• 「揉みたて」でお茶本来の姿を伝える 宇治[売茶中村]中村栄志さん<前編>製茶機械のあるお茶屋さんを見学

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    祇園祭始まる7月の京都。国内外から観光客が増え、市内には活気が戻りつつある。今回訪れた京都府宇治市は、中心街から南に20kmほどの距離、電車で40分くらいのところにある。宇治といえばお茶、お茶といえば宇治、というほどこの地と日本茶の歴史とつながりは深い。

    今から800年以上前に中国から日本へと茶の種が伝えられてから(中国帰りの栄西禅師が持ち帰った種を受け取ったのが京都栂尾・高山寺の明恵上人、そこから京都・奈良のお寺のほか、宇治や伊勢などいくつかの地域へと伝わったとされる)、宇治は第一級の茶産地として、時の権力者や千利休といった日本茶の大家から愛されてきた。煎茶や玉露、抹茶といった現代にもつづく日本茶の文化や製法もこの地で多く生まれた。JR奈良線で宇治駅に向かう途中には「黄檗(おうばく)駅」があるが、そこにはかの売茶翁(ばいさおう)が修行した黄檗宗の大本山・萬福寺がある。宇治という土地を訪れるだけで、お茶の歴史の中に身を置いているような気がしてくる。

    売茶翁は現代のお茶屋・茶人あるいはアーティストやクリエイターたちにも影響を与えている。過去にCHAGOCOROで売茶翁に触れた記事をご参考までに。
    自由で、おおらか。VAISAが切り拓くお茶の道<前編>
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    そんな歴史が深い宇治だが、今回注目するのはそんな地に2022年10月にオープンした新しい日本茶専門店[売茶中村]だ。店主は1991年生まれの中村栄志さん。喫茶に製茶場を併設したこの店では、「淹れたて」のみならず「揉みたて」のお茶を飲むことができるという。それは、前代未聞の営業形態なのだが、その実態はどういうものなのか。5月の「オチャ ニューウェイヴ フェス」で中村さんに出会ってから、すぐにでもその店を直接訪れたいと思っていた。

    店内に“製茶工場”!?

    お店の前まで来るとすぐに、壁に沿って並んでいる機械が目に入ってきた。

    「これが、製茶の機械です」と中村さんは早速説明を始めてくれた。

    店主の中村栄志さん

    「製茶」とは、畑で摘採たお茶の生葉を蒸してから、揉み込みながら熱を加えることで乾燥させ、加工品としてのいわゆる「茶葉」をつくる工程のこと。一般的には茶農家や製茶工場が行う。ドリンクとしてお茶を提供するお茶屋は、製茶済みの茶葉を仕入れて扱うのがふつうで、店内で製茶をすることはまずない。

    コンクリートうちっぱなしの壁の前に並ぶ製茶機械。壁面の書は書家の南岳杲雲氏によるもの。「我逢人がほうじん」は禅の言葉で、出会いの大切さを説く。「茶葉の仕入れや、製茶機械、すべて人との出会いのおかげ」という中村さんの思いが込められている

    製茶工場を見たことがない人にとってはもちろん新鮮な景色だと思うが、見たことがある人にとってもまた不思議な感じがするはずだ。というのも、並んでいる機械は見たことのない超小型のもの。1回に投入できる茶葉の量は2kg(仕上がりは400gほど)だという。先日見学させていただいた[奥富園」で小規模ラインとして見せていただいたものでも30kg。[売茶中村]の製茶機械がどれくらい小型であるかがよくわかる。

    小さい分、製茶にかかる時間は若干短いそうだが、それでも1.5〜3時間はかかる。一度にできあがる茶葉の量が少ないのは、コスト・時間的に非効率ともいえるし、何より中村さんの手間暇がかかる。このアイデアを思いついたとき「さすがに無理じゃないか」という意見もあったという。

    しかし、「どこにもない形のお茶屋をやりたい」という一心で、特注の機械で日夜チューニングに明け暮れる日々を過ごしながら、「揉みたて」のお茶を届けている。早速、その工程を披露してくれた。

