MENU

2020.08.04

茶屋すずわ 渥美慶祐さん
伝えたいお茶の豊かさと
茶問屋の矜恃
<前編>

SCROLL

静岡県静岡市にお茶問屋が営むショップ[茶屋すずわ]がある。この店のInstagramで「豊かな人がお茶を飲むのではない。お茶を飲むから豊かになるのだ。忙しない気持ちに一服を」という一文を目にした。感銘を受けた。茶屋すずわの店主にして、170年余りつづく茶問屋「鈴和商店」代表の渥美慶祐さんと束の間のお茶の時間をご一緒させていただいた。

「お茶好きの母数」を増やしたい

実際にお目にかかった渥美さんは、全身からお茶への愛が滲みでている人だった。早速、インスタのあの一文について訪ねてみた。

「お茶って本当に、味わいもそうなんですけど、淹れている時間も含めて、やっぱりどんなに忙しくてもゆったりした時間を10分でも取れれば豊かになるというか、すごくいいものだなってことを伝えたくて書いたんですけど……。なかなか伝わらない(笑)。難しい。もどかしい」

茶屋すずわ店主、鈴和商店6代目の渥美慶祐さん。小さな店内には渥美さんの「好き」が詰まっている

本業は茶問屋という渥美さんが、[茶屋すずわ]を始めたのも、お茶のすばらしさがなかなか伝わらないもどかしさからなのだという。

「あの、いまホントに、お茶を飲む人が少なくなってきているじゃないですか。聞いてみると、お茶が嫌いって人はそんなにいない。そう、だけど、好きっていう人がものすごく少ないと感じる。母数が少ないのかなって。母数を増やす活動っていうのをしたいなと思って」

それで始めたのが、茶屋すずわ。店内にはオリジナルブレンドのお茶はもちろん、作家ものの茶器が所狭しと並ぶ。とくにイラストパッケージのお茶は、渥美さんの「母数を広げる活動」のためにつくったオリジナルのお茶。「めざめのお茶」「おやつのお茶」「おやすみのお茶」など生活シーンに合わせたブレンドを展開している。

「お茶の味や香りではなくて、飲んだときに情景が浮かぶものをつくりたいとぼくは思っていて。産地や品種の名前をつけるのもいいんですけど、お茶にそんなに興味ない人が、品種名や産地名を聞いてお茶を飲むイメージを抱けるのかなって。それで、ネーミングを工夫して、見た目も考えて。そうしたら、セレクトショップや雑貨屋さんにも置いてもらえるようになって。いままで届かなかったような人にも届くようにやっていこうよっていうのが目標です」

上段の缶は左から「おやすみのお茶」「めざめのお茶」「おやつのお茶」というブレンドのお茶シリーズ。下段は左から「薫風」「RICE&TEA」「団欒」「月花蜜」など、テーマに沿ってつくられたお茶。どれも思わず手に取りたくなるかわいいパッケージ

「この『RICE&TEA』って玄米茶なんですけど、お米にこだわりました。お米にこだわった玄米茶ってあまり見たことがなかったんですね。そう思っていたら、おむすびを握るワークショップをする作家さんに出会って、その方から鳥取のお米農家さんにつながったんです。最初は、お米を自分で炒ろうとしたんですけど、なかなかうまく炒れなくて。お米って炒ると水分が飛んで半分くらいになるんですよ。すぐに焦げちゃうし。いろいろ試して、玄米だとちょっと雑味みたいなのが出るので、白米を炒ることに決めて。お米そのままだけでもおいしいのに、お茶と合わせると本当においしい」

お店で扱う道具も作家ものばかり。大量生産品はあえて置いてない。

「同じ急須でもつくり手さんによって全然違っておもしろいですよね。良し悪しではなく、つくる人がそう考えてつくったのかって思えばいい。そして、使う人が考えて使えばいい。そういうのがお茶の時間の豊かさにもつながるし、ひとつでも琴線に触れる道具があれば、使う人の時間というか人生が豊かになっていくのかなぁってぼくは思っている」

