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2020.08.11

茶屋すずわ 渥美慶祐さん
伝えたいお茶の豊かさと
茶問屋の矜恃
<後編>

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「お茶の伝道師」と呼びたくなる、[茶屋すずわ]の店主・渥美慶祐さんの本業は茶問屋の6代目。ご存じの通り、静岡県は日本最大のお茶の産地であり、日本中からお茶が集まる流通の最大拠点。数多くの茶問屋が集まっている。そんな静岡でも、茶問屋「鈴和商店」は創業が嘉永元年(1848年)と、170年の伝統をもつ老舗だ。そんな老舗の茶問屋の主人である渥美さんに茶問屋の役割について伺った。

一杯のお茶の可能性は無限に広がってると思う

「日本茶といっても、味も香りもいろいろ。産地も品種もさまざま。同じようでみんな違う。そしてお茶問屋のそれぞれオリジナルの合組(ごうぐみ)も面白いです」と渥美さん。合組とは日本茶の伝統的な製法で、様々な茶葉を組み合わせる、いわゆるブレンドのこと。

ショップスペースの隣には執務室と「拝見場」がある。拝見場で、何十種類ものお茶を日夜テイスティング(拝見)し、品質を見極めてお茶の味づくりを行う

「それがまたおもしろいところで、このあたりだけで100軒近くの問屋さんがありますが、どこも使う素材のこだわりも違うし、ブレンドの比率も違う。同じ100g 500円でも味が異なる。それはやっぱり問屋さんのおもしろさだと思っていますね。で、またね、ひとつの産地では出せない味をブレンドで出すっていうのが、ぼくらのいちばん勉強しなくてはいけない部分かなとも思っていますけども」

最近では単一品種のお茶も増えているが、日本茶は伝統的に茶問屋がつくるブレンドしたお茶が主流だった。

「そう、ブレンドって、いつからかイメージが悪くなっているような気がするんです……。昔は茶樹を種から育てていたので、なんの品種かわからなくて、いろんな在来品種が混じっていたものを使っていた。いまは、茶樹を挿木で増やすので、やぶきたならやぶきただけの茶葉を収穫できますけど。昔は全部混ぜてつくっていたので、品種がどうのというより、合組しておいしさを引き出す、ということだったと思います。本音を言えばぼくら問屋も、単一産地で買って、単一産地単一品種のものを卸す方が全然ラクなんですね。でもそこでブレンドして出すっていうのは、自分たちの価値っていうか、合組してオリジナルの日本茶をつくり出せなければ問屋のいる意味がないのかな、って思っていて」

拝見場で拝見をする準備が整う。器にあふれる寸前まで湯を注ぎ、専用の道具で香りや味をみる。手前に浅蒸茶、奥に深蒸茶を並べて

合組によって、単一品種には出せないおいしさをつくり出すことが可能だという。そしてそれが茶問屋の存在意義にもつながっていると渥美さんは話す。

「静岡の問屋さんはどこもそうだと思うんですけど、見る技術・テイスティング技術は伝統の技術というかすごいものをもっている。ぼくらの仕事というのは、ひとつの産地のもつ力を見極めて、それを最大限に生かす方法、焙煎や仕上げなどを考えること。それをまた、味と香りを再構築するみたいな形で新しいものとして出せればいいのかな思っていますね。たとえば、山間部の浅蒸し茶であれば、香りも甘みもあるけど、色は出ない。一方、日照時間の長い牧之原あたりの深蒸し茶は、色は出てコクはあるけれど、香りは出てこない。それらの長所長所をくっつけて1+1が3にも4にもなるようなブレンドをしているんです。料理と同じです。1個のトマトでも十分おいしいんですけど、いろんな品種のトマトを使ったサラダにすると味の奥行きや幅が広がりますよね」

生き物であるお茶の葉は毎年出来も違うはず。ブレンドは実際にどのように考えられているのだろう。決まった配合のイメージみたいなのがあるのだろうか?

「完成品のイメージは頭のなかにあるんですけど、ぼくの場合は、実際に試してみないとわからない。味と香りってなかなか記憶に残らないから。それこそ、毎年お茶の出来が違うから、イメージわかないときは、20パターン、30パターン、つくってつくって。で、割り合いを変えながらつくって。夕方につくったものは、朝と晩で味覚がかわるから、翌朝もう一度味を見てって。イメージに近づくようつくってみて、だんだん、だんだんブレンド比率を変えていく。1個の商品をつくるのに、7〜8種類をブレンドします」

湯を注ぐと、浅蒸は色が薄く、深蒸はきれいな緑色。何度もテイスティングしてイメージにあったブレンド比率を導きだしている

産地や品種の特徴を見極めること、そしてそれぞれを掛け合わせたときにどんな味・香りになるか試行錯誤が繰り返される。ブレンドのわかりやすい例を教えてくれた。

「うちの商品だったら、自分の好きなお茶で組み立てます。『天竜』はすっきりして爽やかな香りがします。ここに『玉川』をちょっとブレンドすると余韻が広がる。インパクトを『天竜』で取って、余韻を『玉川』で取るみたいな、香りひとつにしてもそういうやり方があって。基本的には問屋なので、小売店やレストランなどからの注文にあわせてブレンドしてつくることが多いです」

「最近では、北海道の書店さんからの注文が印象に残っています。そこは、ライフスタイル全部を売るというお店で、本に合わせたお茶を作ってください、というオーダーでつくりました。その時ちょうど、原田マハさんの本を読んでいたので、それに合わせて、ふんわりしたものをつくりました。共感してもらえてばいいなあって思う。お茶ってほんと、ライフスタイルに寄り添えるというか、食事のお供だけじゃなくて、小説とも合わせられる。映画と合わせることもできる。お茶ってそういう楽しみもある。一杯のお茶の可能性は無限に広がってると思う」

渥美さんの言葉に、伝統的な合組技術に支えられた茶問屋としての矜恃を垣間見た気がした。私たちもそろそろお茶を、喉の渇きを潤すだけのものではなく、暮らしに寄り添うパートーナーとして迎え入れてもいいのかもしれない。一杯のお茶がもたらす時間にはとてつもない価値が眠っているのだから。

渥美慶祐|Keisuke Atsumi
静岡市の[茶屋すずわ]店主。創業170年の茶問屋・株式会社鈴和商店6代目として茶問屋を営む傍ら、「現代の茶屋、人々の暮らしになくてはならない大切で優しい寛ぎの存在」をコンセプトに、お茶とそのまわりの物を扱う同店を2017年にオープン。これまでお茶に興味がなかった人に少しでもお茶のある暮らしの良さが届くよう、日々発信している。
chaya-suzuwa.jp
instagram.com/chayasuzuwa

Photo: Eisuke Asaoka
Interview & Text: Akane Yoshikawa
Edit: Yoshiki Tatezaki

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