• 日本茶専門店、次世代淹れ手対談/諏訪知宏さん×川﨑宏基さん <後編>かっこよさ、面白さ、人間味。

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    日本茶専門店、次世代淹れ手対談/諏訪知宏さん×川﨑宏基さん <前編>渋くて苦いイメージを覆した、衝撃のお茶

    2023年、最初の記事となる今回は二人のゲストに来ていただきました。いずれも都内の日本茶専門店に勤める“お茶の淹れ手”たち。CHAGOCOROでは、これまでにも淹れ手の方々を取材してきましたが、そんな先輩たちの背中を見な…

    2023.01.13 INTERVIEWCHAGOCORO TALK

    [TEA BUCKS]の川﨑宏基さんと、[Satén japanese tea]の諏訪知宏さんによる、20代日本茶の淹れ手対談の後編。初顔合わせだったこともあり最初は緊張感がありましたが、お互いのスタイルについて感想を交わしながら徐々に打ち解けてきたお二人。「お茶の始め方」から「おいしいお茶の淹れ方問題」、「今年チャレンジしたいこと」まで話は広がりました。

    人生狂わされるほど惚れ込んだ

    ――       お二人とも衝撃を受けたお茶にたまたま出会ったことをきっかけに、「お茶を始めてみよう」となったということですが、お茶について踏み込んで知ろうと思ったときにどう学び始めましたか?

    川﨑       僕は(TEA BUCKSの大場)正樹さんに、「弟子にしてください」くらいの勢いで直談判しに行ったんですけど、「そういうのやってないから」って却下されてしまって……。悔しくて、どうしたら入れてもらえるんだろう、お茶を学べるんだろうと考えて、そこから独学ですね。とりあえず本屋さんに行って、お茶の本を探しに行くんですけど、本当になくて。

    ――       どういう本があると思っていましたか?

    川﨑       「お茶の教科書」みたいな、いろんな産地が書いてあって、お茶はこういう製造方法でとか、そういうのが色々あると思ってたんですけど、見つからなくて。インターネットでも調べたのですが、それもけっこう限られた情報だけで。もうこれは知っている人に聞くしかないと思って、色んなお茶屋さんに行って、とにかく色々なお茶を飲んで、お話を聞いて、ノートにまとめたりとかして。[TEA BUCKS]にも一ヶ月くらいずっと通い詰めて。建築の学校卒業して、フルタイムでアルバイトしていたところも辞めて、「もう行くとこないんです」と言ってねじ込んだ感じです。

    ――       それはすごい熱意。

    川﨑       そこまで惚れたというか、お茶に人生狂わされたというか。親からも「お茶なんか仕事にならないでしょう」くらいのことまで言われましたけど、それも逆に糧となったというか、むしろ悔しくて。あんな素晴らしいお茶があるのになんで知らないんだろうという。もっと知ってもらいたいなという思いがあって、[TEA BUCKS]はお茶の間口を広げる役割もあると思っていたので、ピッタリだなと再認識できました。

    諏訪       実は、川﨑さんが直談判したという話は聞いていたので、今日詳しく聞けたらと思っていたんです。すごいなと思って。本当にその熱量がすごいなと思うんですけど、通い詰めて、勉強していたというのがすごいガッツだなと。経緯としては川﨑さんがお願いして入ったという形ですけど、外から見ているとすごくお店にハマっているというか。あのスタイルのお店だったら川﨑さんみたいな方が理想ですし。

    ――       たしかに、お店も人もそれぞれキャラクターがありますね。諏訪さんも[Satén]っぽい方だなと思いますよ。

    川﨑       はい、ハマっていると思います。[Satén]のイメージは、すごく優しい、やわらかいとか、お茶で包まれるくらいの包容感というか、リラックスできる空間だなというのがあって、そこにぴったりハマっていると思います。

    「かっこよさ」と「面白さ」

    ――       お茶の世界でかっこいいと思う人はいますか?

