• サテサテ カイノユウさんと
    静岡[いはち農園]で知る生きたお茶の姿 <前編>

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    ファーストプレイスで、お茶を」で、素敵なご自宅に招いていただきお茶する時間を見せてくれたカイノユウさん。ファッションやライフスタイルを中心に雑誌や広告のモデルとして活躍してきたカイノさんは、昨年お茶のブランド「SA THÉ SA THÉ(サテサテ)」を立ち上げた。地元静岡のお茶屋さんからベースとなる茶葉を取り寄せては、モデル仲間や友人にテイスティングしてもらいながら手ずからブレンドをしてお茶をつくりだしている。

    「どんなお茶がいいか話しながら合組(ブレンド)みたいなことをやってみると、普段お茶を飲まなかった子たちも、『お茶って美味しいね』っていうのを実感できるみたいで。 “お茶はお茶の味”としか思ってなかった人が多いので、『お茶って甘いんだ』とか『こんな渋みがあるんだ』とか『旨みってこういうことなのか』ということが改めて飲み比べてみるとわかるって。『鼻から抜ける爽やかな香り』も、経験して初めて知ったって言われたんです。サテサテはお茶を日常のものとして、当たり前になってほしいなという意味を込めています』

    日常茶飯事の「サ=茶」であり、フランス語で「彼女のお茶=sa thé」という意味を持ち、「さてさて、ちょっと一服しましょう」という言葉でもある。日常に、私たちのものとして、肩肘張らずカジュアルに。そんなカイノさんの提案によって、家でのお茶時間が増えたという人が多くなってきている。

    サテサテをスタートしてから加速度的にお茶のことを学んでいるというカイノさん。お茶ができるまでのプロセスはもちろん知ってはいるものの、現場で体感することはなかったそう。今回は、“モデルとお茶の縁”という珍しいつながりで、静岡市にある[いはち農園]を訪ねることに。快晴の中、朝から畑で作業をする[いはち農園]の繁田琢也さんに案内してもらった。

    新茶ってこういうことか、という景色

    「新茶、新茶」としきりに言われているけれど、売られている茶葉の見た目はさほど変わらないし、その意味するところがよくわからないという方は多いはず。調べれば解説はいろんなところに載っているが、百聞は一見にしかず。まずは、この日カイノさんが見た景色を見てみよう。

    風が草木をなでる音に、ウグイスの鳴く声がこだまする。静岡の市街地から30分かからない場所に、これほど美しい山と茶畑があるとは。静岡市で生まれ育ったカイノさんも、「こんな近くにこんな場所があったんだ」と驚く。2ヶ月ほど前にきれいに刈りそろえられた茶の木の先っぽから、やわらかくも力強い新芽が空に向かって伸びている。

    静岡が誇る清流・安倍川を見下ろす山間に位置する[いはち農園]では、27年間に渡って無農薬・有機栽培でお茶をつくっている。15代目の繁田琢也さんは1980年生まれ。大学在学中からモデルとして活動していて、卒業後も10年以上東京で働いていた。新茶時期に手伝いに戻ることはしていたものの、本格的に家に戻り就農したのは4年前。現在、14代目の父・清治さん、そして母・俊江さんと家族で経営している。

    この日は最繁忙期のため応援の方もかけつけてくれて、朝から新芽を刈っているところだった。

    お茶刈り機を二人で持ち新芽の部分だけを刈っていく。畝間を一本一本歩きながら、何往復も重ねていく
    青空の下、順調に進む摘採

    ここで繁田さんから「ユウさんも(刈る)機械持ってみます?」と一言。「え! いいんですか! 持ちたいです!」と即答するカイノさん。繁田さんのお母さんと交代して、刈り機を握る。

    刃の部分を注意深く見つめながら一歩ずつ進んでいく。繁田さんがジェスチャーで「少し上」「少し下」と、過不足なく新芽を採るための適切な高さを指示してくれる。機械とはいえ、作業する人の注意力が問われる。

    新芽の先っぽは萌黄色に近く、陽の光できらきらしているが、刈り取られると少し緑みが増して茶畑にコントラストが生まれる。新茶がきれいな色と言われる理由も実際に葉を見るとよくわかる。

    さてさて、ひと仕事したところで、お茶を淹れましょう。

    軽トラの荷台に腰掛けるのが茶摘み時の農家スタイル!というわけではないけれど、すごく気持ちがいいので茶畑に囲まれたこの場所でいただきます。

    絶景!

