• 日本茶専門店、次世代淹れ手対談/諏訪知宏さん×川﨑宏基さん <前編>渋くて苦いイメージを覆した、衝撃のお茶

    SCROLL

    2023年、最初の記事となる今回は二人のゲストに来ていただきました。いずれも都内の日本茶専門店に勤める“お茶の淹れ手”たち。CHAGOCOROでは、これまでにも淹れ手の方々を取材してきましたが、そんな先輩たちの背中を見ながらも等しくお茶に対する情熱を持つ若手の二人 —— [TEA BUCKS](代官山)の川﨑宏基さんと、[Satén Japanese tea](西荻窪)の諏訪知宏さんです。
    二人が、日本茶の世界にのめり込んだきっかけは?
    それぞれが感じ、そして伝えていきたいお茶の面白さとは?

    [TEA BUCKS]川﨑宏基さん
    [Satén Japanese tea]諏訪知宏さん

    まず、お二人それぞれに持ってきてもらった「思い入れのある茶葉と茶器」でお茶を淹れていただきます。

    「え? これってお茶ですか?って衝撃を受けたお茶」(川﨑)
    「知識がなかったからこその衝撃だったと思う」(諏訪)

    川﨑       これはかぶせ茶ですね。

    ――       旨味が特徴的なお茶ですね。淹れられているときの香りからもその特徴を感じました

    川﨑       熊本の、富澤さんのお茶ですね。これが一番最初にお茶に興味を持つきっかけになったお茶です。元々は、正直まったくと言っていいほどお茶は好きじゃなかったんです。お茶といえば祖母の家で飲む、すごく渋くて苦いお茶。急須いっぱいに茶葉を詰めて、熱湯をぶわーって入れて、10分待ったくらいのをわっと淹れるという。おいしいとは思っていなかったですね(笑)。学生の頃は、建築の学校に通っていて、アルバイトでお酒も出すレストランで働いていたり、ドリンクには興味はあったんです。[TEA BUCKS]に出会ったのもそのときでした。初めて行ったときに飲んだのがこの「玉緑茶 奥豊」で、「えっ? これお茶ですか?」って聞いちゃうほど衝撃的で。そこから一気にハマってしまって、色んなお茶を飲むようになって。正樹さん(TEA BUCKSオーナーの大場正樹さん)に「修行させてください」って頼み込んだというのがきっかけです。

    ――       それはまだ学生のときということ?

    川﨑       そうですね。まだ学生で、19〜20歳のときです。

    ――       そうやってお茶に目覚める前、興味があったドリンクは何でしたか?

    川﨑       コーヒーも好きでした。コーヒーかっこいいと思って、自分で挽いてドリップしたりしていました。今思うと、味を追究してやるわけじゃなくて、淹れる動作がかっこいいみたいなだけだった。でも、おいしいお茶を飲んだら、「こんなおいしいものがあるんだ」と思った。だから、味を追究するようになったのがお茶なんです。茶器選びにしても、味にも影響があるのでさらに面白い。けっこうどっぷりハマっちゃいました。

    ――       諏訪さんが淹れてくれたのはどんなお茶ですか?

    諏訪       「さえみどり」という品種のお茶です。

    諏訪       今日は鹿児島・知覧のものですが、僕が初めて飲んで感動したお茶は同じ鹿児島の頴娃えいのものです。恵比寿にある[INARI TEA]を初めて訪れたときに飲んだのですが、衝撃で。川﨑さんの言うように、おばあちゃんの家で出てくるような渋くて濃いものっていうのがお茶のイメージでした。これ(INARI TEAで飲んだお茶)も色がかなり濃くて、めちゃくちゃ渋そうなお茶が出てきたと思ったんです。まだ早かったなと思いながらも飲んでみたら、旨味とか味の奥行きにびっくりして。

    ――       「まだ早かった」というのは?

    諏訪       その当時僕はバリスタになるための学校に通っていたんです。お客さんと対話しながら何かを提供できる人になりたいという思いがあり、バリスタという職業を考えていました。[INARI TEA]に行ったときは、お茶についての予備知識もなく、メニューを読んでも何もわからないみたいな状況で。でも飲んだら衝撃を受けて。知識がなかったからこその衝撃だと思うんですけど。そこで、お茶をやりたい、言い方が正しいかわからないですが、お茶というものをツールにして、お客さんに価値のあるものを提供できるのではと思いました。

    ――       バリスタの学校というのは、何歳から通われたんですか?

