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2020.03.10

いつでもフラットでいられる場所に。
JINNAN HOUSEの茶室を彩る
アーティスト・新城大地郎さん
<前編>

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渋谷の真ん中で、「書」を書く

2020年2月28日、茶食堂・フードトラック・イベントスペース&ギャラリーが融合したミニマル複合施設「JINNAN HOUSE(ジンナン ハウス)」が、渋谷区神南にグランドオープンした。

茶食堂[SAKUU 茶空(サクウ)]は、[MEMU EARTH HOTEL]をはじめ、様々な企業のプロジェクトでブランディングを手がけている福田春美さんがディレクション。厳選した茶葉の日本茶を急須からゆったりと味わったり、お茶を使ったさまざまなメニューをいただくことができる。

イベントスペース&ギャラリー[HAUS STUDIO]では、2月28日〜3月1日の3日にわたり、アーティスト・新城大地郎さんの個展が開催された。この3日間で、新城さんはJINNAN HOUSE内に新設される茶室[hanare]に飾る掛け軸のための作品制作に取り組むという。HAUS STUDIOで制作真っ最中の新城さんの作品づくりを間近で見ることができた。

沖縄の宮古島出身の新城さんは、書道をベースに現代的な表現を追求するアーティストで、今回は茶殻と墨を混ぜた作品づくりに挑む。サンフランシスコで行われたアートフェア「UNTITLED, ART」に参加し、数日前に帰国したばかりしたという新城さんだが、まずは、一杯のお茶を丁寧に呑んでから、作品づくりをスタート。

HAUS STUDIOのメインフロアとなっている真っ白な空間。新城さんは真っ黒な服に、裸足。大きな手に似合う、大きな筆を持つと、力強く、そして繊細に、体から魂を絞り出すように作品を書いていく。

「ワインを墨に混ぜたことはあるんです」と笑う新城さんだが、今回は2つの方法でお茶を墨に混ぜることを試すという。まずは硯で墨を溶かし、そこに少しずつお茶を加えるやり方だ。

多めのお茶で擦られた墨は、淡い水墨画のような色合いだ。底に沈む茶葉も加えると、書いた跡に少し茶葉が乗り、筆の流れが見て取れる。新城さんは大きな円や、一筆で複数の円をつなげて、何枚もの作品を一気に書いた。

次に試したのは、銅製の器に固形の墨を入れ直火で熱しながら溶かし、そこに大量の茶殻を投入するやり方だ。新城さんは湯気が立つ熱々の茶葉入り墨汁に筆を突っ込み、そのまま大きな円を書く。

茶葉が筆にたっぷりと絡み、筆跡には墨汁と茶葉が混ざり合いながら残る。形のある“物体”が書の上にそのまま表現されているのはとても新鮮だ。まだ墨が液体としてたゆたうほど濃く書かれた円の一枚を慎重に横によけると、新城さんは異なるモチーフを書き始めた。複雑な筆の運びで、3つ文字が書かれているようだ。つづけて2枚目、3枚目……。それが何の文字か尋ねることが憚られるほど鬼気迫る勢いでつづけざまに6枚を書き上げると、ソファの前の床にストンと座り込んだ。

休憩に入り、新城さんに話を聞くことができた。

「普段は墨のかけらが点在するんです。今回は墨と茶葉が混ざっていて、思いのほか香りが出ましたね。茶葉を入れてぐつぐつ煮ているときの湯気が、とてもいい香りでした」

茶殻を混ぜた墨は乾いてくると、濃淡が柔らかくなり色合いが変わってくる。墨のかけらのように、茶葉も次第に下に落ちていくかもしれないが、それもひとつの作品の楽しみ方なのかもしれない。

さらに今回の作品へ込めた想いを新城さんに尋ねると、渋谷の“この場所”に茶室があることに意味があると言う。

「東京は人や情報があふれていて、物や誰かにつねにコントロールされている気がするんです。それが東京であり、社会ですが、そういう懐疑的思考も持てないくらい、見えないパワーに侵食されている感覚があります。自分でも気がつかないうちに、内側の“感覚的なところ”が消されてしまっているような。どこかで不安と恐怖を感じてしまう。でも、こういうゆっくりとした時間を楽しめる場所がある。ここに来て、自分を見つめ直せたらいいですね」

都会のど真ん中にも関わらず、JINNAN HOUSEには緑が多く、渋谷にいながら自然を感じることができる。渋谷駅からほんの数分歩いてくるだけで、こんなに緑を楽しむことができるのだ。さらに、新城さんは、自身の作品についても話してくれた。

「僕が表現し続けるのは、自分はどこにいるか、実在を問い続けたいから。問い続けることが表現で、それによってリアリティある生き物が生まれる。それは(表現に)反映された社会への希望だったりもする。『書』はすごく身体性を含んだ純粋な表現だと思います。油絵や彫刻のような時間をかけてつくるものではなくて、直感的で、『この瞬間』を表現することができます。墨もお茶と同じで、その日の天気によっても違うし、墨を擦る水によっても違う。環境によって変わる。ここでは、変化を知り考える、あえて読めることを無視した余白のある作品を作りたいと思っています」

制作前には静岡県天竜の煎茶を丁寧に飲み、心を落ち着けている様子だった

最後に新城さんは、今回の茶室 hanareへの期待を次のように話した。

「人と情報があふれている中で、ロジカルな部分ももちろんあるけど、自由さも必要だと思います。まずは自分を一番に信じて愛する。全てをフェアに、フラットに感じる視点を持つことがすごく大切です。差別や偏見をなくし、あらゆる束縛から開放される時間と感覚が重要だと思います。この茶室が、そういう場になるといいなと思います。嘘か本当かわからない主張が多いこの街にとって、なんでもない時間を作れる場所になれるといいですよね」

新城大地郎さんのルーツや哲学を語るインタビューは後編につづく。


新城大地郎 / DAICHIRO SHINJO
1992年沖縄県宮古島生まれ。静岡文化芸術大学卒。禅僧の祖父を持ち禅や仏教文化に親しみながら、幼少期より書道を始める。現代的で型に縛られない自由なスタイルで、伝統的な書に新たな光を当てている。最近はロンドンなど海外での制作活動も行なう。2017年10月Playmountain Tokyoにて初個展「Surprise」、2018年TRUNK HOTELロビーにてインスタレーションを開催。祖父・岡本恵昭氏の写真と新城さんの書を合わせた展示が昨年11月宮古島で開催。
daichiroshinjo.com
www.instagram.com/daichiro_(Instagram)

Photo: Megumi Seki
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki

※今回の制作には、飲用として十分に使用された後のお茶と茶殻を利用しました。

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