• 自由で、おおらか。
    VAISAが切り拓くお茶の道
    <後編>

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    異色のメンバーだから届けられる、お茶を飲むことの豊かさ

    前編では「VAISA」の名前の由来でもあり、インスピレーションを受けたという茶人・売茶翁と彼らの活動がリンクする部分を紐解いていった。後編では実際にプロジェクトが走り出した背景と、他業種からお茶の世界へと参入した彼らが、現在肌で感じていることを聞いていく。 

    「VAISA」が始動した2016年というと、お茶のシーンは現在ほど盛り上がってはいなかったはずだ。プランナーの苅込宗幸さんは、「でも雑誌でお茶の特集が組まれだしたのもこの頃からで、これからお茶が流行るんだろうなという気配は感じていました。お茶を楽しめるお店は増えていくと思いつつ、では僕たちはどれだけ今までにないものを生み出せるかが勝負だと考えていました」と当時を顧みる。

    プランナーの苅込宗幸さん

    お茶がふつふつと盛り上がる兆しを見せる一方で、各地でコーヒースタンドの出店ラッシュが起こったのもこの頃だ。アメリカ西海岸から押し寄せたサードウェーブコーヒーのムーブメントが上陸し、加熱している真っ只中である。

    コーヒーが日常に溶け込んだことに対して、苅込さんはこう言及する。「ハンドドリップで抽出したコーヒーが市民権を得たのは、手間がかかることに価値がうまれている証だったと思うんです。ならばお茶だって、ちゃんとした淹れ方を理解し表現できたら、確実にハマる人は存在するはず」

    お茶もコーヒーと同様に、道具から抽出方法までこだわった一杯を淹れたいと思う人は必ずいるはずで、そのニーズは感度の高いファッション業界に集まっていると分析した。それゆえ「VAISA」がスタートしてから1〜2年にかけては、ファッションの世界を中心に様々な企業とコラボレーションし、精力的にイベントを開催。イベントを通して、「いま、お茶がキテる」というメッセージを、自らフロントに立ちながら発信していった。

    イベントを行なう際に大事にしていたのは、売茶翁と同じように、「伝統的な作法やルールにとらわれないこと」だという。

    福岡市内のとあるホテルでポップアップを開催したときのことだ。海外からのゲストが過半数を占めていたようで、お茶を淹れたことがない人も数多くいたが、「たとえやり方を知らなくても、最初は何も教えずに、見よう見まねで感覚的に淹れてもらうんです。だから(湯を入れて)10分もおいてから抽出して『うわっ、苦い!』と驚く人も。その後に僕たちがお茶を淹れるんですけど、別にプロではないから、おいしさうんぬんでは正直ない。でもお茶を淹れてみたり、飲み比べたりする過程において、“お茶は自由なんだ”ということを感じてもらえたら」と郡司淳史さん。

    「ぼくたちがやっているのは茶道じゃないと思っています。伝統的に正しいとされていた価値観、たとえば『この角度から見える、やかんから出ている湯気の後ろにある、襖の景色が綺麗で〜』みたいなことではない。だから本当に自由でいいと思うんです。ちょっと大きな話になるけど、これから10年20年と、天変地異のようなことが起きるかもしれない。正しいとされていたことだって、いつ変わってもおかしくない時代に生きているからこそ、一つの正解だけを追っちゃうと苦しいかなって」

    ディレクターの郡司淳史さん

    「茶ハガキ」を筆頭に、「VAISA」が手がけるプロジェクトの対象は、必ずしもお茶好きを前提としていない。むしろ、「お茶に対して特別な感情を持っていない人にとって、何がフックとなるのか。お茶を飲む環境をどうしたら作れるか」を考えている。

    最初からお茶が好きな人をターゲットにしていないからこそ、パッケージの見た目も手に取りやすい、カジュアルなものに仕上がっている。デザイナーの大門さんは、「バイサくん(メインキャラクター)については、僕たちの生活や趣味と距離がなくて、共感を持てそうな絵面にしています」とこだわりを話してくれた。サーフィンやスケートボードをしているキャラクターたち、彼らと近い目線に立つことで、親近感がわくような世界観をつくりあげている。

    デザイナーの大門祐輔さん

    お茶に特別な関心を払っていない人が、その世界に引き込まれるような工夫は味にもある。第一弾でローンチしたお茶は、一般的なお茶の味のイメージとの違いがわかりやすいよう、旨味がありしっかり濃い味のものを意図的に選んだ。

    一口いただいてみれば確かに、今までに飲んだことのあるお茶とは明らかに異なる、舌全体で感じ取れるような強い旨味が印象的だった。

    第一弾としてセレクトされた福岡県産の茶葉「うきは」は、現在もプレミアムラインとして展開中だ

    こうした茶葉は、繋がりのなかで出会った農家さんたちとのご縁を深くしていく過程で商品化に結びついていくことが多いという。お茶でバスリーフ(入浴剤)を開発するという発想をはじめ、既存のお茶の常識を塗り替える取り組みを視野に入れているだけに、彼らと伴走するパートナーたちはみな、柔軟な考え方の持ち主だそう。

    さまざまな人々を巻き込みながら、「VAISA」の活動は広がりをみせている。しかし各々がプロフェッショナルのクリエイターだ。「VAISA」以外のプロジェクトも多数進行している。そんな忙しい状況のなかでも、にこやかに日々を駆け抜けているメンバーたち。テクノロジーの進歩により、対面しなくても進められる仕事が多くなってきた今だからこそ、「誰かと話しながらお茶を飲む」そんな時間の豊かさを一層強く感じているという。

    改めてその価値を見出し、噛み締めている三人が、お茶に対してどのようなアプローチをしていくのか。今後もますます目が離せない。


    VAISA
    「価値ある時間を大切に」というコンセプトのもと、現代の若者に向けて日本茶を熱く、そして愉快に届けている個性的な日本茶プロジェクト。東京を拠点に、様々な分野で活躍する若手デザイナーやクリエイター集団「sinden」により2016年にスタート。
    www.instagram.com/vaisa.jp (Instagram)

    Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
    Text: Shunpei Narita|Edit: Yoshiki Tatezaki

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