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2020.09.08

美味しいお茶の表現方法
和多田喜さん&
小山和裕さん対談 <後編>

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[表参道 茶茶の間]の和多田喜さんと、かつて同店でお茶を勉強し現在は[Satén japanese tea]を営む小山和裕さんの特別対談の後編をお伝えする。和多田さんの「変わらぬ味」が心にまで染み込んだ様子の小山さん。次は小山さんにお茶を淹れていただき、お話の続きを聞いていこう。

次第に開く茶葉を一杯で表現する

氷水で淹れた一煎目のお茶をお湯の入った茶海に注ぎ入れる小山さん。和多田さんは静かに見つめながら「音が上品になったね」と水音にも耳も澄ませる
茶海に一度入れたお茶+お湯をまた急須に戻す。これを何度か繰り返していく
煎を重ねるお茶の美味しさを表現するための淹れ方。これも和多田さんの淹れ方がベースになっているという

— 小山さんありがとうございました。これは何というお茶ですか。

小山 これは牧之原の「ふじかおり」という品種のお茶です。

和多田 だから「蒼風」っぽいけど違うのか。ちょっと萎凋いちょうがかかってる?

小山 摘採してから5〜6時間置いて、香りが活きるように作られています。

和多田 面白いのを見つけたね。

小山 ……緊張しました。[茶茶の間]で、自分で持ってきたお茶を淹れるの二回目ですからね。

和多田 一回目は玉露の練習だったよね。自分のお茶としては初めてだね。でも上手に入ってる。

小山 ありがとうございます。

— 淹れ方が衝撃的だったんですけど、あれはどういう淹れ方なんですか。

小山 一煎目を氷水で淹れるっていうのは本当に茶茶の間の淹れ方を参考にさせていただいてます。茶茶の間の場合は一煎目、二煎目、三煎目、お茶によっては四煎目、五煎目とお出ししていく流れがあるんですけど、Saténの場合はある意味コーヒーみたいな形で楽しんでいただくというのがコンセプトなので基本的にカップ一杯なんですよね。店内の場合も茶海といわれるセカンドポットにだいたい180mlぐらいを作ってお客様にご提供する。一煎、二煎、三煎とどんどん茶葉を開かせていって、その中で旨みや甘みや渋み、香りを順々に楽しんでいくっていうのがやっぱりお茶の楽しみ方だろうなと思っていて、それをいかにして一杯に落とし込めるんだろうと考えました。例えば「何グラム何分」とかで計っただけだとなかなかこういう品種のお茶の味わいがうまく出せないしコントロールができないってなったときに、ここで教わったことを基にして最初の一煎目は旨み・甘みだけを抽出してベースを作り、そこから二煎、三煎、四煎と重ねていって、渋みや香りを加えて一杯に落とし込んでいく。品種や仕上げによって回数を変えたり、コントロールできるようにします。こうやって誰かに説明するの実は初めてです。

和多田 今、実はうちのお店もスイーツとセットで出すお茶を、まさに言ったコーヒーと同じように一杯のお茶で楽しんでもらう「ひとえ」っていう淹れ方と、いわゆる煎茶の楽しみ方として煎を重ねる「かさね」の2つから選べるようなメニューを実は4月から始めていて。

小山 そうだったんですね! 全然知らなかったです。

和多田 やっぱりお客さんに一番伝えたいのはお茶の面白さとか楽しさっていうところですよね。そういう遊べるようなお茶を選んで提供したいというのが、シングルオリジンでやっている一番の理由です。「遊べるお茶」なんですよ。淹れる人が「こう淹れたい」と思ったら、その通りに淹れることができるお茶。伝統的な作り方のお茶だと(淹れ方の)幅が本当に広いんですよね。紅茶のように熱湯を使って淹れることもできたり、もしくはだしのように甘みを引き出して淹れることもできたり。そういう遊べて楽しいよっていうところが今はうちの立ち位置なのかなという風に感じます。

今はお茶にとって良い時代か?

— 和多田さんも茶茶の間オリジナルのお茶を作ってもらっていますが、そういった淹れ手からのフィードバックでお茶をつくっていくという流れは、ネクストレベルな動きなのではという気がしますが、いかがでしょう。

和多田 本当はそれが理想のはずなんですよね。つまり消費者がこういうものを求めていて、この消費者の要望をちゃんと問屋さんなり、ないしは茶農家さんにフィードバックして、こういうものが求められているからこういう商品を作りましょうとコミュニケーションを重ねていく。さっきもお茶は産業として歴史が浅いなんて話をしましたけども、そこに実は問題点も含まれていまして。お茶が産業として成立していく段階でまず求められたのはお茶の生産量を増やすことでした。ですがここ10~20年で茶葉の消費量は減り、今はひたすらお茶の値段が落ちている状態になりました。作れば作るだけ売れた時代とは違って、お茶の種類の差別化や茶葉のクオリティだったりとか、市場原理がやっとお茶の世界にも働き始めているとも言えるんですよね。そうやって生まれてきた品質のよいお茶の需要が増えていくような流れは確実にあると思います。だから本当に過渡期と言えると思います。あと、ペットボトルが良い影響を与えてるんですよね。

— 良い影響ですか?

