• スタイルはそれぞれ、でも想いは一緒。
    出場者の言葉で振り返る「淹茶選手権 2023」決勝

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    お茶を淹れる技術と表現力を競う 「淹茶選手権 2023」決勝の模様を全編ハイライト!

    お茶を淹れる技術を競う「淹茶えんちゃ選手権」という大会があることをご存知だろうか?昨年2月に初めて開催され、今年2月19日には第2回目となる「淹茶選手権 2023」決勝が東京・大手町で行われた。 コーヒーの世界では、「ワ…

    2023.02.24 INTERVIEWイベント

    2月19日、「淹茶えんちゃ選手権 2023」決勝が東京で開催された。関東、静岡、東海、関西、九州の各予選を勝ち抜いた5名のファイナリストによる淹茶パフォーマンスが披露され、この日初めて顔を合わせた出場者たちも互いに刺激を与え合う舞台となった。

    5名それぞれが「課題茶部門」「フリースタイル部門」という2回の淹茶パフォーマンスを行なった模様は前回の記事でご紹介した。後編では注目の結果発表をお伝えするとともに、パフォーマンス直後の5名へのインタビューを通じて、この大会の今後の可能性を感じ取ってみたい。

    優秀賞と最優秀賞の行方は

    最後の出場者・今村由美さんのパフォーマンスが終わったのは、最初の出場者・山本睦希さんのパフォーマンスが始まってから5時間をゆうに超えた頃。全10回の淹茶パフォーマンスの濃密な時間が終わり、その後数十分に及んだ審査会議を経て、いよいよ結果発表が始まった。

    まず発表されたのは優秀賞。名前を呼ばれたのは、関西予選から出場した日本茶インストラクターの畑寿一郎さん!

    同じ大阪の[多田製茶]が担当した今回の課題茶では、低温と高温それぞれで一煎目を淹れ、そのお茶を“液体で合組する”というアイデアを披露。フリースタイルでは、滋賀・政所まんどころの風土を解説しながら、心からほっとするような平番茶を淹れた。

    畑さんに話を伺うと、こうした淹れ手にスポットを当てる機会は待望していたのだと話してくれた。

    「お手本にできるような淹れ方を見せる人がいるというのが大事だと常々思っていました。こういった大会が昨年始まったことは関係者の方から聞いていて、昨年のパフォーマンスはYouTubeで見ていました。淹れ方が大事と言っている自分がどれくらいできるか、今回チャレンジしてみようと。やってみたら思っていた以上に楽しかったです。他の方のパフォーマンスもやはり生で見て、その後話を聞いてみるとすごく面白い。参加できてよかったなと思います。緊張はしましたけど」

    と笑顔の畑さん。政所でお世話になっているという山形蓮さんはライブ配信を見ていたそうで、畑さんのパフォーマンスに感動しましたというメッセージをすぐに送ってくれたそう。淹茶を披露することで、お茶づくりに携わる人々にも勇気を与えられたようだ。

    政所の平番茶を淹れる畑さん

    さて、つづいてはいよいよ最優秀賞の発表。
    大会プロデューサーの岡部宇洋さん(南品川[茶箱]店主)が読み上げた名前は……山本睦希さん!

    神奈川で[逗子茶寮 凛堂-rindo-]を営む山本さんは、お店のお客様からの「お茶を淹れる大会に出てみては」という何気ない一言から調べ始め、淹茶選手権に行き着いたのだそう。

    「心臓がバクバクしていますが、まず佐藤さんにお礼を伝えたいです」と、発表のスピーチではフリースタイル部門で使用したお茶をつくる静岡[志田島園]の佐藤さんへの感謝を述べた。つづけて「たくさんサポートしてくれたお客様と妻に。それから今日一緒に戦ってくれた茶人の仲間の皆さん、たくさんお茶を飲んでくださった審査員の皆さん。淹れ手が輝ける場所をつくってくださった方々」と感謝を伝えていた。

    営業の後に毎日練習を重ねたという山本さん。バーテンダーの経験があることは、お茶へのアプローチ、所作からも見て取れた。「まだまだお茶の世界では経験が浅い」と謙遜する山本さん。今回もインプットが大きかったと振り返った。

    「しっかり覚えていないほど緊張していていたのですが、やはり皆さん“個の要素”がたくさん出ていました。『こんな淹れ方・見せ方あるんだ』っていう学びの気持ちの方が大きいですね。(他のパフォーマンスを)『真似したいな』って言いながら見ていました。お酒は飲める人がどうしても限られてしまいますが、お茶は基本的に誰でも飲める。それでいて日本のカルチャーでもある。そうしたことを今後もどんどん訴求していきたいと、改めて感じました」