    諏訪       僕は一度就職して脱サラして入ったので、21歳からの2年間です。コーヒーの抽出とか、ドリンクにまつわることをメインに学んでいました。学生時代もカフェでバイトをしていました。ラテアートを夢中でやっていましたね。でも、どちらかというと、そういうもので人に楽しんでもらいたいという思いが強いというか。最初に就職した会社では、人よりも図面や機械とずっと対面するような仕事をしていたのですが、僕はやっぱりお客さんと話すのがすごく好きでそういう仕事をしてみようと、思い切ってカフェの世界に入りました。

    ――       ドリンクをひとつのツールとして、人とのつながりを大事にしたいという思いは昔からあったんですね。淹れ方を見ていてもバリスタの経験が活きていると感じました。川﨑さんから見てどうでしたか?

    川﨑       すごくスムーズ。無駄がないというか、きれいな所作でパンパンパンと淹れるような。時間をしっかり決めているのがよくわかるような、味もちゃんと一定になるんだろうなと。言ったら、スタイルとしては僕と真逆ですよね。

    諏訪       僕は普段からスケールを用いてお茶を淹れることが多いです。湯とか茶葉をきっちり量って。抽出時間も、湯温も緻密に管理したりするんですけど、でもそれってお茶の抽出までの一貫性があるはずの流れをある意味分けしてしまっているというか。自分は少しカフェとかコーヒー寄り。呈茶という意味では、川﨑さんのように茶器を温めるところから感覚を使うというスタイルは、すごく一貫していてきれいだなと感じます。

    川﨑       最初、思いっきり(お湯を)こぼしちゃいましたけどね(笑)。

    諏訪       あれがまた良かったと思いました。あれがあったことで、川﨑さんも人間なんだなとちょっと思えたのが、僕にとってはありがたかったです。

    川﨑       恥ずかしい。

    ――       味はどうでした?

    川﨑       すごくおいしいです。旨味がギュンと詰まっていて、さえみどりだなという感じの。本当にいいところをうまく抽出しているなと。

    諏訪       実は、こうした深蒸しのさえみどりを淹れるのに、平型(の急須)を使うという、よくわからないことを今日はやりまして。お茶の玄人さんからしたら何をやっているんだと思われるかもしれないです。でもこの茶器は、師匠の小山さん(Satén Japanese teaオーナーの小山和裕さん)からいただいたもので、常滑の平型急須をつくるので有名な磯部輝之さんの作品で、この機会にとあえて使いました。

    ――       なるほど。「思い入れのある茶葉と茶器を」とお願いさせていただいたので、選んできていただいたんですね。

    諏訪       この前の誕生日に「これにふさわしい人になってください」という意味を込めていただいて。深蒸しを淹れるにはもっと淹れやすい急須はあるのですが。でも逆に“さえ(みどり)”で良かったというか、旨味がギュッとしてて、ネガティブな部分が出にくいお茶なので、“さえ”だったらこの急須で挑戦できると思いました。

    ――       川﨑さんの淹れるポイントというか、淹れる際に大事にしているのはどんなところですか?

    川﨑       これはお茶の面白さというところにも関わる話だと思うんですけど。僕もお店ではちゃんと時間を測って淹れるんですけど、自分で淹れるときは測らない。それには理由があって。お茶は、渋味を強くしたり、旨味を強くしたり、味の幅が広い。淹れ方によるばらつきがあって、その好みも飲む人によってけっこう違います。飲む相手がいるときには、どういう味を求めているのか、会話などから探って、それに合わせてお茶を調整するというのが僕の目指すやり方というか。お茶の淹れ方には正解がないと思っているので。それぞれ飲む人にとっての正解がある。それを当てていくことが、“急須で淹れるお茶”の魅力かなと思います。

    急須への愛が自然と溢れ出す24歳の川﨑さん、25歳の諏訪さんという若者二人のお茶トークは後編につづきます。川﨑さんが[TEA BUCKS]に弟子入りしたストーリーや、諏訪さんが考える自分自身の淹れ手としてのスタイルなど、お二人ならではのフレッシュな言葉に溢れました。

    川﨑宏基|Koki Kawasaki
    1998年生まれ、三重県出身。高校卒業後、建築を学ぶために上京。2019年から代官山の[TEA BUCKS]の一員となる。デザインが得意で、同店のプロダクトパッケージのデザインを手がけることも。
    instagram.com/tea_bucks

    諏訪知宏|Tomohiro Suwa
    1997年生まれ、栃木県出身。機械関連の企業を経て、カフェの専門学校で学び日本茶に目覚める。2020年に西荻窪[Satén japanese tea]に入店。並行してコーヒースタンドにも立つ二刀流。
    instagram.com/saten_jp

    Photo: Kumi Nishitani
    Interview: Yoshiki Tatezaki & Misaki Kanai
    Text: Yoshiki Tatezaki

    TOP PAGE