がある、とあらためて感じたお茶の時間。「色」の世界のお話はまだまだ続いていきますが、今回はここまで。

    アレキサンダー・ジュリアン|Alexander Julian
    闇花屋/FLOWER PUSHER/草月流師範。東京の地下アイドルから企業広告、大統領のVIP装飾まで手がける何でもありの闇花屋。好きな芸能人は島田珠代。東京地下樂團、大牌廣告、總統御用造花、什麼都做的地下花藝師。名稱日本花道的優等生。
    instagram.com/alexander_jyulian

    Photography: Kisshomaru Shimamura
    Text & Edit: Moe Nishiyama & Yoshiki Tatezaki

    人それぞれお茶それぞれの多様な「色」を感じることで、
    多様性の大切さを感じる特別企画。
    自然の恵みと人の手によって育つお茶をひと口、
    目を瞑って、ひと呼吸。
    香りや温度、重さや舌触り、空気との触れ合いを経て、
    目に見える以上の、
    その人にとっての「お茶の色」が心に浮かぶ。
    一人ひとりの感性によりそう、お茶の多様性。
    あなたにとって、お茶はどんな色ですか?

    COLOURS BY CHAGOCORO