• 来る秋の養いレシピ
    [鎌倉 蕾の家]佐藤千佳子さん <前編>

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    秋分を過ぎてもやや汗ばむ陽気に恵まれているけれど、ひと雨降れば秋が本格化しそうな気配の神無月。色々な予定が急に動き出したり、夏の疲れがここにきて溢れそうという方も多いのでは。

    今回は、実りの秋らしく季節の料理とお茶について、[鎌倉 蕾の家]で料理教室や体験コースを提供する佐藤千佳子さんにお話を伺いました。お茶とともにほっと一息、身も心も整うような料理の作り方もご紹介いただきました。

    海とお茶のくらし

    江ノ電の由比ヶ浜駅にある[鎌倉 蕾の家]は、お菓子・料理教室、金継ぎや書道のワークショップなど、暮らしにまつわる文化が体験できる古民家カルチャーハウスだ。11年目を迎えた今年3月には改修を経て大きくリニューアルした。

    女将として料理とお茶を担当する佐藤さんは、この場所でのお茶の受け入れられ方を楽しそうに教えてくれた。

    「土地柄、ヨガをやる女性が多かったりします。朝、海でヨガをやって、ここまでみんなで散歩してきて、縁側で瞑想して、お茶飲みながらお昼ご飯を食べるっていうとても羨ましいプランもあるんですよ。ヨガや瞑想をやった流れで、こういう食事やお茶のお話もできるのはとてもいいんです。身体を整えることが好きな人は、お茶にもとても興味を持ってくれる人が多い印象。特にお茶を淹れる所作が気になるみたいで、『どうやったらきれいに淹れられるんですか?』って聞かれることがよくあります」

    [蕾の家]が掲げる“海とお茶のくらし”というテーマは、この土地と人にぴったりなようだ。人気の「季節の昼茶漬け体験」は、佐藤さんが丁寧に急須でのお茶の淹れ方を教えてくれることからスタートする。

    佐藤さんが茶葉3g、70℃のお湯を量って急須に入れてくれる。1分の砂時計が落ちきったら、自らお茶を淹れる。

    「茶葉が淹れ口の方に偏ってしまうので、反対側を手でトントンと叩いてみてください。そうすると最後の一滴まで注ぎやすいでしょう」

    この日のお茶は2種類から選ぶことができた。写真は熊本県水俣で無化肥・無農薬のお茶づくりを行う[桜野園]の「むかし釜茶」(釜炒り茶)。もう1種類は、浅蒸し茶が有名な静岡・川根産からあえての深蒸し茶

    「小学生の頃は、保健室前に貼ってある食材と栄養のポスターをずっと眺めているような子でした」と話す通り、料理好きは子供の頃から。どこかのお店で料理の修行をした経験はなく独学で料理をつづけていたが、30代で思い立って、日本各地のおばあちゃんの家に飛び込みで家庭料理を習いに行ったことがあるのだそう。

    「東北から九州まで。今行っておかないと、もう聞けなくなってしまうかもしれないという思いもありましたね。昔から伝わる『無駄にしない』っていうさまざまな工夫や知恵を受け継ぐことができて良かったと思っています。だから物はいっぱいいらない。私の料理の基本も、お塩とお酒だけなんです」

    カウンターの奥の“台所”で料理の準備を進める佐藤さん。ここからは各料理の作り方も一緒にご紹介させていただこう。

    「養いの碗」

    黄色が映える菊の花と合わせた餡の下には蓮根とお豆腐が。茶杯ごとせいろで温められた、ほっこりとあったかい一皿目。

    「まだ暖かい日が続いていますけど、そろそろ季節が変わるので、食べ物を通じて身体に対するお知らせができたらいいと思っています。少し前まではとうもろこしの冷たいもの、もっと寒くなってきたら生姜をしっかり使ったり。蓋を開けた時の湯気もよくて、中田光さんの茶器を使うことにしました」

    【材料】絹豆腐・蓮根(人数に合わせて適宜)、出汁(200cc)、酒と塩(小1/4)、菊の花・片栗粉(適宜)
    ❶絹豆腐と薄切りした蓮根を碗に仕込んで 5〜6 分蒸す。
    ❷出汁と調味料を合わせて温める。沸騰したところに水溶き片栗粉を流し込み、固めにとろみをつける。
    ❸サッと熱湯に沈めて氷水に取った菊の花を❶に散らし、上から❷をたっぷりかける。

    「走りと旬と名残と」

    「日本の旬には、これから来る『走り』とそろそろ終わる『名残』というのがあって、そうした旬の前後も含めて取り込むようにしています。すると食材の幅も出てバランスも取れていい。よく来てくださる方は、この一皿の中で旬だった食材が名残になり、新しい走りの食材が入り、という変化に気づいてくれて嬉しいんです」

    この日のお皿で言うと、万願寺とうがらしが「名残」、茄子、椎茸、かぼす、里芋が「旬」、さつまいも、大根、牛蒡が「走り」といった感じ。往く季節と来る季節が線で感じられる。野菜が持つ味を引き出す調理はどこまでもやさしく箸が進むが、すぐに食べてしまうのが惜しいほど。

