• [逗子茶寮 凛堂-rindo-]山本睦希さん<前編>逗子で新たなお茶の時間を紡ぎ出す

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    神奈川県三浦半島の付け根あたりに位置する逗子は、海はもちろんのこと山にも囲まれ、自然の近さが心地よい。都心から車で1時間半ほどの距離だが、からっと涼しい風に吹かれると、別の土地に来た心地がしてくる。

    今回訪れたのは神奈川県逗子市の[逗子茶寮 凛堂-rindo-](以下、[逗子茶寮])。JR湘南新宿ラインおよび横須賀線「逗子駅」と京急電鉄逗子線「逗子・葉山駅」という二つの駅のちょうど真ん中ほど、飲食店がいくつか入るビルの2階に2021年5月、オープンした。店主は山本睦希さん。先月(2023年2月19日)、東京・大手町で開催された「淹茶選手権 2023」では最優秀賞を受賞した。

    京急電鉄の「赤い電車」が停まる「逗子・葉山駅」からお店へは徒歩3分ほど

    [逗子茶寮]は、伝統的な手法と新しい手法を融合する「現代茶室」をテーマとしている。店内に足を踏み入れるとテーブル席、その奥にカウンターがある。白い大きなのれんが陽をやわらかく遮り、店内は落ち着いた雰囲気だ。真っ白いユニフォームに身を包んだ山本さんが迎えてくれた。茶のみならず酒にも造詣が深い山本さんが、昼は「茶寮」、夜は「バー」として営業している。

    店主の山本睦希さん。カウンターで一際目を引く青い茶海(片口のような茶器)は厚木の陶芸家・松本昌樹のもの。天秤はかりやさまざまな形のグラスなど、懐かしさと新しさが織り交じった趣き

    魅せて、現場を伝える一杯の淹れ方

    メニューでは日本茶各種、旬のフルーツとお茶を組み合わせたブレンドティー「旬果茶」などが楽しめ、茶葉はすべて茶農家から直接仕入れている。「キウイとローズマリーの大福」など、お店で手づくりする上生菓子や稲荷寿司も食べられる日本茶のコースも人気だそう。お茶とお菓子のメニューには四季をさらに6つに分けた二十四節季ごとに変わるものもある。古くからの暦をもとにしているのは「より細かく季節を感じて欲しい」との思いからだ。

    この日はまず、旬の果物と茶葉を組み合わせたブレンドティーをいただいた。「愛知県産みかん」と「興梠洋一謹製〝みなみさやか(萎凋釜炒り)〟」を合わせた2月の旬果茶だ。

    まず机に七輪が登場する。山本さんはみかんを丁寧に並べて火にかけると、皮を器のようにして茶葉をそこに入れた。みかんの皮の中で釜炒り茶を焙じるのだ。香ばしい香りが店内に広がる。

    次になんと、ワイングラスにみかんの皮を載せ、直接そこにお湯を注いだ。「ハンドドリップできるよう、みかんの皮にあらかじめ穴が開けてあるんです」とタネ明かしのように教えてくれる山本さんに、「わぁ」と思わず歓声を上げてしまった。ドリッパーの役割を果たすみかんの皮から、ポツポツ雫が滴る。

    「こういう間を楽しんでいただきたいと思っています。じらされるとおいしく感じますよね」と朗らかに言う山本さん。

    「ドリップに使ったワイングラスのままお出しせずに、一度茶海に移し、そこからこちらの香りがすっと上がってきやすいグラスに入れてお出しします。このひと手間で苦味・渋味の成分が落ち着いて、香りもやわらかくなります。」

    焙じたてのスモーキーさが前面に、奥には釜炒り茶がもつ花のような香り、ほのかにみかんの香りが混ざり合い、他ではなかなか味わえない一杯だ。2煎目では苦みが軽くなり、茶葉の香味も開いてくるため、丸みのあるグラスに替えて淹れてくれる。飲む人の意識を刺激するような、細やかな心遣いが素晴らしい。

    みかんを焼くことが新鮮に映ったと伝えると、「そうですか? 昔、私の祖母がみかんをストーブの上において焼いて食べていたんです。焼くとお芋みたいにほくほく甘くなるんですよ」と山本さん。

    七輪で焼かれたみかんは、たしかに焼き芋のような甘さが出ていて、お茶との相性も抜群。交互に口に含みたくなる。見事なパフォーマンスだけではなく、気持ちがほっとするようなお話がお茶の時間をさらにおいしくしてくれる。

    「お茶に愛着」を感じてもらう会話の時間

    隙のない所作でお茶を淹れる山本さんを前にすると、話しかけてはいけような気になってしまう。そんな感想を伝えてみると、「いえいえ、もういつでも話しかけてください!」と山本さんは笑って応えてくれた。

    「自分はよく話しながらお茶をお淹れする方なんです。お茶の葉の話だけではなく、茶農家さんのこともお伝えしたい。何歳くらいで、どんな方なのか、どんなお茶づくりをされているのか、ゆっくり話をします。そうすることで愛着が湧いてくると思うんです。こちらの茶葉は宮崎県の興梠洋一さんが、釜で炒ってつくるお茶。宮崎の釜炒り茶のつくり手でもとても有名な方ですよ。興梠さんの茶葉は全体的に白い花や果物の香りがあるのでみかんとの相性が良いですね」

    お茶を淹れる前には茶葉の状態を「拝見」させてくれた。「萎凋釜炒り」「宮崎県五ヶ瀬」「みなみさやか」と書き添えられた茶葉を手に、どんなお茶が入るか想像がふくらむ

    茶葉を仕入れる際には必ず現地に行って、自らの目で見て決めるのだそう。土地を見学し、栽培方法を学び、茶農家の話を聞く。その中で「心意気」が互いに合う方を探すのだという。「茶葉は必ず茶農家さんから直接仕入れています。第一産業の方から買い、ここが第二産業になるように。そうやってリアルを伝えたいです」と現在は静岡、佐賀、福岡、京都、埼玉、宮崎の茶葉を扱っている。「若手の茶農家さんを応援したいという気持ちもあります」と話す山本さんは、取材の2日前まで佐賀・嬉野の茶農家のもとを訪ねていたという。「嬉野はあったかくて、やっと新芽がでてきていました」といった温度感のこもったお話が聞けるのもありがたい。

    一つのお茶をいただいただけでも圧倒されてしまうほどの山本さんのサービングの技術と世界観。そうしたスタイルはどこで身につけたのか。つづく後編では、ワインのソムリエ修行のため京都から東京へ、そして現在の逗子での生活に至る山本さんのルーツを探る。

    山本睦希|Mutsuki Yamamoto
    1988年生まれ、京都出身。20代より銀座のフレンチレストランにてソムリエの下積みを経たのち、葉山のミシュラン四つ星ホテルに専属ソムリエとして従事。茶道、煎茶道を学ぶ。日本茶、酒の魅力を伝えるべく2021年5月3日、[逗茶寮 凛堂-rindo-]を開業。

    [逗茶寮 凛堂-rindo-]
    神奈川県逗子市逗子5-1-12カサハラビル逗子B-2F
    茶寮 12:00~16:30(LO.16:00)
    BAR 17:30~24:00(LO.23:30)
    不定休(詳しい営業予定は公式Instagramをご確認ください)
    rindo-zushi.com/index.html
    instagram.com/rindozushi

    Photo by Taro Oota
    Text by Hinano Ashitani
    Edit by Yoshki Tatezaki

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