• 「揉みたて」でお茶本来の姿を伝える 宇治[売茶中村]中村栄志さん<後編> 新しくておいしいお茶を目指して

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    「揉みたて」でお茶本来の姿を伝える 宇治[売茶中村]中村栄志さん<前編>製茶機械のあるお茶屋さんを見学

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    2023.07.14 INTERVIEW日本茶、再発見

    京都宇治に昨年オープンした日本茶専門店[売茶中村]。店内では喫茶に製茶場が併設されており、「揉みたて」のお茶を飲むことができる。通常お茶を「揉む」行程は農家や製茶工場で行われるわけだが、どうしてそれが可能になったのだろう。また、工程を伝えるということにこだわる先に、どんなあり方を目指しているのだろう。

    店主・中村栄志さんは、宇治に170年以上続く茶商[中村藤吉本店]の家系に生まれた。幼少期から祖父母や父の仕事を側で見ていて、将来お茶屋になるということはおぼろげながら頭にあったという。

    中村さんは大学卒業後、鹿児島県霧島市にある[西製茶工場]で修行を積んだ。最初の3年間はお茶時期の数ヶ月のみだったが、後からは年間を通して住み込みで働くようになり、延べ6年半、茶の栽培、加工、販売まで全般に携わった。

    「お茶の仕事の酸いも甘いも経験させていただきました。自然相手の現場ではもちろんトラブルも起こります。修行に行く以前は『このお抹茶はこうつくられてるんですよ』とか『このお茶はこういう味が』などとお話していましたが、現場を経験することで、それまでの言葉が薄っぺらかったのではと思うほど、お茶の見方が深くなりました」

    膨大な量のお茶の品種を扱いながら、様々な育て方を試す。そんなことを繰り返すうちに、自然とお茶の知識と技術は身についていった。[西製茶工場]には60ヘクタール(甲子園球場約15個分)もの農地がある。時に、農作業に追われ、途方に暮れることもあったという。

    「18歳までスポーツをつづけていたので体力には自信がありました。スポーツだと、マラソンでも球技でも終わりがあるので、どこまで走ればいいかわかってプレイできる。でも、畑での仕事は終わりが想像できないこともあるというか」

    技術・知識以上に、タフさというものを身につけたことが、前例のないお店づくりを実現できた理由の一つだと感じた。

    茶畑から生産流通までを経験したことで生まれた視点が、まさに「揉みたて」を味わうという[売茶中村]のコンセプトでありチャレンジだった。

    「農家さんがつくられている個性をダイレクトに伝えること。熱意を持ってお茶づくりをしている人には、伝えるべきこだわりもある。そうした個性やこだわりが伝わる方が、お客さまにとっても面白いと思いますし、しっかりと消費者に伝えられるように意識しています」

    お茶を淹れる際の中村さんの解説も素晴らしいが、やはり製茶を自ら行うその姿を見ることで伝わってくることがある。本当にお茶が好きなんだろうなと。

    「お茶の魅力がわかるお店ができて嬉しいわ」

    伝統ある宇治のお茶関係者からもこうした声が聞かれるそうだ。挑戦には波風が立つものと思われがちだが、そこに熱意があればきっと伝わるのだと教えられた。

    新しくてかつおいしい日本茶を

    そんな話をしていると、ビールサーバーのようなものから緑の液体を注いでくれた。「NITRO GREEN TEA」は、[売茶中村]のもう一つのアイコンになっているドリンクだ。窒素ガス充填のサーバーからは、独自にブレンド(合組)した水出し煎茶がサーブされる。窒素によるマイルドな泡立ちが煎茶の甘味と一体となり、口当たりがよくて、ゴクゴクと飲める。

    NITRO GREEN TEA(700円)

    「新しくて、なおかつおいしいものを作りたいと思いました」と話す中村さん。「揉みたてのお茶」というかなりマニアックな挑戦の一方で、お茶に馴染みのない人にも飲みやすいドリンクを提供する、そんなバランス感覚も彼の特徴といえるだろう。

    お茶を淹れる際の手つきも流れるようでかっこいい。作法は?と聞くと「いえいえ、ノリです」と笑う。茶葉の性格を知るからこそ、自然に淹れ方がイメージできている、そんな感じだった

    宇治というと歴史や伝統というイメージがある。しかし同時に、発明やカウンターカルチャーという側面もあると中村さんは教えてくれた。

    例えば、宇治田原から青製煎茶製法を広めた永谷宗円は日本茶の発明家として有名だ。中村さんはその背景には、カウンターカルチャーという文脈もあるのでは考察する。

    「当時、宇治にあったお抹茶文化は位の高い人々が飲むお茶。権力者は、指定された場所以外ではお抹茶をつくることすら禁止していたわけです。そこで、揉むという工程を入れればお抹茶とは別物ですよね、と法の抜け穴みたいなところから、“揉み茶”は発展してきたんじゃないでしょうか?」

    つまり、お茶をつくりたい、飲みたい人たちが工夫した末に、永谷宗円に代表される変革が起こった。それになぞらえれば、「揉みたてのお茶? なにそれ飲みたい」と感じる人が増えることで、もしかしたら大きな変化が起こるのかもしれない、と妄想してしまいそうになる。

    「今、一般的とされる製法にしても、実は100年そこそこの歴史しかない。飲まれ方がいろいろと変化してきている中で、今は新しいものが生まれそうな時代ですよね」と、中村さんは話す。

    「シャンパンタワーみたいに、最初はグラス一杯分だけですけど、そこが満たされたら次の層、その次の層へと広がっていく。そんな“最初の一杯”みたいな存在になれたらいいかなって思いますね」

    今まさにお茶の新しい歴史が生まれている、そう感じた場所だった。

    中村栄志|Eiji Nakamura
    1991年生まれ。京都府宇治市の茶屋[中村藤吉本店]の家系に生まれる。鹿児島県の[西製茶工場]で6年半に渡って茶の栽培から販売に携わった。2022年10月、京都・宇治で喫茶に製茶場を併設した日本茶専門店[売茶中村]をオープン。

    [売茶中村]
    京都府宇治市宇治蓮華49
    12:00〜18:00
    水・木曜定休
    (詳しい営業予定は公式Instagramをご確認ください)
    instagram.com/baisa_nakamura
    baisa.jp

    Photo by Kumi Nishitani
    Text by Hinano Ashitani
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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