    里芋の白煮
    【材料】里芋 (5 個)、出汁(500ml)、薄口醤油(大1.5)、みりん(大2強)、塩少々、米油(適宜)、胡桃ときな粉(適宜同量)、塩少々
    ❶たっぷりの水から入れて 2 分ほど下茹でした里芋を、出汁・調味料と共に別鍋に入れる。
    ❷紙蓋をして 20 分ほど静かに炊き、そのまま冷ます。
    ❸軽く煎ってすり鉢で擂った胡桃ときな粉、塩を合わせて添える。

    牛蒡の含め煮
    【材料】牛蒡(1本)、以下里芋の調味料と同じ(別々に調理)
    ❶皮を薄くこそげて洗う。ペーパーを被せた上からすりこ木などで叩き、ヒビを入れる。
    ❷食べよく切り分け、出汁と調味料と共に鍋に入れる。水1カップを加える。
    ❸紙蓋をして 20 分程中火で炊きそのまま冷ます。(煮汁が減ってくるので途中上下を返す)
    ❹汁を切って小麦粉(又は米粉)を薄くはたき、中温の油でさっと揚げる。

    茄子の焼き漬け
    【材料】茄子(2本)、出汁(50ml)、粗製糖・醤油(各大1)、酢(大1/2)、赤唐辛子少々、米油(大2)
    ❶食べよく切った茄子を、皮目から油で香ばしく焼く。
    ❷焼いたそばから合わせておいた調味料に漬け、そのまま冷ます。

    大根の塩漬け
    【材料】大根(適宜)、塩(大根の1%量)
    ❶大根をごく薄くスライスし、塩と共にポリ袋に入れる。
    ❷均等に混ぜ、空気を抜いて口を閉める。2 時間以上置いてなじませ、キュッと絞る。

    さつまいも檸檬煮
    【材料】さつまいも(1本≒300g)、水(500ml)、甜菜糖(80g)、みりん(大1)、レモン汁(大1)
    ❶鍋に水、甜菜糖、みりんを合わせ中火で 1 分ほど煮詰める。
    ❷さっと水に晒してあく抜きしたさつまいもを加え、紙蓋をする。
    ❸コトコトの火加減で 10 分炊き、一旦冷ましてさらに 10 分炊いてそのまま冷ます。
    ❹仕上げにレモン汁を回しかける。

    万願寺とうがらしの白和え
    【材料】
    万願寺とうがらし10本、出汁(400ml)、酒・塩(各小1/2)、絹豆腐(1/4丁)、塩・ごま油少々
    ❶万願寺唐辛子は素焼きし、出汁・酒・塩に浸け込む。
    ❷絹豆腐・塩・ごま油をボウルに入れてホイッパーで滑らかに混ぜる。
    ❸食べる直前に、食べよく切った❶と❷を和える。

    椎茸
    【材料】椎茸・塩(各適宜)
    ❶椎茸は石づきを切りおとし、カサをさかさにして香ばしく焼く。塩を振る。

    「走りと旬と名残と」と一緒に2煎目をいただく。

    「1煎目では低めの温度で旨味甘味を狙ってみました。今度は少し温度を上げて、渋味といったお茶の違う味を探しにいくということをしてみましょう。茶葉はすでに開いているので1煎目のように待つ必要はなくて、お湯を差したら5秒くらいで淹れて大丈夫です。1煎目と同じように、最後の一滴まで淹れるようにします」

    食事を楽しみながらなので、緊張せず、むしろ素直に「飲みたい! 淹れたい!」と思わせてくれる。

    さて、ここから先のコースは後編にて。メインのお茶漬けに、最後はデザートまで。

    佐藤千佳子|Chikako Sato
    東京都出身。日本茶インストラクター。四季折々の食材を活かした料理教室を20年以上に渡って主宰、企業向けの栄養アドバイスなども務める。今年3月にリニューアルオープンした[鎌倉 蕾の家]では女将として季節の料理とお茶、それに連なる日本の暮らしや手仕事の文化を伝えている。
    お茶と料理のコース体験や料理教室は予約制。蕾の家インスタグラムアカウントから。
    instagram.com/tubomi.tea
    instagram.com/siwori17

    Photo: Taro Oota
    Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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    来る秋の養いレシピ [鎌倉 蕾の家] 佐藤千佳子さん <後編>

    由比ヶ浜の広々とした砂浜から歩いて10分ほどのところにある古民家カルチャーハウス[鎌倉 蕾の家]。そこで女将として料理やお茶のことを担当する佐藤千佳子さんに、季節の料理とお茶をご紹介いただいている。前編では、「養いの碗」に「走りと旬と名残と」という2皿をいただきながら、1煎、2煎と急須を自分の手に取りお茶を淹れた。この日のお茶は2種類から選ぶことができた。熊本県水俣で無化肥・無農薬のお茶づくりを行う[桜野園]の「むかし釜茶」(釜炒り茶)と、静岡・川根産の深蒸し茶。

    2021.10.08 INTERVIEW茶と食

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