    諏訪       皆さんかっこいいなと思いますけどね。個人ではないですが、それこそ[TEA BUCKS]さんはかっこいいをすごく表してますよね。淹れ手さん、お店のスタイル、佇まいや茶器に至るまで。

    川﨑       実は、かっこよく淹れるとかはあまり意識したことがなくて。むしろ「面白いな」のほうが僕には響くというか。べったなさん(a drop . kuramae)が、淹茶選手権でやった、あの“お茶を飲ませない”という、あれがめちゃ面白いなと思いました(編注:淹茶選手権2022のフリースタイル部門で、「未来」をテーマにお茶を淹れたべったなさん。最後にはグラスに注いだお茶を捨て、その残り香だけを差し出し、未来の曖昧さを表現した)。そういう遊びというか、お茶を使ってもっといろいろなことができる可能性があると思っていて。そういう「面白さ」というのがまだまだこれからいっぱい出てくるんだろうなと思うので、そういうことをやっていきたいなと思います。

    諏訪       僕もべったなさん面白いと思います。遊び心もそうなんですが、お店に行くといつも農家さんの話をしてくれるんです。自分が畑に行って感じてきたことをリアルに伝えるには何度も足を運ばなければならないですし、綺麗な茶畑だけを見てきたのではわからないお茶の現状やお茶づくりに至るまで、色々なものに触れてきたべったなさんだからこそ伝えられることがあって。そこが面白いですし、僕もそうなりたいなと思います。僕自身はお茶をかっこよく見せるスタイルが難しくて、[Satén]に入った当初は理想とのギャップに悩んでいました。今はいい意味で諦めがついて、僕が淹れているところを見て「なんか楽しそうだな」「この人に淹れられるなら自分にも淹れられるかな」くらいに思っていただける存在でいられたらという気持ち。敷居が低く見られすぎるのはよくないですけど、「お茶ってなんかいいな」と気づくきっかけになる人になれたら嬉しいです。

    お茶の味の考え方

    ――       お茶という飲み物の場合、誰もが知っているだけに、どうしてもイメージを変える体験が必要ですよね。なかでも、お二人のお店はそれぞれそういった固定概念を覆すような場面が多いと思うのですが、いかがですか?

    諏訪       もちろん、お茶の面白い香りに出会うとか、飲んでわっと驚いてくれる方もいます。逆にお茶にある程度見解がある方は、淹れ方にびっくりしてくれるときもありますね。急須を何回も振ったりとか、お茶を急須に戻したりというのは、なかなかやっていないというか、「なんでそんな淹れ方をしているんですか?」と言われます。

    ――        口で言うのは難しいと思うのですが、Saténでやっている淹れ方を簡単に教えてもらえますか?

    諏訪       茶葉を氷水で少し開かせた後、急須に湯を入れて、抽出。そのお茶を急須に戻してまた抽出、というように煎を重ねていき、一杯のお茶に厚みを作り、個性を落とし込むような淹れ方をしています。うちはカフェなので煎を分けてお出ししていません。その一杯にお茶の個性が乗るよう、急須の傾け方や振り方、湯の入れ方、注ぐ高さなどを変えて、味わいをコントロールして淹れています。お茶を飲み比べて味の違いに関心をもってもらえたり驚いてもらえたりすると、この淹れ方をしていてよかったなと思います。

    ――       その淹れ方は、もう決まりとしてあるものなんですか?

    諏訪       淹れ方の流れは一緒です。ただ、淹れ手それぞれがそのお茶をどう表現したいのかでアプローチを変えています。小山さんは淹れ手で味わいが変わることを個性だと考えてくれていて、重要なのは狙い通りのお茶が淹れられているかの再現性だといつも言っています。お茶のストーリーには「作り手」はもちろん「淹れ手」も入っているんです。この人のお茶が飲みたいと言ってもらえるように、それぞれが淹れ方に向き合います。

    ――       そう聞くと、再現性を追究するコーヒーの世界より、どちらかというとお寿司屋さんや焼き鳥屋さんの職人の世界に近い気がしますね。お茶はやっぱり日本っぽいということなのかもしれないですし。川﨑さんはいかがですか?

    川﨑       そうですね。正樹さんももう完全に、その人にしか出せない味というのは割り切っていますね。正樹さんは「お茶の味は渋味、苦味、旨味、甘味と、あと人間味」とよく言っているんですけど、途中の仕草だったり会話だったり、そこでその人にしか出せない味が出るという、その最後の“味”が一番大事なんじゃないかと。

    いつか来る、めっちゃおいしく淹れられる瞬間

    ――       一方で、お茶を始めてみようという人にとって「おいしい淹れ方」ってどうしても気になります。これで正しく入ってるのかな?というのは必ずと言っていいほど通る道だと思うのですが、そういう人には何と伝えるといいと思いますか?