    微妙なさじ加減で変わるお茶のできあがり

    中村さんは産地に直接赴いて未加工の茶葉を調達してくる。その茶葉を冷凍保存しておき、[売茶中村]において都度製茶を行なっている。

    「製茶は基本的に全工程において、葉の内側から水を出しながら乾かしていく作業になります。表面だけ乾いた“上乾き”にならないように揉みながら、温度や風量を調節して進めていきます」

    こちらに向かって解説をしながらも、中村さんは常に機械の中の茶葉に意識を向けている。計器類はあるものの、目視や手触りで茶葉の状態を確かめることは、この小さい製茶機では特に重要だという。

    「この店をオープンする以前、製茶工場に勤めていた時に扱い慣れていた大きな機械とでは、勝手が全く違います! 気温や湿度によってもかなり設定を変えなければいけないです。今でも毎回手探りの状態と言っていいかもしれないです」

    お茶の香りが店内に広がり始めたのは約1時間半後。出来上がったお茶を見せていただいた。「揉みたて」のお茶は手に載せるとほかほかとあたたかい。茶葉がぴんと長く伸びていることも特徴だ。小型の機械では、内部で茶葉同士が擦れることが少ないので、このように真っ直ぐに仕上がるのだという。

    最後の仕上げでは、茶葉の茎や細かい茶葉と残したい茶葉を分別するが、ここでも中村さんならではの工夫がある。「選別しすぎない」というのだ。

    「ふつう、水分が残りやすい茎は劣化の原因になるのでできる限り取り除きますが、揉みたてで飲む分には残しても問題ありません。茎の甘い味わいが生きることで、お茶の味わいがふくよかになります」

    バーのようなカウンターで「揉みたての味」

    この日製茶していただいたのは鹿児島産の「Z1」と呼ばれる品種。正式には品種登録に至らなかったお茶で、Z1というのも試験段階での通し番号。「揉み立て煎茶 我逢」(850円)として提供されている

    目の前で出来上がったばかりのお茶を淹れていただく。店の奥には、ゆったりしたバーのようなカウンターがある。数分前はお茶のつくり手であった中村さんが、今度は淹れ手として対応してくれた。

    干し草のような素朴だけれど落ち着く香り。一口目には透明感といえばいいか、すっと喉を通る感覚に驚いた。二口目、三口目と飲むと、甘味と渋味がじんわり深まっていくような感じだった。

    「出来立てのお茶ってこんなに味が違うんだ、ということを、お茶づくりの現場に入ったことで初めて実感して驚いたんです。どうしても消費者の手元に届くまでには時間がかかってしまう。でも、どのお茶にもこうした“揉みたて”の状態がある。そのことと味わいをどうにか伝える方法はないだろうかと思ったことが、このお店を作るきっかけになりましたね」

    のれんにあしらわれたロゴマーク。中央の縦棒は、揉まれた状態の茶葉がモチーフ。生の葉が製茶され、お湯が注がれて再度開く。その初めから終わりまで、お茶がどのようにしてできているかを伝える場となっている

    茶葉が茶畑から私たちの元に届くまでには、多くの人々の手を伝ってくる。それだけに、製茶されてすぐの茶葉を私たち一般消費者が味わうということは、ふつうはできないこと。その場に機械があって、製茶したご本人がいて、揉みたてのお茶を一杯ずつ淹れてもらえるなんて、やはりここは画期的な空間だと強く感じた。

    後編ではさらに中村さんのことを深く掘り下げる。お茶修行のこと、そして今後[売茶中村]をどんな場所にしていきたいか、詳しく伺った。

    中村栄志|Eiji Nakamura
    1991年生まれ。京都府宇治市の茶屋[中村藤吉本店]の家系に生まれる。鹿児島県の[西製茶工場]で6年半に渡って茶の栽培から販売に携わった。2022年10月、京都・宇治で喫茶に製茶場を併設した日本茶専門店[売茶中村]をオープン。

    [売茶中村]
    京都府宇治市宇治蓮華49
    12:00〜18:00
    水・木曜定休
    (詳しい営業予定は公式Instagramをご確認ください)
    instagram.com/baisa_nakamura
    baisa.jp

    Photo by Kumi Nishitani
    Text by Hinano Ashitani
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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