    「あぁ、すごくいい香り。味もすごく濃厚です。やぶきたらしい渋みもしっかりあって、静岡茶っていう感じがするかも。美味しいです」とカイノさん。[いはち農園]のお茶づくりについて繁田さんに教えてもらいながら味わう。

    繁田 うちの農園は基本、有機栽培で農薬を使わないでやっています。一年中草取りに追われながら、自然と共存しながらやっています。

    カイノ 虫もかなりいるわけですよね?

    繁田 そうそうそう、だからうちではカマキリを大事にするんですよ。今日みたいに収穫しているときも、カマキリの卵が産みつけてあったらそれはよけて通るし、ならし(刈りそろえの作業)のときもカマキリがいたら機械を止めて、捕まえて移動させてから始める。カマキリはこの畑にいる虫の中で強い部類だから悪さする虫を食べてくれる。

    カイノ へぇ、いい役割なんですね。

    繁田 大事な役割なんですよ。除草剤とかも使えないし、殺虫剤ももちろんないので、自然の力を借りてやってくしかないです。

    カイノ 昔からそうなんですか。

    繁田 そういうふうになって27年ですね。それ以前は農薬を使ってたんですが、やっぱ父親が農薬を使ってるときに体調が悪かったっていうのと、ちょっと変わり者なので……つくる側の効率優先で、お茶を農薬漬けにして、他の農家と同じことをやっていていいのか、自分がこだわって納得したものを届けたい、というのもあって。当時は、農薬、化学肥料が当たり前の時代だったので、周りからは「何やってんの?」という目はあったみたいです。でも、やめないっていう。父は頑固なんですね。

    カイノ 相当頑固ですね。あとこの地形も、高低差というか、面白いですね。

    繁田 すり鉢状になっていて。朝とか霧が昇ってきたりするんですよ。それもいいみたいですね。あとは水はけも良かったりとか。一緒に見えるんだけど、これ、上半分と下半分で、お茶の芽の伸びが全然違うんですよ。向こうの北側の伸びと反対の南側の伸びも違うんですよ。だから上下と南北で伸びが違うんで、適期を見極めるっていうのが難しいんですけど。

    カイノ そうなんだ。地形とか温度とか。日当たりとかも影響あるんですね。

    この日は収穫が始まって4日目。新芽が成長してきたら収穫は待ったなし。そして、収穫をしたら間断なく製茶を行い、鮮度を茶葉に閉じ込めなくてはならない。まさに寝る間もなくお茶を作り続ける日々だ。それでも「楽しいですね、作ってるときが一番楽しいです」と充実した表情の繁田さん。てきぱきと茶器を片付けると、「じゃあ残りを刈ってきます」とまた作業に戻っていく。

    お昼を挟んで、今度は刈り取られた茶葉をお茶っ葉に仕立てていく工場を見学させてもらう予定だ。「こんな高いところから安倍川を見下ろしたことないです」と、しばし絶景を楽しみながら、繁田さんたちの作業を見守るカイノさん。初めて訪れる茶畑は、最高の思い出になりそうだ。

    カイノユウ|Yu Kaino
    静岡県出身。2014年、ファッション誌でモデルデビュー。雑誌、カタログ、広告を中心に活躍。2020年、コロナ禍が一つのきっかけとなり、慣れ親しんだ存在である日本茶が同世代の人たちにとっても日常のものとなってほしいと願い、日本茶ブランド「SA THÉ SA THÉ(サテサテ)」を立ち上げる。
    instagram.com/yuio2580
    instagram.com/sathe_sathe_official

    繁田琢也|Takuya Shigeta
    1980年生まれ。静岡県静岡市で120年続く有機茶農園[いはち農園]の15代目。東京でモデルとして活躍しながら家業を手伝っていたが、36歳のときに家業に戻り本格的に茶農家となる。生まれ育った静岡が大好きで、霧立ち上る美しい山峡の茶園を守るべく挑戦を続けている。クラウドファンディングも実施中。
    camp-fire.jp/projects/view/408272
    ihachinouen.com

    カイノユウさんも参加する“Ocha ニューウェイヴ フェス”は、いよいよ今週末開催!
    新茶を祝おう! 新たなる茶の波を体感 OCHA NEW WAVE FES

    +Ocha ニューウェイヴなお茶を体験させてくれる人気日本茶店およびブランドが、新茶もしくは各店のスペシャリテをご提供。
    +Ocha Workshop – SA THÉ SA THÉ 緑茶のブレンドワークショップ
    +Food and desert 新茶とともに楽しめる、SAKUUの手作りスイーツ、静岡おでんのほか、人気の定食もご用意。 また、新進気鋭のジェラテリアによる日本茶ジェラートが初出店します。

    Photo: Yu Inohara (TRON)
    Text: Yoshiki Tatezaki

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