• 長谷川愛さんと体験
    冬の茶園から生まれる
    「三年番茶」づくり
    <前編>

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    冬に飲みたい、体が芯から温まるお茶ができるまで

    お茶は常に私たちの身近にあり一年中楽しめる飲み物だ。では、お茶が生産される茶園でも同じように一年中収穫しているかというと、そうではない。お茶摘みは春から秋の間に行なわれるのが基本で、冬は土を育てたり枝を刈り揃えたりと、次の年に向けて準備するのが一般的だ。しかし、中には「冬のお茶」がつくられている場所もある。

    教えてくれたのは東京・青山の国連大学前で年2回行われるお茶の祭典「Tea For Peace」のディレクターを務める長谷川愛さんだ。

    「Tea for Peace」をはじめとしたイベントを通じてお茶の魅力を発信している長谷川さん。海外での経験などを経てお茶への興味がふくらみ、時にヒッチハイクで各地のお茶農家さんを尋ねるなど、お茶の生産現場を多く見てきた。

    生産者と出会いを重ねてお茶の魅力を知れば知るほど、それが人々に十分に届いていないことをリアルに感じていた。そうして始めたのが「Tea for Peace」だった。「コーヒーにはバリスタ、ワインにはソムリエという人が、消費者に素材を紹介する役割を担っているけどお茶にはその役割の人が足りないと思いました。だから、Tea for Peaceがその役割を担う一つの場所になればいいなと思っているんです」

    2018年春の初開催以来、生産者をはじめお茶屋や茶師など、お茶業界の人々がこぞって参加するイベントとなった。長谷川さんは、こうして出会った人たちとの継続的な繋がりを大事にしている。

    「冬のお茶」というテーマに対して長谷川さんが紹介してくれたのは、静岡県島田市川根町の[Peace Tea Factory」だ。番茶専門に生産・販売を行なっている茶工房で、Tea For Peaceに参加して以来、長谷川さんは連絡を取り合っているのだという。長谷川さん自身も今回が初の訪問だというPeace Tea Factoryへ、冬のお茶づくりを見せてもらうために静岡・川根町に向かった。

    くねくねと曲がる山道の途中に茶工房Peace Tea Factoryはある。早速、工房から車で10分ほどの距離にある茶園へ案内してもらう。道路脇には、驚くことに2m以上の高さの木々が乱立していて、数人が切り倒す作業をしていた。

    長谷川さんが完全に見上げるほど背の高いお茶の木

    通常、茶園といえば腰高くらいに切り揃えられた姿を想像するはず。しかしPeace Tea Factoryでは、ここでは3年以上切られずに伸びたお茶の木が多く生えている。それを茎ごと刈り取り、薪で火入れをして「三年番茶」と呼ばれるお茶をつくっている。

    番茶とは、地域によってさまざまな意味を持つことが、一般的には初夏の新茶の時期以降の秋冬などに摘採されたお茶や、地元だけで飲むために作られた日本茶の主流から外れた番外のお茶のことを指し、市場のなかでは低級という位置づけがされる。しかし、ここで作られる三年番茶は、カフェインが葉や枝から抜けて根元に蓄積される冬頃に収穫が行われる。放棄された茶園を改めて活用することで生産・販売されているため、通常の番茶とは一味違う。カフェインが少ない傾向があるため、子供からご年配まで幅広い層が飲むことができたり、熱湯で淹れて冷えた身体を芯から温めてくれたり、冬にはぴったりのお茶といえる。

    ひもで数本の木を束ねながら、膝下くらいのところを電動ノコギリで切り倒す

    Peace Tea Factoryの東洋文さんと内沼良晴さん、田中一孝さんたちが行なうお茶摘みの様子を見て、「普通の茶摘みとまったく違う!」と驚く長谷川さん。生命力の強さを見せつけるかのように高く伸びるお茶の木を切る作業は、まるで動物を相手にしているかのようにダイナミックだ。

    手前がやぶきた品種の茶葉で、奥が在来種のもの

    現在、日本で生産されているお茶の多くが「やぶきた」と呼ばれる品種だ。根と芽の出方が均一で生育が早く、耐寒性に優れ栽培しやすいという利点から、全国に普及している。Peace Tea Factoryではやぶきたの他にも、山などで自生して育つ「在来種」も使用している。「在来種はやぶきたに比べて、葉は小さくて収穫量は少ないけれど、養分がぎゅっと詰まっているのが、いいところなの」と同じくPeace Tea Factoryの柳原由実子さんが教えてくれた。

    収穫したお茶の木をトラックに積んで茶工房に戻った後は、枝葉の掃除を手作業で行なう。少し触って折れてしまう枝や取れてしまう葉っぱ、花やごみなどを取り除いていく。これによりお茶の味に雑味が出ないようになるのだという。

    長谷川さんも丁寧に枝や葉を取り除いていく

    その茶葉や枝に触れながら「冬のお茶摘み」を体感する長谷川さん。後編では、番茶をいただきながら、番茶づくりの意義や目指す未来について話しながら、Peace Tea Factoryならではの焙煎の様子をお届けする。 


    長谷川愛
    青山ファーマーズマーケットなどを運営するメディアサーフコミュニケーションズ株式会社所属。学生時代からのお茶好きが高じて、イベント「Tea For Peace」のディレクターを務める。お茶の多様性を消費者に広めるべく精力的に活動している。次回のTea For Peaceは3月28・29日に開催。
    www.tea-for-peace.com
    www.instagram.com/tea_for_peace (Instagram)

    Photo: Yoshimi Kikuchi
    Text: Ririko Sasabuchi

    ※ 記事タイトルを『長谷川愛さんと体験 冬の茶園から生まれる 「三年番茶」づくり』に変更させていただきました(2020年2月12日)。

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