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2021.05.18

サテサテ カイノユウさんと
静岡[いはち農園]で知る
生きたお茶の姿
<後編>

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お茶を日常のものとして楽しんでもらいたいという想いで日本茶のブランド「SA THÉ SA THÉ(サテサテ)」を昨年ローンチしたカイノユウさんと、地元静岡市の茶園[いはち農園]を訪ねてお茶がつくられる現場を体感。前編では、絶景の茶畑で元気よく伸びた茶の木の新芽に触れて、“生きた”お茶の姿をたっぷりと感じた。

茶畑から歩いて15分ほど山を下り、[いはち農園]が独自に所有するお茶工場へ。以前は部落のお茶農家が集まって共同工場を持っていたが、後継者不足などにより農家は減少、現在この地域では[いはち農園]が最後の農家となってしまった。静岡弁当の大定番という[東海軒]の幕の内弁当で腹ごしらえを済ませて、午前中に摘採された茶葉を加工する過程を見学させていただいた。

茶葉を摘んだらどこへゆく? 変化するお茶の姿を追う

さてさて、CHAGOCOROはお茶のウィキペディアではないので細かすぎる製茶の解説はしないでおきたい。しかしながら、このようにフル回転で新茶を仕上げている工場を見学させていただく機会はとても貴重。美味しいお茶を飲む機会が増えてくる今日この頃、そのお茶の見た目・味・香りがどうつくられているのか、知ってみるのも悪くない。

一般的な荒茶工程は次の通り。
摘採 → 送風加湿 → 蒸熱 → 冷却 → 葉打ち → 粗揉 → 揉捻 → 中揉→ 精揉 → 乾燥

項目は少なくない。むしろ思ったよりも多いし、そして漢字の読み方すら自信がないものだらけ。普段の生活では耳にすることはないプロセスを、暮らしに当たり前の存在であるお茶っ葉は通ってきているということ。そのリアルな現場を[いはち農園]の繁田琢也さんにご案内いただき、カイノさんがしっかりとマイク片手に取材してくれた。

送風加湿 “呼吸をする茶葉”

数時間前に摘採された茶葉は呼吸をしているのだという。ものの例えとして頷けるのだが、採ってきた生葉に手を入れてみると、それはまさに体感として理解できる。

メッシュの容れ物に入った茶葉を下の方からかき混ぜる繁田さんを真似してみると、茶葉が熱を発していることがわかる。生葉はすぐに酸化発酵が起こり、それによって熱をもつ。鮮度維持のために湿度の高い風を送るというのが“ステップゼロ”。

熱をもちすぎてしまうのはよくないことなので、素早く黙々とかき混ぜる繁田さん。その隣で、生葉が生きていることに感動しつつ、この作業を手伝うカイノさんたちの姿があった。

蒸熱じょうねつ “日本のお茶の要”

日本の一般的なお茶は蒸すことで酸化酵素の働きを止め、緑色を保ちながら青臭さを取り除く。他に釜炒りなど方法があるが、いずれにせよ生葉に熱を加えて酸化を止めるという、お茶づくりの中でも決定的なプロセス。蒸す時間によって、「浅蒸し」「中(普通)蒸し」「深蒸し」「特蒸し」と、見た目・味・香りにも特徴が出てくる。

[いはち農園]の蒸し器は、筒の中をネジ状の棒で生葉が運ばれる構造のもの。蒸し時間は21秒と浅蒸しの範囲。

蒸された生葉はしっとりと露(蒸し露)をまとってつやつやとしている。蒸された後は冷却され、色味・香味を失わないようにする。

葉打ち・粗揉 “揉む&熱風で水分を飛ばす”

蒸された茶葉はこの後、「揉みながら」「乾燥する」という主に二つの目的のために、いくつかの機械を通過することになる。

その最初の機械がこちらの粗揉機。

小窓から中を覗き込みながら粗揉機について聞くカイノさん。

繁田 最初は風をいっぱい送って表面を乾かす。ぐるぐる回っているのは「より手」っていうの。それが板にお茶の葉っぱを擦り付けて、茶葉を揉み込んでいく。

カイノ おお! 擦り付けてっているんですね。(回転が)結構速いですね。

繁田 速いね。熱風が奥の壁のところから出てきてて、それで乾かしながら揉み込んでるの。

カイノ へぇ〜!すごい。

繁田 子供なんかは恐がっちゃうね(笑)。この前、小学生の女の子が来たときに、抱っこして見せてあげたら「恐いよ〜! パパ〜って」

カイノ そうなんだ(笑)。たしかに暗くてなんか……歯みたいのが回ってますもんね。

フォークのようになっている「葉ざらい」の反対側に「より手」が付いていて、回転しながら葉をかきあげては板に押し付けることで「揉みながら乾燥」を再現している。

粗揉機から出てきた葉は、しっとりもっちり。粘土やお餅のような感覚。

繁田さんによれば「粗揉の段階で入る火の香り」というものがあるそうで、それは後から火を加えても付けることができないものなのだそう。茶問屋から評価される大きな要素がこの最初の揉む段階から生まれるとのことだ。気が抜けない。