    京番茶を使ってグラスをリンスする(ゆすぐ)山本さん。これによってグラスに香りをまとわせ、紅茶とカクテルをつくるイメージで一杯を組み上げていく

    スタイルは違ってもお茶に対する想いは同じ

    五者五様のスタイルはいずれも見ていて面白かった分、「審査は難しかった」というヘッドジャッジの小幡一樹さんの言葉に共感できる。惜しくも受賞とはならなかったが、素晴らしいお茶の世界を見せてくれた3名の声もお届けしたい。

    東海予選から出場した川端綾子さん(インテリアショップ[interior essence])は、茶器とそのつくり手への愛を感じさせるパフォーマンスが印象的だった。左奥に立つ温度計はご主人が制作した特製のホルダー(横から見たシルエットから「ネッシー」の愛称がつけられているそう)

    「お茶は独学です。20年前、日本各地の農家さんに自分の足で会いに行ける!と気づいてから、自分が気になるお茶農家さんを訪ね歩いてきました。淹茶選手権については、星野村の[髙木茶園]さんや和束の畑さんといった農家さんから『出てみたら?』と教えていただいて参加しました。(他のパフォーマンスも見て)私は感覚的な部分が大きいなと。インテリアショップでお茶の時間を提案しているというのもそうなのですが、雰囲気がいいよね、なんとなくお茶っていいね、使っている道具は何だろうっていうところから入るのもいいと思っています。やってみて、すごく緊張しましたし、他の方の練習量には驚きました。こういう大会がスタートしているということは、お茶の世界にとってすごく面白いことかなって思いました」(川端さん)

    静岡予選から参加した神﨑悠輔さん(占い師・整体師)は、茶道経験からくる美しい所作が印象的。見た人からは「手元が宇宙になっている」という感想もあった。今回は得意のアート的な見せ方から、より緻密にお茶をプレゼンテーションするスタイルを実践できたと言う

    「今年は、実は東海予選の運営に携わらせていただいて、プレイヤーと別の立場としても関わりました。お茶業界としてこの大会はすごく重要だと思っています。スキルのブラッシュアップや知識の共有など、この大会を通じてより進んでいけばと思います。自分自身も去年と違った顔がつくれたので、すごく成長につながったと感じています。去年は哲学や茶器の世界といった方向でしたが、今年はドリンクとしていかに捉えるかというところによりフォーカスできたので、お茶のスタイルは変わったと思います。整体・占いという人の心身に向き合う仕事を通じて、お茶への向き合い方も深まったと感じています。いろんな茶人のあり方があるということが見せられたらと思います。来年も出るつもりです」(神﨑さん)

    九州予選から参加した今村由美さん([茶時遊空間])は、福岡から移動式の茶席と一緒に東京へ。八女伝統本玉露の味香りだけではなく、そのお茶が育つ景色まで味わってもらうパフォーマンスとなった

    「各地の生産者と消費者を結ぶという目的でこの移動式の茶席をやっていますが、土地土地の景色を借りてお茶を淹れられるということも面白さのひとつです。今回、決勝に出場するにあたっては、これ(茶席)を持ってくるか辞退するかの二択だったのですが、出場者の方々にお会いしたかったというのが参加した理由です。皆さんとお茶を共有したいという想い。スタイルはそれぞれの個性なのですが、お茶に対する想いは皆さん一緒なんだなと、答え合わせをしたような感覚です。お茶が単純に好き。それが根本にあって、自分なりに表現をしたり、人とのコミュニケーションにもなるということを今回再認識できました」(今村さん)

    出場者がそれぞれ自分の淹れ方でお茶を披露した今大会。同じ茶葉、同じテーマでお茶を淹れてもこれほどバリエーションが生まれるものかとシンプルに感心してしまう。異口同音ながら「スタイルはそれぞれ、想いは同じ」ということが伝わってくる、お茶の淹れ手による競演だった。

    淹茶選手権|Encha Championships
    淹茶のプロフェッショナル達が一同に介し、その年度の最も優れた「最優秀淹茶賞」の獲得を競う選手権。「課題茶部門」と「フリースタイル茶部門」の二つの競技の合計得点で競われる。
    instagram.com/enchakeikaku
    encha.jp/championships/淹茶選手権-2023

    Photo by Tameki Oshiro
    Text by Yoshiki Tatezaki

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