和多田 ペットボトルが、お茶を労役から解放したんですよ。お茶汲みなんていう役割があったのはもう過去のことで、会議なんかでも普通にペットボトルが配られますよね。そうして、もう一回純粋に日本人がお茶と向き合える時に来ているんですよね。楽しみとしてお茶を淹れると。充分美味しいお茶がペットボトルで買えるわけですから、選択の幅があるということです。だから本当にお茶にとって今はすごくいい状態だと言えると思うんです。でもまだやっぱり過渡期というか。変な話、私がここで15年お店をやっていますけど、茶価は上がってないんですよね。

小山 むしろ下がってる……。

和多田 これ、異常ですよね。ガソリン代も人件費も、全てのコストが上がっているはずなのに市場としてはお茶の値段は下がってるっていう……。

お茶の個性と淹れ手の表現

小山 そこに関してはすごく感じることはありますね。生産量も今年はすごく下がっている。それなのに値段も下がっている。あり得ないことが起こってしまっているというのが、今の日本茶業界のビジネスの点でもおかしい状況ですよね。嗜好品として、選択肢の幅として飲み手は本当に品質の良いものを探しているっていう世界もある一方で、それを提案する人たちがすごく少ない。消費者の声を拾ってそれを生産側に流すことはあったはずですけど、それって何かっていうと売れ筋のお茶の情報を流していたケースが多い。僕らの場合はそうではなくて「こういう個性がある、こういう違いがあるお茶が欲しいです」ということを常々生産者の方々にお伝えしています。

— 個性というお話で思い出しましたが、お茶の味は旨み渋み苦味とあるけど「人間味もあるんだよね」って言ってお茶を淹れてくれた人もいました。

和多田 出ますからね。

小山 それはここですごく学びましたね。誰が作るのか、誰が淹れるのかで全く味が変わっちゃうし、それを同じにすることは多分できない。絶対個性が入っちゃうっていうのはここで教えていただいたことですね。僕もお茶を淹れることに関しては「表現」だと思っているので、淹れ手がどんどん増えてくればそういう表現の幅もどんどん広がってきて、それを楽しむ人たちもまた広がっていくだろうと感じています。逆に、こういう楽しみ方のためにはそういう世界観ができないといけないとも強く感じてますね。

和多田 そういう意味ではさっき小山が淹れたのはちょっとテクノっぽいお茶かなと。

— テクノっぽいお茶。それは面白いですね。確かにいろんな技術と思考が混ざっているような。

小山 和多田さんはやっぱりクラシック系なんですよね。

和多田 そうですね。どっちかというと王道系のクラシックという感じになりますね。

小山 そういうのがやっぱり必要なんじゃないかなっていうのはすごい感じますね。どう表現するかみたいなのがやっぱりないとどういうお茶を作りたいのかが見えてこないので。

まさにそれぞれの表現方法でお茶を淹れ合いながら話しすすめると、次第に緊張感もほぐれて言葉にさらに熱がこもるようになってくるのが感じられた。久しぶりの再会と初めての対談。二人からまたさらにお茶の縁が広がっていくことだろう。お茶の美味しさ面白さを誰よりも信じる二人のお茶をぜひ飲んでみてほしい。

和多田喜|Yoshi Watada
[表参道 茶茶の間]店主。生産者、お茶問屋と対話を重ねながら、煎茶の楽しみをアップデートし続ける。厳選したシングルオリジンのお茶を、それぞれに最適な淹れ方で提供するスタイルに影響を受けたお茶プレーヤーは多い。『日本茶ソムリエ和多田喜の今日からお茶をおいしく楽しむ本』新装改訂版(二見書房)が好評発売中。
chachanoma.com
instagram.com/chachanoma_omotesando

小山和裕|Kazuhiro Koyama
[茶茶の間]などを経て、吉祥寺の日本茶とコーヒーの店[UNI STAND]の店長を務めたのち、バリスタの藤岡響氏と西荻窪に[Satén japanese tea]を開業。シングルオリジンのお茶から抹茶ぷりんまで幅広いメニューで人気店となる。現在は[Satén]を運営しつつ、店舗のプロデュースや専門学校などの講師なども務める。
saten.jp
instagram.com/saten_jp

この対談はフードカルチャー誌『RiCE』のお茶特集号「お茶の時間 Art of Tea」に掲載された「美味しいお茶一杯の秘密(P38〜39)」の拡大版として再編集されました。『RiCE』のお茶特集号はお茶カルチャーを様々な角度で見つめながら、見て読んで、そしてお茶を淹れて飲んで楽しめる一冊に仕上がっています。全国の書店もしくはオンラインストアで購入可能です。詳しくはこちらをご覧ください。

Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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