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2020.01.31

お茶に救われ、
お茶に夢中になった
富澤堅仁さんのライフ
<前編>

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第5回となる「国産お茶フェス 2020 in 東京 with カンファレンス」が、1月17〜18日、東京ミッドタウン日比谷のイベントスペースで開催された。26カ所の茶農園・団体が一堂に会し、100種類近いお茶が並んだ。九州、中国、四国地方や静岡、また関東から多くの茶農園が参加し、生産者から解説付きで直接お茶を淹れてもらえるという貴重な機会には、若い世代の男女の参加も目立ち、お茶への強い関心が感じられた。

今回、CHAGOCOROでは熊本県上益城郡の茶園[お茶の富澤。]4代目の富澤堅仁さんにインタビューをすることができた。2016年4月に発生した熊本地震で甚大な被害を受けた益城町で富澤さんを救った茶畑のエピソード、そしてお茶の魅力と未来について語るひたすらに熱い富澤さんのストーリーをぜひお伝えしたい。

[お茶の富澤。]4代目園主の富澤堅仁(けんじ)さん。国産お茶フェスには今回が初参加

震災という非日常で、日常を取り戻してくれた新緑の景色

益城町は、熊本県の中央北寄りに位置する。熊本空港の近く、山と川に恵まれた地域で、9〜10月ごろには赤い彼岸花が約2kmにもおよんで木山川の河川敷を美しく染めるのが名所のひとつ。富澤堅仁さんの曽祖父が創業し、2代目のお祖父さんが本格的に茶農家として専業になったのだという。

「曽祖父ちゃんが四万十(高知県)に地域産業を見学する研修のような形で行ったそうです。当時、四万十ではお茶の生産が盛り上がっていて、これからお茶が伸びるよと教えてもらい、在来種のお茶の種を持ち帰ってきました。それを植えたのが始まりと聞いています」

その畑自体は現在なくなってしまったそうだが、種から茶の木を育て、水車で蒸し器のタービンを回していた時代を経て、先代が近代的な製茶工場を整えて現在に至るのだそう。

ご両親から「お前はお茶をやるんだよ」と言われて育ったという富澤さん。静岡での修行を経て、家業のお茶を続けてきた。しかし、2016年4月14日、益城町を震度7の地震が襲う。16日にも再び震度7の揺れを観測した益城町は、大きな被害を受けた。日常が非日常へと急転したとき、富澤さんが見た光景を回顧していただいた。

「幼少期から育ってきた街並みが、見たことのない状態になっていました。知っているはずの家々も潰れてしまっていて。涙なのか何なのかわからないものが、とにかく流れ出してきました。原チャリでうわーってなりながら、崖みたいになっているのを避けて、なんとか畑までたどり着いたんです。そうしたら、めちゃめちゃかわいい新芽がそこにあって……」

実際の富澤さんの茶畑の茶葉たち。
この光景を残したいとプロのカメラマンに撮影をお願いしたという(写真提供:お茶の富澤。)

「すべてのモヤモヤを吸ってもらえたような気がしました。茶葉が『おれたちはここで頑張ってるよ』『ボーッとしてないで、早くちゃんとつくらんかい!』って怒られているような気がして。そこで、『あぁ、もうやろう』って思いました」

地震発生から3日、寝るという行為を忘れるほどに無我夢中だったなか、変わらずに元気に育つ茶畑を見て「ここに日常が残っていた」と感じたという。数時間の仮眠だけをとり、すぐに畑作業を始めた。このとき、3人目の子が生まれてまだ5ヶ月。車中泊で大変な状態を乗り越えた家族にも感謝の念が絶えないという。

「妻もすごくきつかったと思うんですけど、それを乗り越えてくれた。それにも報いなければいけないなと思いました。苦しいことから逃げるのは簡単。でもちゃんと受け止めて、与えられたことをきちっとやろうと思ったんです。考え方が180度変わった。それまでは本当に適当で、なんでも悪いことは『親父が悪いったい』とか他人のせいにしていた。そうやった他人に向けていた指を、全部自分に向けるようになったんです」

これを機にお茶づくりへの向き合い方も変わった。お父さんからの指導のありがたみも腑に落ちた。各地の茶屋をめぐって、美味しいお茶に刺激を受けては謙虚に学び、自身のお茶づくりに活かした。

「お茶が美味くないのは自分に何か足りなかったからだと認めたんですよね。『EN TEA』をやっている松尾(俊一)さんにも夫婦でお話を聞きにいったりしました。昨日、ちょうど松尾さんがいらして『奥豊か』(おくゆたかという品種で、富澤さんはかぶせ茶としてつくる)を飲んで、『富澤くん、すごくクオリティ上がったね』と言ってくださり、とても嬉しかったです。自分のやってきたことは間違ってなかったんだって」

「奥豊か」は今回富澤さんが振る舞ったお茶のひとつで、目の覚めるような鮮烈な旨みに加えて、口いっぱいに美味しさを広げる甘みが特徴。お茶の美味しさがよりはっきりとわかるようにという狙いをもってつくったお茶だ。今回のお茶フェスでは、来場者の投票で選ばれる「緑茶王」を見事獲得した。

「復旧ではなく復興」が必要だという富澤さん。マイナスからゼロではなく、プラスへと持っていかなければいけないと語る富澤さんの口調は柔らかなものだが、ひしひしと情熱が伝わってくる。

「今はお茶について『みんなちがって、みんないい』と考えています。土地土地にいろいろなお茶がある。それが日本茶の魅力で、お茶の世界はそういうふうにできている。否定することがなくなりました。欠点に思われていたことも、特徴としてとらえるとすごく深いんです。苦み、甘み、濃い、薄い、それぞれの好みや、その日の天気。そういったものを汲み取って淹れられるのがお茶。そのことを新しいやり方で伝えていけたら素晴らしいと思っています」

後編では、[お茶の富澤。]がつくるお茶を解説していただきながら、富澤さんが考えるこれからのお茶の世界についてさらに話を聞いていく。


お茶の富澤。
熊本県上益城郡益城町で栽培・製茶・販売を行なう茶農家。震災後は地域に残る唯一の茶園となったが、4代目の富澤堅仁さんを中心に、意欲的な茶葉づくりで全国に熊本のお茶の魅力を発信している。人と人、食事とその空間、たくさんの何かを繋ぐ存在としてお茶を考え、お茶屋[Greentea.Lab(グリーンティーラボ)]も運営する。
www.ochanotomizawa.co.jp
www.instagram.com/greentea.lab (Greentea.LabのInstagram)

国産お茶フェス ocha-fest.jp

Photo: Eisuke Asaoka
Text: Yoshiki Tatezaki

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