• 100種類のお茶割りは色物ではなく自由を伝える
    お茶を知った自分の使命 [茶割]多治見智高さん<前編>

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    [茶割]は2016年9月20日、学芸大学にオープンした居酒屋スタイルの飲食店だ。まもなく6周年を迎える[茶割 学芸大学]、2号店として2019年3月にオープンした[茶割 目黒]を中心に展開している。

    大衆居酒屋でお父さん世代が飲むイメージの焼酎の緑茶割り=お茶割りだが、[茶割]を訪れるのは20代の女性客がメインだという。その魅力はどこにあるのか? [茶割 目黒]を訪れ、オーナー・多治見智高さんにお話を伺った。

    オーナー・多治見智高さん、[茶割 目黒]の店先にて

    お茶割りに特化したお店を出すまで

    「[茶割]を始めたのは26歳のときでした。元々、飲食はやっていなくて音楽をやっていて。生演奏を聴きながら食事ができるというヨーロッパにあるような感じのレストランでバイオリンを弾いていました。あるときにそのお店が閉まると聞かされて、演奏するところがなくなると困ると話をしていたら、『自分でやってみたら?』と言われて。お店を」

    アーティストとして活動していた多治見さんのキャリアがそうして急転換したのは2014年のことだったという。頼りになる料理人の仲間がいたことも後押しして、多治見さんはそのお店を引き継いで2年ほど欧風酒場を営んだ。2年で次の業態をつくることは、一緒に立ち上げたシェフとの当初からの約束でもあった。

    「一緒に始めたシェフに『2年か3年ぐらいで新しいことやらないと飽きちゃうから』って言われていて、口約束みたいな感じで。2016年春くらいからどうしようかと話し合って。次はコンセプトとかちゃんと決めたいねという話をして、色々考える中で、『おじさんドリンクをやろう』と。当時はもうハイボールが流行っていて、レモンサワーが流行の兆しを見せていて。次は、トマトハイか梅干しサワーかお茶割りか、と考えていました」

    答えはお茶割りだったわけだが、その理由からは多治見さんらしさが少し浮かんでくる。

    「当時ゴールデン街でよく飲んでいたんです。元々、焼酎自体は苦手だったのですが、ボトルで飲むようになって、お茶で割ってみると飲めるようになった。お茶自体は子供のころから割と好きで。生まれも育ちも東京なのですが、朝起きたときやお昼とか、いつも親が急須でお茶を淹れてくれる家だったので普段からよく飲んでいました。お茶屋さんに買い物しに行く機会とかもあって、今は見なくなっちゃいましたけど、ほうじ茶の香りを出してるようなお茶屋さんで。好きだったんですよ。それが原体験としてあったのが一つです。あと、雑誌でお茶特集が3年か4年に一回くるのが見えていたので、お茶割りだったら流行るだろうと」

    子供時代からの馴染みと、大人になって嗜んだカルチャーと、そして冷静なビジネス感覚と。多治見さんのバランス感覚が導いたのが[茶割]という、それまであるようでなかったスタイルだった。

    キャッチーな情報と、確かなクオリティ

    [茶割]の代名詞になっているキャッチフレーズは、「100種類のお茶割りと100種類の唐揚げ」だ。多い。お茶割りと唐揚げで200種類も!?と掴みは外さない。

    10種類のアルコールに10種類のお茶が用意されていて、その組み合わせを自由に選択できる。10×10でたしかに100通りだ。唐揚げにも同じような表が用意されていて、部位違いなど10種類のお肉に10種類の味付けで100通り

    [茶割]を紹介する記事やウェブページではまっさきに「100種類」が見出しになる。「来たことのない人にとっての文字情報としては、やっぱり“唐揚げ100種類”というのが一番いいなと思っていて」。多治見さんの狙いは功を奏していると言っていいだろう。

    一方で、お店でメニューを開くと(と言ってもLINEを通じて自分のスマホで見ることができるシステムだが)、「茶割の逸品」「本日のオススメ」にも品数豊富、美味しそうなフードが並んでいる。

