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2020.06.09

呑龍文庫 ももとせ
木口和也さんの
茶風景のつくりかた
<前編>

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呑龍(どんりゅう)さまの参道に佇む日本茶カフェ

群馬県太田市に、徳川家康が先祖を祀るために呑龍上人を招聘して創建した浄土宗の寺院がある。かつては安産、育児の願かけに多くの参拝客がこの地に訪れたが、現在はブームも落ち着き、「呑龍さま」の周囲は穏やかな空気が流れる住宅街となっている。その呑龍さまの表参道に、もとは仏具店だった外観、内装を生かした日本茶カフェ[呑龍文庫 ももとせ]はある。

ももとせでは、抹茶、煎茶など、日本各地の数十種類のお茶を、それぞれの茶葉に合う煎れ方で楽しむことができる。

お店のオープンは13時。桐生市にある和菓子屋[香雲堂]から、出来たての上生菓子を毎日仕入れているため、少し遅めのオープンになっている。ももとせでいただける週替わりの上生菓子は2種で、取材時(2020年5月末)の上生菓子は、こしあんを布で絞り形を整えた「あやめ」と、吉野葛製の「水無月」。氷に見立てた三角や小豆には魔除けの意味もあるのだそう。

初夏を感じることができる「あやめ」
旧暦の6月1日に氷を食べることで暑気払いをした宮中行事に由来する「水無月」

この日いただいたのは上生菓子とお茶をセットで楽しむことができる「ももとせセット」。「今月の新茶」は、宇治和束と鹿児島枕崎の2種。熱湯氷出しで、2煎、3煎…と、いただいたところで、茶葉に干菓子の塩昆布を和えてひと口いただく。ほうれん草のおひたしのようで、これがまた美味しい。

氷の上にたっぷりと茶葉を敷きそこに熱湯を注ぐ熱湯氷出しで、すぐに水出しのような旨みを引き出すことができるのだそう
お茶とお干菓子を楽しめる「お干菓子セット」も。塩昆布が絶品

誰かを想い選ぶ道具

呑龍文庫 ももとせを主宰するのは、木口和也さん。木口さんは東京の神楽坂でデザイン会社nMAKE inc.の代表も務めている。ももとせがオープンしたのは2011年、東日本大震災の1週間前だったという。

店内を見渡すと、陶芸作家の二階堂明弘さんの器など、工芸品が販売されている。木口さんは「最近は、お皿を買うとなると、大型ショッピングモールなどの大量生産品ばかりになってしまいますよね。ももとせでは伝統工芸品や、手作りの作家の道具を使う機会を作り、その良さを知ってもらうきっかけを作りたいんです」と話す。

「ぼくはお茶を飲みながら何かをする『茶風景』を広めたいと考えています。お茶を中心にした世界観を作って伝えていきたいんです。だから器などの道具が好きな人は道具からお茶の世界に入ればいいし、可愛い和菓子が好きな人は和菓子から入ればいい。きっかけはなんでもいいんです。ハマったら楽しくてしょうがないはずです」

さらに「道具は使ってこそ」という木口さん。「同じお茶でも道具が変われば、あるいは同じ道具でも茶葉が変われば気分が変わります。今日はこういう可愛い子が来るから可愛い器にしようとか、今日は目上の素晴らしい人が来るから、とっておきの器にしようとか。準備する時間も、相手のことを考えることで自分も楽しい。誰かのために悩む時間って、日常ではなかなかないですよね」

呑龍文庫 ももとせ主宰の木口和也さん。30代で茶道の世界に目覚めて以来、お茶を中心に色々なことが広がってきたという

“一生”という枠で茶道と向き合う

工芸品を知ってもらうためにも、お店でも自分でも惜しみなく道具を使っていく木口さんだが、お茶の世界では干支に合わせて12年に一度しか使用しない器なども多い。このように「時間軸が長いこと」も、茶道の面白いところだと木口さんは言う。

「普通だと、例えば『定年まで』とか、一定の短い時間でしか物事を考えないですが、茶道の場合は、“一生”という枠で、死ぬまでのことを考えるんです。茶道は時間軸が大切で、関わる時間が長い方が、より遠くに行くことができるんです」

木口さんの通う茶道教室は群馬県内。木口さんは普段は東京でデザイン会社を経営しているため、ももとせのオープン以来9年間、週末は東京から群馬まで車で片道2時間弱かけて通っているという。

「ものづくりの仕事をしているとオン・オフの区別がないんです。定時になって家に帰ってもオフにならない。ぼくはワーカホリックでデザインの仕事も大好きだから、東京にいるとずっとデザインの仕事をやり続けてしまう。それが群馬に向かって車を走らせていくとCPU100%で動いていた頭の中が、どんどんクールダウンしていく。物理的に離れていると心に余裕ができて、そこにお茶を入れ込むことができるんです」

東京ではデザイン、群馬ではお茶、としっかり切り分けをしているという木口さんだが、デザイナーならではの視点でお茶を捉えている。

「ぼくは茶道は“グリッドデザイン”だと思っていて(笑)。例えば畳などの和室自体もグリッドです。そこに水指を“センター合わせ”で畳半畳の場所に置く。それを感覚的な目分量で一発で位置を決める。視覚的錯覚も考慮されていて、ど真ん中に置くとずれて見えるから、水指は少し手前に置くんですね。この視覚的錯覚は千利休の時代からあり、茶道をやっている人たちは、そういうことを普通にやっているんです。もちろん誰もグリッドデザインなんて言葉を知らないんですけど(笑)」

東京と群馬。物理的な距離をつくり仕事は切り分けてはいるが、木口さんにとってお茶とデザインは切っても切り離せないものであり、相互に影響し合っているようだ。

書棚には、建築、アート、サブカルチャー…とさまざまなジャンルの書籍が並ぶ。
すべて木口さんが好きな本ばかりで、まるで木口さんの頭の中を覗き見しているようだ

「みなさん1時間はいますね。長居するお客さんが多いんですよ」と木口さんが言うように、美味しいお茶とお菓子をいただき、ついつい本に夢中になってしまうと、あっという間に時間が過ぎてしまう。

「そろそろ外に行きましょうか」

自粛期間で人とお茶するのが久しぶりだったという木口さんに、青空の下でお茶を淹れていただくことに。後編では、売茶翁さながらの屋外お茶体験の様子をお届けする。

木口和也
1973年、愛知県豊田市出身。企業プロモーションすべてをこなすデザイン会社nMAKE株式会社代表。日本茶カフェ「呑龍文庫 ももとせ」亭主を務める。茶道 表千家。日本茶の活動を通し、伝統文化の現代生活へのフィッティング方法を模索し、次世代へ繋ぐ活動を続ける。
instagram.com/donryu_momotose (呑龍文庫ももとせ Instagram)

Photo: Yu Inohara
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki

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