• お茶に救われ、
    お茶に夢中になった
    富澤堅仁さんのライフ
    <後編>

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    お茶の素晴らしさはまだまだ眠っている

    「国産お茶フェス 2020 in 東京 with カンファレンス」では登壇してインタビューも受けた、熊本県益城町[お茶の富澤。]の富澤堅仁さん。そこでは、震災からの「復旧」ではなく、そこに新たなチャレンジを上乗せした「復興」を目指して開発した「熊本抹茶」について語った。 

    「震災前は、地域にうち含めて3軒の茶園があったのですが、地震で受けた工場のダメージが大きかったり、2軒の茶園さんは再建が難しいということで閉じてしまいました。でも、そこは県の品評会で賞を獲るような素晴らしい茶畑で、茶の木も12〜13年目と一番脂が乗る時期。うちでやればなんとか間に合うので引き継がせていただきたいとお願いして貸していただきました。そこで普通の煎茶をつくるのではなくて、チャレンジの部分をやろうと思って。玉露の畑をつくって、ちょうど稼働した碾茶の生産ラインを活用して、本来の定義に合う抹茶をつくりました」

    90%以上の遮光で20日以上の被覆栽培、碾茶加工、熟成を経て石臼で挽くという本来の製法を踏襲した、熊本では初の抹茶

    この抹茶は今年の新茶時期に正式にリリースする予定だという。他にも、[お茶の富澤。]には面白いお茶のラインナップが揃っている。「単」とつけられたシングルオリジン(単一品種の茶葉で、それぞれの特徴が味わえる)のラインには、前編で紹介した“奥豊か”など個性的な茶葉が並ぶ。「香」はフレーバーティーで、苺ほうじ茶やレモン緑茶など、惚れ惚れするような香りと味が楽しめる。なかでも面白いと感じたのは「合」のブレンド。市販されているお茶のほとんどがいくつかの異なる種類・畑の茶葉を合わせたブレンドであるが、[お茶の富澤。]のブレンドラインの面白さは、「時間軸」に合わせて提案されていることだ。

    「一種類のお茶を買ってそれを飲み続けちゃうことって結構多いと思うんです」と話す富澤さんの言葉に、「確かに」とハッとさせられる方も多いのでは。

    「これだけお茶って種類があるのに、それはもったいないなと。そこで、1日を朝、昼、夕方、晩と4つに区切って、それぞれの時間帯に合うお茶をつくったんです。

    まずは「朝の8時 苦味とさっぱり」から始まる。頭をすっきりと冴えさせる苦さと、口をさっぱりとさせる飲み口だ。「昼の12時 甘みとすっきり」は、甘みがありながらすっきりとキレがよくランチと合う味わい。どちらも熱湯で淹れて美味しく飲めるのも、忙しい日常のなかで飲みやすいお茶を、と気が利いている。「15時の一休み まろやかと余韻」は、70度程度にゆったりと湯冷ましをして、仲間とお菓子を食べながらいただくイメージ。リラックスできるように旨みがしっかりと感じられるようになっている。最後は「夜の21時 静かな夜の浸透」と名付けられ、ゆっくりと自分の時間を過ごしながら睡眠へと向かう流れに寄り沿う。焙煎することによる心地よい焙じ香と低いカフェインが気持ちを落ち着かせてくれる一杯だ。

    「お茶をシーンによって分けて飲むというという文化ができるんです。そこに、今までお茶を飲む習慣のなかった人が例えば10人入ってきて、その10人がまわりの何人かと一緒にお茶を飲むようになる。そのような良い環境でお茶を飲む人が増えていけば、お茶の原料が足りなくなっちゃうようなこともあり得ますよね」

    お茶の未来のために、「新しい喫茶文化の創出」ということを富澤さんは意識している。

    「今まで、お茶の世界では、『若い人たちはお茶を飲まない』と決め付けちゃっていたんです。こうして色んなところでお茶を出させてもらうと、そうではないと感じます。でも家でどうやって飲めばいいか、まず急須やお茶を選ぶところからわからないという人が多いんです。まず急須を知ってもらうこと、お茶を知ってもらうこと。それがスタイリッシュにできればいいですよね」

    急須や湯呑みなど茶器を自分で選んで揃えれば、それだけでひとつの楽しみになるし、時間や気分に合わせてお茶の種類を選ぶことができれば、水分補給だけではない日常の“潤い”が感じられるはずだ。そして、その好循環は飲み手だけではなく、生産者や職人にもおよんでいく。

    「『苦味とさっぱり』は露地栽培のお茶の苦味を活かせます。短期間しかかぶせる(ワラや寒冷紗などで茶園を覆い、遮光をすることで旨みの強いお茶をつくる)ことができないお茶というのも、どうしてもあります。そのすっきりした甘さを『甘みとすっきり』に当てはめてあげることで、従来の市場では高値がつかないお茶にも価値が生まれるんです。今までとは違う発信の仕方をして、新しい喫茶文化をつくっていけば、浅蒸しや露地のお茶にもスポットが当たるし、自分のお気に入りの茶器を使うようになれば、日本の伝統文化がリンクしてくる。それを日本人がみんなでワンチームとして海外に持っていくこともできると思います」

    新しい感覚でお茶を楽しむ茶屋が増えていることも刺激になっているという。

    「(Tea Bucksの大場)正樹くんがやっているイベントとか、あの感覚でお茶を楽しむって、もうニューカルチャーだと思っていて。日本茶ニューウェーブだなぁと。自分は一次産業にいて、まわりにはまだそれに気づいていない人がいるから、もっとそこを変えていきたい。お茶の素晴らしさはまだまだ眠ってますから」

    相変わらずの熱さで、一層嬉しそうに語るトミケンさん。地元に帰ると、「またケンジが変なことしよる」と言われるのだそう。しかし、異端だと言われても、楽しいから仕方がないという富澤さんは、ほんとうにお茶に夢中なのだと感じた。


    お茶の富澤。
    熊本県上益城郡益城町で栽培・製茶・販売を行なう茶農家。震災後は地域に残る唯一の茶園となったが、4代目の富澤堅仁さんを中心に、意欲的な茶葉づくりで全国に熊本のお茶の魅力を発信している。人と人、食事とその空間、たくさんの何かを繋ぐ存在としてお茶を考え、お茶屋[Greentea.Lab(グリーンティーラボ)]も運営する。
    www.ochanotomizawa.co.jp
    www.instagram.com/greentea.lab (Greentea.LabのInstagram)

    国産お茶フェス ocha-fest.jp

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Yoshiki Tatezaki

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