揉捻 “内側の水分を絞り出す”

下にブラシがついた臼のようなものが水平方向にぐるぐる回る特徴的な機械が揉捻機だ。ここでは熱風はあてずに、茶葉をさらに揉み込み、内側から水分を絞り出していく。

カイノ 手で揉むのと同じようになってるんですね。

繁田 そうそう同じ。

こうした複雑な機械が存在するのも、元々は手作業でつくられるお茶のプロセスがあったから。現在も手揉み茶は残っているが、これほどの作業を手で行うのは本当に大変なことなのだということがよくわかる。

カイノ こういう荒茶製造を見るのは初めて。説明としては何度も教えてもらって“分かって”はいるんですけど、実際にどういうものか、今、答え合わせみたいな感じです。

中揉 “まだまだ乾燥&揉む”

カイノさんの背後にあるのが中揉機と呼ばれる機械。「これも粗揉機と同じように、乾燥した風を送って、より手が回っていて揉み込みをする機械」と繁田さん。

中揉機の前にはまだしっとりとしていた茶葉が、少し硬く「コリコリ」になって出てくる。[いはち農園]の工場の中央に、頭上から降ってくるのが面白い。

精揉 “細長く伸びた茶葉の形をつくる最後の揉み作業”

二つのハケのようなアームが回転しながら交互に茶葉を循環させながら、中央の重りの前後移動によって茶葉を揉んでいく機械。

これによって、日本茶独特のピンと針のような形状に仕上がる。ここまでくると、茶葉の水分量は生葉の状態と比べて10%程度まで減少するといわれる。乾燥しながらもきれいな緑色を保った茶葉に「お茶の緑って映えますね」とカイノさん。

最後に熱風にあてる乾燥機を通せば「荒茶」の完成。

工場のすぐ裏で、できたての荒茶をカイノさんに入れてもらうことに。

乾燥して細くよれた茶葉が、お湯に浸されることでまた葉っぱの形に戻る。急須の中で、茶葉のライフが逆再生されたかのよう。

荒茶というのはその名の通り、まだ完成したお茶ではない。茶農家が仕上げた荒茶を、茶問屋が仕入れ、もしくは茶農家自身が、それぞれの特徴を見極めた上で合組(ブレンド)と仕上げの火入れを行う。そうして、私たちが手にする「お茶」が仕上がる。

荒茶は青々と生きた葉を感じさせるようなできたての味。早朝からの摘採、そして4時間かけての荒茶工程。そこからさらに仕上げ。お茶がお茶の姿になるまでには、思った以上に時間と手間暇がかかる。

「まぁでも、楽しいですよね。細々とやってますけど」と繁田さんは笑う。「一農家だけで、お茶の製造に必要な機械を一通り揃えて保有するというのは、資金的にも、とても大変なことなんですが、それでも、なんとかして、無農薬栽培のこだわりのお茶をお届けしていきたい、静岡のお茶畑の景色を残したい、そんな思いで、続けています」と、力強い作り手の声を聞くと、どうしてかお茶がさらに美味しく感じられる。

初めての茶園・茶工場の見学を終えて、カイノさんも「初めてがいはちさんでよかった」と満足した表情だった。

「よく知っているお茶の形状になるには、ああいう経緯があったんだなって。感触もここでしか感じられないものなので、触れることでより理解が進みましたよね。今後サテサテをやっていくのに、説得力ある言葉で伝えていくことは必要だと思っているので、今回の経験はとても貴重でした」

頭にも心にも多くのインプットがあったが、気持ちのよい山の空気のおかげか、繁田さん一家の清々しさか、「お茶っていいものだな」という想いが一行の胸には溢れていた。

カイノユウ|Yu Kaino
静岡県出身。2014年、ファッション誌でモデルデビュー。雑誌、カタログ、広告を中心に活躍。2020年、コロナ禍が一つのきっかけとなり、慣れ親しんだ存在である日本茶が同世代の人たちにとっても日常のものとなってほしいと願い、日本茶ブランド「SA THÉ SA THÉ(サテサテ)」を立ち上げる。
instagram.com/yuio2580
instagram.com/sathe_sathe_official

繁田琢也|Takuya Shigeta
1980年生まれ。静岡県静岡市で120年続く有機茶農園[いはち農園]の15代目。東京でモデルとして活躍しながら家業を手伝っていたが、36歳のときに家業に戻り本格的に茶農家となる。生まれ育った静岡が大好きで、霧立ち上る美しい山峡の茶園を守るべく挑戦を続けている。クラウドファンディングも実施中。
camp-fire.jp/projects/view/408272
ihachinouen.com

Photo: Yu Inohara (TRON)
Text: Yoshiki Tatezaki

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