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2020.06.12

呑龍文庫 ももとせ
木口和也さんの
茶風景のつくりかた
<後編>

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群馬県太田市の「呑龍さま」の愛称で知られる大光院は山に囲まれ、その表参道に位置する[呑龍文庫 ももとせ]の周囲にも畑などの緑が多く広がる。ももとせ主宰の木口和也さんに連れられ、まずは裏庭で抹茶と煎茶をいただくことになった。

売茶翁の喫茶去のように

木口さんは「江戸時代の黄檗宗おうばくしゅうの僧である売茶翁ばいさおうがつくりだしたような、お茶のある『茶風景』を作りたい」と言う。

「お茶を中心にして何かをする。売茶翁の時代、文化人が集まる中心にはお茶がありました。売茶翁も友人である伊藤若冲とお茶を飲んでいたかもしれませんね」

売茶翁は57歳のとき京都で茶店・通仙亭を開き、身分に関係なく、あらゆる人に分け隔てなくお茶を淹れ庶民に広め、煎茶の中興の祖といわれている。木口さんは屋外でお茶を楽しむ「野点」についての想いを次のように語る。

「屋外のお茶は非日常で面白いです。外でお弁当を食べると最高に気持ちいいですよね。お茶もお抹茶も煎茶も、外で飲むと自然の中でいろいろな音を聞きながら、いろいろな人に話しかけられながら飲むことができる。売茶翁は禅を修めた人で達観していたのではと思いますが、ぼくはもっとライトにできたら」

夏のような陽気となったこの日、心も体も嬉しい涼やかな冷茶を一服

表千家で茶の湯を学ぶ木口さんだが、「もっと気楽に、誰にでもお茶を楽しんでほしい」という思いを強く持つ。「茶道の王道と、ライトにお茶を楽しむこと。ぼくはそれらの両方があってよいと思います。ぼくは茶道も勉強していますが、TPOに合わせて使い分けていけたらと思います」

街中でお茶を飲む楽しさ

お店から徒歩3分程度の場所に、太田市中心部を流れる八瀬川がある。川沿いには桜が約150本植えられ、春になると桜の見物客で賑わうという。取材で訪れた時期も、濃い葉色の新緑が美しかった。この八瀬川の川沿いでも木口さんの野点を体験することができた。

木口さんは自転車の前カゴに火鉢を入れ、荷台にはスタッキング可能な椅子を積み重ねる。メッセンジャーバックに茶器などを入れ、いわゆる“野点セット”を用意すると、水色のかわいい自転車をコロコロ転がしながら八瀬川を目指す。目的地の公園前の広場に着くと、手際良くあっという間にセットをして、屋外でのお茶会が始まる。

川沿いを犬の散歩で歩くおじさん、公園に入っていく子どもたち。何気ない日常のひとコマのなかでお茶の空間を立ち上げた木口さんは、歩く人々と目が合うと「お茶、どうですか?」と声をかける。

昨年の桜祭りでも、同じ場所で野点を行い、多くの人がお茶を楽しんだという。木口さんは「高校生の子に、進路相談をされたり。外でお茶を淹れていると“謎な人”に見えるから、なんでも相談しやすいのかも」と笑う。

「お茶をいただくお客さんは、お作法は気にしなくていいんです。目の前でお茶を淹れる本格的な“儀式”を見て、美味しいお茶を飲む。それだけで、グッとくるところがあると思うんです。普段できない体験をできるのは面白いですよね」と、野点で淹れるお茶ならではの楽しみ方を教えてくれた。

自分自身に問いかける

木口さんは、現代のライフスタイルでお茶を楽しむために必要なエッセンスは「おもてなし」と「自分との対話」のふたつだと言う。目の前の人に美味しいお茶を飲んでもらうために器を選んだり、その人のことを想ってお茶を淹れる、点てる。お茶はこのように「誰か」のためにおもてなしをするという側面があるのと同時に、禅の精神で「自分」と対話をするという面もあるというのだ。

「お客さまに喜んでもらうためには、あらゆる準備やリサーチが必要です。その一方で、自分の精神を鍛えることも重要なんですね。仕事で疲れている人たちは、自分と向き合うことに気づかず、自分へ問うことを忘れがちです。お茶はマインドフルネスに近いことだと思うんです」

朝一番にお茶を淹れるとき、自分自身の体調に耳を傾ける。その日の体調に合わせて、目覚めるような濃いお茶を淹れるか、あっさりめに優しいお茶を淹れるのか。自分自身に問いかけ、どうアクションをするか。「シーンによって種類を分けることができるのもお茶の魅力です」と木口さんは語る。

茶道の勉強を続けている木口さんだが、「まだまだです」と笑う。

「茶道では、自分が知らないことをものすごく思い知らされるんです。無知を思い知らされて凹むんです。でも、突き詰めたくなるからやめられない。辛さの向こう側を知りたくなる。あっち側に行きたくなる。それが『道』とつくものの面白いところだと思います」

日本人の性格は、茶道や華道、柔道など、「道」のつくものが合うという。「お花の世界でもそうだと思いますけど、日本ではフラワーアレンジメントもありますが、華道のほうがおそらく日本人的な要素が強く、日本人独特の考え方なのだと思います」

木口さんはお茶の楽しさを知ってもらうために、ポータブル茶席「界雲席」という分解して持ち運びできる茶席を茶仲間と共に開発した。茶道という伝統的な日本文化を学ぶ一方で、日常のライフスタイルに近い形でもお茶を楽しめるように様々な活動をつづける。その活動が広まるにつれ、日常生活のなかでの「茶風景」も少しずつ広がっていくだろう。

木口和也
1973年、愛知県豊田市出身。企業プロモーションすべてをこなすデザイン会社nMAKE株式会社代表。日本茶カフェ「呑龍文庫 ももとせ」亭主を務める。茶道 表千家。日本茶の活動を通し、伝統文化の現代生活へのフィッティング方法を模索し、次世代へ繋ぐ活動を続ける。
instagram.com/donryu_momotose (呑龍文庫ももとせ Instagram)

Photo: Yu Inohara
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki

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