• 長田佳子さんに教えてもらうお菓子とお茶
    季節のジャムを使ったヴィクトリアケーキ<前編>

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    菓子研究家として、自著のレシピ本や料理教室などを通じてお菓子づくりの魅力を伝える長田佳子さん。2021年4月には東京から山梨県甲州市に居を移し、活動の幅をますます広げている。今回は甲州市の新しいアトリエを訪れ、お茶に合うお菓子をつくっていただいた。レシピも教えていただいたので、ぜひご家庭でもチャレンジしてみていただきたい。

    食材が育つ土地の近くに暮らしたかった

    天井の高い、広々とした一階建の建物。以前ここはワインの貯蔵庫だったという。ワインが有名な甲州らしい。その後は部品の倉庫になったりもしていたそうだが、昨年空き物件になったところを、長田さんがすぐに借り受けたという。

    「隣は画家の友人のアトリエなのですが、この建物全体を見た時にとてもいいイメージが膨らみました。大工さんにテーブルや窓など、大枠の部分をお願いし、あとは自分たちで想像しながら作り上げた手作りの空間です」

    アトリエの目の前の果樹畑には最近ひつじがやってきたのだそう。のどかな空気が流れる

    山梨に移住した理由は、「食材が育つ土地の近くに暮らしたかった」から。料理の世界に進んで以来東京に暮らす日々が長かったが、4年ほど前から都市を離れて産地に近いところに住みたいという思いを温めていたのだそう。アトリエとは別の場所、山の近くでは自ら畑を耕してハーブなどを育てている。

    「長年放棄されていた荒地を開墾することから始めました。見よう見まねで種を蒔いて、毎日水やりをしている間は、こんなに時間を費やして何も育たなかったらどうしよう、とすら思いました。しかし2〜3ヶ月経ったある日を境にみるみる成長し、今度は収穫が追いつかないほどになって。失敗もたくさん経験したので、今年はそこの土に合ったものを中心に植え、なるべくミスを減らしていきたいと思っています」

    冬には雪も降る山梨だが、このエリアは夏場は気温が高く日当たりも良いため、桃、イチゴ、サクランボ、柿などが実る“フルーツ王国”である。

    今回、長田さんに教えていただいたのは「ヴィクトリアサンドイッチケーキ」。真ん中にはさむのは、旬のイチゴのジャム。近くで採れたイチゴを使って、見目麗しいケーキを作っていただいた。

    イチゴジャムと生クリームをはさんだ
    ヴィクトリアサンドイッチケーキを
    [宮﨑茶房]の有機紅茶と一緒に

    こんがりと焼きあがったスポンジ生地は、バターに卵、小麦粉、それからきび砂糖に少しの蜂蜜と牛乳といったシンプルなつくり方。

    「普段ならスパイスとかハーブとかいろいろ入れたくなるのですが、今日はお茶をしっかり味わってもらうほうがいいと思ったのでシンプルにしました。この辺りのイチゴが本当に美味しくて、お砂糖がそんなにいらないほど。柑橘も季節にあっていいかなと思いましたし、キャラメルクリームでもいいし、夏になったらブルーベリーとかもいいですね。お好きな市販のジャムと生クリームをはさんで楽しんでもらえれば」

    美しく、そしておいしい……。レシピは後編で詳しくご紹介

    ヴィクトリアサンドイッチケーキに合わせるお茶として長田さんが選んでくれたのは、普段から愛飲しているという[宮﨑茶房]の「みやざき有機紅茶」。

    「お菓子の仕事を始めてから、紅茶の面白さに気がついたんです。それから中国茶とかハーブティーとか、お茶とお菓子の相性というのを考えるようになって。自分がつくるお菓子は、意外とコーヒーよりもお茶に合うんだなっていうことがだんだんとわかってきたというか」

    「[宮﨑茶房]さんに行ったことはないのですが、熊本在住の茶人である出野尚子さんに教えていただきました。ほどなくして、料理家の細川亜衣さんからお土産にこちらのお茶をいただき自宅で飲んでいたのですが、色がとても綺麗で香りがすっと抜ける感じが気に入っています。お食事だけでなく洋菓子にもしっかり合うんです」

    ティーポットは和歌山で作陶する中本純也さんのもの。胴回りがふくよかな形がかわいいのは「紅茶がジャンピングするようにと下の方を大きくしてほしいと中本さんにリクエストをして、実験させてもらっているところ」とのこと。

    見た目はイギリスのティータイムだけれど、日本のお茶と日本の食材を使っているということに不思議と胸が躍る。おいしいお菓子においしいお茶の組み合わせには、無条件に食べる人を幸せにしてくれる力がある。

    「オープンアトリエをして色々な方に来ていただくようになり、『お客さんが求めているのはお菓子だけじゃなくて、セットなんだ』と思うようになりました。やっぱりお茶があって、喜びが増すし、会話も弾むので。昔の人がお茶を通して色んなことを話し合っていたっていうのは、セラピー的なことでもあり、重要だったんじゃないかなと感じますね」

    お茶を飲むのが一段と楽しみになるお菓子とお話をふるまってくれた長田さん。つづく後編では、ヴィクトリアサンドイッチケーキのレシピをお届けします。

    長田佳子|Kako Osada
    菓子研究家。フランス菓子店、オーガニックレストラン等で10年勤務ののち、2015年に「foodremedies(フードレメディ)」を立ち上げる。お菓子づくりのレッスン(現在はオンラインが中心)や、各地の食材を活かした商品開発などを行う。レメディには“癒し”や“治療する”という意味があり、ハーブやスパイスなどを組み合わせながら体にも心にも嬉しいお菓子づくりが人気を集める。
    foodremedies.jp
    instagram.com/foodremedies.caco

    Photo: Hatta Masaharu
    Text: Yoshiki Tatezaki

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