MENU

2020.03.09

お茶を生業とすることに決めた
南青山・即今 店主
トゥーシャン・ザッカリ
<後編>

SCROLL

フランス人の視点から再考される、お茶の価値

前編ではトゥーシャン・ザッカリさんが店長を務める[即今]にて、部屋を移動しながら提供される抹茶や料理の一部をご紹介しながら、彼が茶人として活動する背景に迫った。後編では、もともとバーテンダーだったというザッカリさん自慢のカクテル点前をレポートする。またザッカリさんの視点で、改めてとらえなおされるお茶のイメージについて聞いてみた。

最初に主菓子を食べた「笊籬菴」に戻り待機していると、ザッカリさんが襖を開きながら現れた。三畳間と思いきや、からくり屋敷さながら奥にも空間が広がっていたのだ。背後にはカクテルをつくるのに必要なアルコール類、器具などが完備。一転してバーに招かれたような気分になったところで、「カクテル点前」がスタートする。


元バーテンダーという経歴だけに、さすがの手際のよさでカクテルをつくるザッカリさん。
特に人気なのは、カシスに抹茶を合わせたカクテル「おそざくら」

アルコールが苦手な人のために、ノンアルコールのカクテルも用意している。ティラミスを抹茶と組み合わせたドリンク「チャラミス」をオーダーしてみた。抹茶にマスカルポーネチーズをたっぷりあわせ、エディブルフラワーと大徳寺納豆をトッピングした一杯は、食後のデザート感覚でも楽しめる。

上に載っている黒い粒々が大徳寺納豆。なかなかお目にかかることが少ない食材であるが、納豆菌を発酵させて作った、粘り気があるそれとは異なり、かき混ぜても糸を引くことはない。大豆を麹菌で発酵させ、乾燥後に熟成させることで、味噌や醤のようなクセになる独特の味わいに。

即今で提供されている大徳寺納豆は、とんち話で有名な一休さんも修行したという京都・大徳寺の真珠菴でつくられている。ザッカリさん自身も度々訪れ、修行の一環として実際に納豆の仕込みも行っているそうで、そうした修行の際は早朝4時30分に起床するという。ハードであることは間違いないものの、「庭の掃除も大好きだし、納豆の仕込みも楽しくて」と目を輝かせながら語る姿から、大変そうな印象は微塵も感じさせない。

基本的なお点前の作法はもちろん、抹茶のアレンジドリンクをはじめ、洗練されたアプローチで茶道と向き合うザッカリさんだが、お茶との出会いを聞くと第一印象は特別鮮烈だったわけではない。「日本に来るまでお茶の文化はほとんど知らなくて。おじいちゃんとおばあちゃんのためのもので、静かなものというイメージ。フランスでは『キャプテン翼』の方がずっとポピュラーだったし、僕も実際大好きだった」

アニメや漫画に比べれば「お茶は難しい」というイメージを持つ人は少なくないかもしれない。ザッカリさんも実際にその一人だったが、真摯にお茶と向き合うようになると考え方も変わってきた。

「いまの若い人は服にしても映画にしても、ビンテージっぽいものが好きな人も多いと思う。お茶のカルチャーも見方を変えたら、そういう伝統的なもの、時間を重ね受け入れられた美しいものとしてとらえることもできる。だからこそお茶について知りたい、やってみたいと思う人もいるはず。そういうときに、イントロダクションだと思ってこのお店に来て欲しい。茶道というと堅苦しいイメージがあるかもしれないけど、ルールがあるのは現在一般に普及したフランスの文化だってそう。ある程度しっかりしたフレンチのレストランに行けばカトラリーを使う順番にも決まりがあるでしょ。それでもみんな、フランス料理を楽しんでいる。飲んで食べて、そこにちょっとルールがあるということでいえばお茶も同じで。制約があるから窮屈になるのではなく、逆に面白みを見出せる部分もあると思う」

日本とは異なるバックボーンを持つ人が、お茶に向かっているのは新しい流れといえるだろう。次なる目標を聞くと、「海外のレストランでも、いずれはポップアップみたいなことをやっていけたら」と答えてくれた。日本のアニメーションが、テレビやパソコンの画面の中に浸透していったように、お茶がフランスはもちろん、世界的に生活の一部として親しまれる。そうしてさらなるアップデートがされていく日も、どうやら近づいてきたようだ。


トゥーシャン・ザッカリ
フランス出身の茶人。イギリスとフランスの飲食店での勤務を経たのちに来日。レフェルヴェソンスでサービススタッフとして働いたのち、2019年南青山にオープンした即今では店長を務める。
sokkon.jp

Photo: Yoshimi Kikuchi
Text: Shunpei Narita

TOP PAGE