    川﨑       僕はけっこう凝り性なので、自分がおいしくないと思ったら、どうやったらおいしくなるかを研究というか、色んな入れ方をするタイプです。結局、シーンによっても自分がおいしいと思う味は違うと思うので。たとえば朝起きたときと夜寝る前では、ほしい味が違うはず。僕もあるんですけど、たまに「これめっちゃおいしく淹れられた」と思うときがあるんです。そういう瞬間がいつか来るので大丈夫ですよって言っています。

    ――       ひとつに捉われずに繰り返しやってみるのは必要ですよね。

    川﨑       そうですね。いろいろな淹れ方を試してみて。正解はないので。

    ――       その「めっちゃおいしく淹れられた」のは、どうしてだったんですか?

    川﨑       いや、まったく何も考えてなくて、一口飲んだときに、「ああ、おいしい」となって。自分でもびっくりするくらい。「あれ、どうやって淹れたっけ?」と思って、もう1回やってみたら全然おいしくないみたいな。

    諏訪       奇跡の一杯(笑)。

    ――       意識しすぎるのもよくないというか、自然体になったときにそういう境地が来るのかもしれないですね。

    川﨑       そうですね(笑)。

    ――       諏訪さん的には?

    諏訪       でも、同じですね。まずは「どういうふうに入れたいですか?」「どういうときに飲んでいますか?」って、その人のシーンを聞いたり。コーヒーと比べて、お茶のおいしい“スイートスポット”ってすごく広いと思っていて。コーヒーにはわかりやすく無抽出・過抽出ってあると思うんです。お茶もちょっと渋すぎるとかネガティブに感じることはあるのですが、それも要素の一つになるというか。なので、「それも一つおいしさですよ」とも言えると思います。川﨑さんと同じように、お湯の温度を変えてみたり、「いつかおいしく入るときが来ますよ」と言いますよね。

    ――       難しいですよね。

    川﨑       あと思ったのが、けっこう硬く考えすぎかなと。元々煎茶道というのは、お抹茶と違って、一般市民というか、誰でも飲めるようにつくられたものであると思うので、そんなに硬く考えずに、おいしくなかったなと思ったら、それでいい、次また淹れられるしという、それくらいラフな気持ちで。もっとラフに、お茶は楽しめばいいと思っていますね。

    ――       お店では淹れ方一つひとつにこだわりを感じるのも楽しみの一部ですが、身近な場面では気楽に楽しめばいいという。その意識をお二人が持っているというのは、すごくホッとさせるのではと思いました。最後に、2023年にチャレンジしたいことを教えてください。

    川﨑       僕は生産というか、ちょっとお茶をつくってみたいなと思っています。去年7月に富澤さんのところで手摘みした茶葉で白茶をつくったんですけど、すごく面白いなと思って。お茶を淹れるのと一緒で、生産も、萎凋の加減だったりかぶせだったり、茶葉の様子を見ながらという感覚の部分があると思うので、そういうのをもっとやってみたいなと思います。

    諏訪       僕はこれまで関東圏内の生産者さんにしか行ったことがないので、静岡や京都、九州の生産者さんやお茶屋さんにも行きたいです。僕もお茶づくりをしてみたいという気持ちがありますね。あとは、イベントなどでお店を飛び出して自分一人で、いつもとは違う方たちにお茶を伝える。個人としてどういうメッセージを持ってお茶を伝えていきたいか、ある意味自分を理解して表現する年にしたいなと思います。

    川﨑宏基|Koki Kawasaki
    1998年生まれ、三重県出身。高校卒業後、建築を学ぶために上京。2019年から代官山の[TEA BUCKS]の一員となる。デザインが得意で、同店のプロダクトパッケージのデザインを手がけることも。
    instagram.com/tea_bucks

    諏訪知宏|Tomohiro Suwa
    1997年生まれ、栃木県出身。機械関連の企業を経て、カフェの専門学校で学び日本茶に目覚める。2020年に西荻窪[Satén japanese tea]に入店。並行してコーヒースタンドにも立つ二刀流。
    instagram.com/saten_jp

    Photo: Kumi Nishitani
    Interview: Yoshiki Tatezaki & Misaki Kanai
    Text: Yoshiki Tatezaki

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