    「文字情報としては『100種類』ですが、お店に来たら他にもメニューがいっぱいあるって気づいて、頼むとこういうしっかり料理が出てくる。そうするとまた来てみようっていう気持ちになりやすいかなと」

    フックになるポイントが何重にも工夫されている。多治見さん流のサービス精神の形だ。料理とお茶をいくつか紹介していただいた。

    定番の一つ「緑すぎるポテサラ」(600円)。マッシュポテトに抹茶を混ぜ込んでいる。「普通のポテトサラダではきゅうりや玉ねぎで苦味、ベーコンで旨味などを構成しているが、抹茶があればそれらがいらないほど」と[茶割 目黒]の厨房を任されるシェフの河野渓真さんが教えてくれた。食感をプラスするために刻んだたくあん、見栄えの演出にもなるしらすが加わるが、主役は抹茶とのこと。お茶割りはジンを「おくみどり」の釜炒り茶で割ったもの。ちなみに、お酒を混ぜないお茶ももちろん楽しめる。

    こちらは「日の出製麺所 謹製 茶割うどん」(800円)。香川の日の出製麺所から取り寄せる麺は、讃岐うどんにしては少し細めで、茶殻をふんだんにつかったタレによくからむ。お好みで別皿の山椒の出汁を加えても美味しい。お茶割りは甲類焼酎に「おくみどり」の煎茶。

    こちらはまず青い飲み物が気になるはず。「青いさんぴん茶」はバタフライピーというアントシアニン豊富なハーブをブレンドした一杯。ピンクの一皿は「桃とモッツァレラのアールグレイマリネ」(700円、季節限定)。

    「アールグレイというのは紅茶のことではなく、ベルガモットで着香した茶葉という意味なんですよ。普通は紅茶ですが、これは牧之原の[カネ十農園]さんが煎茶にベルガモットで着香した日本茶としてのアールグレイです」(多治見さん)

    桃とモッツァレラのピンク・白に対して緑色で合わせるにしても、なかなか粋な組み合わせだ。味づくりもかなりこだわっているようだ。

    「桃も少し塩でマリネしているので、噛んだ時に果汁と塩味が一緒に出てくる感じです。バタフライピーは酸に反応して赤っぽく色が変化するので、青いさんぴん茶にピーチリキュールなどを上から入れて色が変わるのを写真に撮るお客さんも多いです」(河野さん)

    多治見さんが「実は隠れたイチオシ」というのがこちらの「茶葉と鯛のお茶漬け」(750円)。出汁ではなく、お茶でつくるお茶漬けを出したいとこだわった。刺身でいただきたいくらいの鯛に、「ふくみどり」の煎茶を自ら注いでいただく。山椒のジュレを乗せれば味の変化も楽しめる。

    バラエティ豊富なフードに、飲みやすいお茶割り。若い層から人気なのにも頷ける。

    「これが、例えば、焼酎しかなくて、お茶が50種類のお店をやってしまっていたら、多分こうはなっていなくて。カシスやアマレット、ピーチ(など甘めのリキュール)を頼む方も呼べているのはひとつよかった点だと思います。[茶割]に来て、お茶割りを飲むようになったという話を聞くと嬉しいですね。うまく、道筋を開いてあげたというか、窓口になれるのはいいなって思います」

    「窓口」としてきっかけをつくることに手応えを感じていると話す多治見さん。今月からは、お客さんが自ら茶葉でお茶を淹れてお茶割りをつくるというメニューをスタートする予定だという。新たなきっかけづくりに向かう、多治見さんが大切にするマインドは意外なものだった。お話のつづきは後編で。

    多治見智高|Tomotaka Tajimi
    1990年、東京都生まれ。大学在学時よりデザインやマーケティングの仕事に携わる。卒業後はバイオリン奏者としてアーティスト活動を行い、演奏していた店舗を引き継ぐ形で飲食店経営をスタート。2016年、[茶割]を学芸大学にオープン。
    instagram.com/chawari.tokyo
    instagram.com/chawari.meguro (今回取材させていただいた店舗はこちらです)

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Yoshiki Tatezaki

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