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2020.09.18

日常に日本茶と余白の時間を
[余珀]の正垣夫妻 <後編>

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小田急線の登戸駅の住宅街にある[お茶と食事 余珀]。シンプルだけど絶品な有機栽培を中心とした料理とお茶に、日常と非日常の絶妙なバランス感。「日常に日本茶と余白の時間を」がコンセプトのこのお店の店主・正垣克也しょうがきかつやさんと正垣あやさんご夫妻に、日本茶への想いや哲学について質問をした。

哲学とお茶の時間

— 克也さんは、哲学とお茶を掛け合わせたイベントをやられていると伺いました。

正垣克也(以下、克也) 自分が大学で哲学を専攻していまして、以前勤めていた西荻窪の[Organic Cafe ゆきすきのくに]でお茶のイベントをやったときに、自分の特徴を活かして、哲学とお茶を掛け合わせてみたんです。

— [余珀]が表現する「余白の時間」というコンセプトに合いそうですね。

克也 そうですね。お茶は、内省する、自分を見つめ直すという時間に合いますし、哲学者の数だけ哲学があると言われていますが、哲学は「人間がどう生きるのか」ということにも関わってきますので、お茶と哲学は相性がいいと思います。自分の考えていることや思っていることをゆっくり見つめ直し、それを言葉にしたり表現するときに、お茶があると覚醒しながらもリラックスすることができる。この「哲学とお茶の時間」というイベントではいろいろな人とちょっと真面目な話をするのですが、感情的になりすぎずみんな落ち着いています。ゆっくり内省しながら自分の思っていることを伝えたり、考えを整理できていたようでした。

正垣文(以下、文) 「哲学とお茶の時間」は、もやもやした思考を言語化するのが目的でした。どんな方でも、普段口にしにくい社会問題や個人の悩みを言語化していく。哲学者の思想を学ぶのではなくて、“それぞれが哲学する”時間なんです。思考をすっきりさせるのにお茶がぴったりで。お茶は仏教とともに伝来し、お坊さんが修行中に眠気覚ましに飲んでいたとも言われていますが、問答したり考えたりするのにもお茶は助けになっただろうなぁと思いますね。

無意識に気持ちいい状態

克也 お茶を淹れることで、いろいろな気づきがあると思います。わざわざお茶を淹れるために時間をとらないといけない。お湯を沸かして、茶器を準備して、お湯を冷まして、茶葉を何グラム入れて、何分待つのか。一連の時間をとることだけでも、特別です。

— 準備するということで毎回「ゼロ」から始まる感があるのと、身体性を伴うのも意味があると思います。

克也 そうですね。身体を動かすことで、細かいところで日々の違いを感じることもできますし、整ってくる部分もあると思います。ミハイ・チクセントミハイという心理学者のフロー理論にも通じるものがあるような気がしています。

— フローとは、どのような概念でしょうか?

克也 フローの状態とは、やっていることに高度に集中していて、やっていることと自分が一体化しているような半分無意識的で気持ちいい感覚、没入感と言っても良いかと思うのですが、以前、とある海外の茶道家の方がお話しされていたこととも似ていて印象に残っています。それは「茶道では、稽古を積んで集中すると半分無意識に身体が動いてお点前ができるようになるが、自動的に動くだけでなく、その状態で自分をさらに意識化して見つめ直すことが大事だ」というような内容でした。この感覚が茶道の面白さの一要素だと思いますし、煎茶を淹れる場合も同様のことが言えるかと思います。身体性を伴って何かをやることで心が整っていく。そういうところは実感としてありますね。

お茶の美味しさに気づいてもらう

— 最近は、急須でお茶を淹れない方が多いですが、そういう声は実際に聞かれますか?

克也 そうですね。若い方だと普段、急須でお茶を淹れない方は多いですね。「急須でお茶を淹れますか?」と聞くと、「あまり使って淹れないですね」と答える方も多いです。そこで簡単に目安となる淹れ方を説明しますが、基本的には「あくまで参考なのでお好きなように淹れてください」とお話しします。自由に楽しんでもらえたら。

 旨みの強いお茶を出したときなどは、「お茶ってこんな味がするんですね」と、味の違いにびっくりしてくださいます。「お家でも急須で淹れたくなった」という、お茶を淹れること自体を楽しく感じてくださったり、いいものとして受けとめてくれるお客様が多いですね。

身体に優しいお茶を飲んでほしい

— 日本茶はたくさん種類がありますが、余珀で扱っているのは、無農薬のものが中心ですね。茶葉を選ぶポイントはありますか?

克也 余珀全体としては、まずプラントベースでグルテンフリーのものを使用しています。完全にオーガニックは難しいのですが、できるだけ誰にとっても安心して食べられるものを選んでいます。最近はお肉を食べない人も増えてきていますし、農薬や肥料のことを気にされる方も多いです。なかにはお茶にも農薬が使われているのを知って、お茶を飲まなくなる方もいらっしゃるのでそれはもったいないなと思います。お茶の健康効果は大きいと言われていますので健康を気にされる方にこそ飲んでいただきたいです。
余珀の方向性としては、お茶もできれば無農薬で、肥料も使っていないものも選びたいですが、それはすごくチャレンジだと思います。お茶の場合は、他の物と違い、旨みが評価の対象になるので、肥料を使わないのはけっこう難しい。
でもあえてそういうところにチャレンジされている方々の想いも大事にしたいです。できるだけ農薬を使っていないお茶や有機栽培のお茶に目を向けつつ、でもそうではない美味しいお茶も自分たちが知りたいですしご興味のある方には提供できるようにしたいので、そこも余白(=可能性)として残せたらいいなと思っています。

— 現在、ANAのサイトでクラウドファウンディングのプロジェクトとして九州の農家さん支援する「七人のちゃむらい」というユニットに参加されていますね。

克也 今年の新茶の時期にコロナ禍で農家さんが収穫しても卸す先が閉じてしまったり、行き場がなかったりして、価格が下落してしまったんです。それで、なんとかできないかと思い、お茶でつながっている7人で応援できるかたちを急遽立ち上げ、一員として参加しています。

— いろいろな業界の人たちがお茶でつながり、一丸となって取り組むのは面白いですね。まさにお茶でつながる「茶縁」ですね。

克也 それは本当にその通りだと思います。お茶を習い始めて、そこから人生が変わりました。お茶を習い始めていなければ、おそらく、登戸で日本茶のお店を開くことなんてなくて、ずっと会社員のまま働いて安定した人生を送っていたと思います。お茶で人生が変わり、お茶で縁が広がっています。余珀は、日本茶に触れる入り口となるような場所にしていきたいですね。

正垣克也・正垣文|Katsuya & Aya Shogaki
2020年3月、登戸にオープンした[お茶と食事 余珀]の店主夫妻。趣味の美術館巡り、食巡りを通じて建築家・堀口捨己の建物の中で北大路魯山人の器を用いて食事をした体験から日本の文化・美に傾倒、お茶の世界に入るきっかけとなる。自然派茶道「星窓」で茶道を学ぶ。ふたりともに「七人のちゃむらい」のメンバーとして活動する。
instagram.com/yohaku_japanesetea_cafe (余珀)
instagram.com/seven_chamurai (七人のちゃむらい)

Photo: Yu Inohara
Text: Rie Noguchi
Edit: Yoshiki Tatezaki

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