渥美さんの言葉が熱を帯びてきた。どうやら渥美さん、かなりの道具好きのよう。

「あはは、はい。ぼくはコーヒーも好きで、やっぱり道具から入りました。一応全部揃えてます。ぼくは道具から入るタチというか……。お茶も、茶器が好きで、湯飲みとか急須とか、道具からお茶にのめり込んでいったんです。だから、この店に置いてある道具はたいてい、ぼくも使ってるんですよ」

ほう! では渥美さんのお気に入りの道具でお茶を淹れてください、とお願いすると、出てくる出てくる、いろんな道具が。どれも愛情たっぷりに使い込まれたのか、いい趣。

作家・谷井直人さんの銀彩が施された宝瓶。左は新品の商品で、右は渥美さんご愛用のもの。使い込んだ色が貫入を浮かび上がらせて、自分だけの一点ものになっている
「壊れて動かないけど好きだから」置いている懐中時計。その右側にあるのが柿でつくった茶通し。
水晶を台にして。どの道具も使い込んでいい表情

「ぼくは、日本の見立ての文化もすごくおもしろいと思っていて、いろいろ見立てて使っています。この白いエッグスタンドみたいなのはふた置きです。この茶通(ちゃとおしは柿の木ですね。子どもと一緒につくりました。水晶が入った石は、近所の川の河口に落ちているんですよ。それを子供が見つけてきて30円だから買ってとか言われて、買うんですけど(笑)。がらくたみたいなものでも、ぼくには非常に価値のある大切なもの。そう、だから、ものの価値ってなんだろうと考えると、背景が見えるか見えないかだと思います。もっと多くの人にお茶の価値をわかってほしいんですけど」

日本人はお茶の価値を見出せていない? それはお茶が日本人の暮らしの中に馴染みすぎていて、当たり前になりすぎているから?

「うーん、いまは暮らしからお茶が離れているって言われるんだけど、普通の人がお茶を飲むようになったのって戦後なんです。75年ほどの短い歴史しかない。つまり暮らしに馴染む前にお茶から離れている。それってすごく怖いよね。お茶に種類があるとか、お茶にいろいろな味があるとかいうことを知られないまま終わっちゃいそうな気がする」

「海外の人から見たら、日本茶ほど珍しいものはないんですよ。このお茶の、普通の、蒸し煎茶って、世界からみればすごく特殊。繊細で細やかで、日本独特の、日本人の価値観から生まれた日本オリジナルの飲み物なんです。うれしいことに、いまはいろんなお茶をつくる農家さんが増えてきた。この先、お茶の多様性というものが、もっともっとお茶を知らない多くの人にまで見えるようになるといい。そうしたら、さらにおもしろくなると思う。道具も、見立ても、味も、香りも。少しでも多くの人にお茶を飲んでもらって、お茶のある豊かな生活を送ってほしいです」

第一印象からお茶への愛が少し滲み出していている人と思ったが、実際は、お茶への愛がたくさんあふれでているお茶の伝道師のような人だった。そんな渥美さんのお話はまだまだ続く。後編では、茶問屋の仕事について話を伺います。

渥美慶祐|Keisuke Atsumi
静岡市の[茶屋すずわ]店主。創業170年の茶問屋・株式会社鈴和商店6代目として茶問屋を営む傍ら、「現代の茶屋、人々の暮らしになくてはならない大切で優しい寛ぎの存在」をコンセプトに、お茶とそのまわりの物を扱う同店を2017年にオープン。これまでお茶に興味がなかった人に少しでもお茶のある暮らしの良さが届くよう、日々発信している。
chaya-suzuwa.jp
instagram.com/chayasuzuwa

Photo: Eisuke Asaoka
Interview & Text: Akane Yoshikawa
Edit: Yoshiki Tatezaki

TOP PAGE