• 長谷川愛さんと体験
    冬の茶園から生まれる
    「三年番茶」づくり
    <後編>

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    長谷川愛さんと体験 冬の茶園から生まれる「三年番茶」づくり<前編>

    冬に飲みたい、体が芯から温まるお茶ができるまで お茶は常に私たちの身近にあり一年中楽しめる飲み物だ。では、お茶が生産される茶園でも同じように一年中収穫しているかというと、そうではない。お茶摘みは春から秋の間に行なわれるの…

    2020.02.07 茶のつくり手たち

    広がるお茶の多様性を味わう

    前編に引き続き、お茶の祭典「Tea For Peace」のキュレーターを務める長谷川愛さんと、静岡県川根地区にある[Peace Tea Factory]にて冬のお茶「三年番茶」ができるまでを見学。通常の茶園ではあまり見ることのない2〜3m近くまで伸びたお茶の木に驚き、工房に戻って収穫したお茶の木に付いているごみ取りを終え、つかの間の休憩時間。三年番茶を飲んで冷えた体を温めながら、Peace Tea Factoryのメンバーが川根町で番茶をつくる意義について伺った。

    大きな茶漉しを通して入れられる番茶には飾らない魅力がある

    Peace Tea Factoryで現在つくられている番茶には2種類ある。三年以上放棄された上、人の手が入っていないお茶の木が生い茂る放棄茶園を利用してつくられている「川根薪火二度焙煎三年番茶」。そしてもう一種類の「川根薪火二度焙煎三十年番茶」と名付けられたお茶は、この地で茶農家をしていた代表の東洋文さんのおじいさんがかつて生産していたもので、30年以上生え続けているお茶の木を素材としてつくられている。

    Peace Tea Factoryの茶園に30年以上実生の在来種(種から植えて育てた木)としてそびえ立つお茶の木

    日本一の茶産地である静岡でも、後継者不足などから放棄される茶畑が増えており、深刻な問題となっている。Peace Tea Factoryの番茶づくりは、このような放棄茶園の活用をはじめとして、環境と身体に優しい無農薬栽培、焙煎に使う薪の調達により木の伐採をするなど、森の再生の一助になっている。お茶づくりを中心として、人と地球にとって「良いこと」の連鎖が広がっていく。「環境に優しくて、飲んで美味しい。そして健康にも良いなんて、良いことしかないでしょ?」とPeace Tea Factoryの柳原由実子さんは笑顔で話してくれた。

    和気あいあいとした雰囲気が流れた休憩時間

    川根町では、若い世代を中心に新しい事業に挑戦する人たちも少しずつ増えているのだそうだ。柳原さんは「愛ちゃんがここに住むことになったら町は3年でガラッと変わると思うわ」と笑う。「お茶の生産者さんとお話しすると、いつも地域の町おこしの話になりますね。やっぱり、どこの茶園も後継者問題は深刻で、そもそも人がいないとお茶をつくれませんもんね」と長谷川さん。

    枝を触って一つずつ手作業でごみを取り除いていく。この日はスタッフもお手伝いさせていただいた

    生産者の方からの貴重な話を聞きながらお腹も満たされたところで、もうひと仕事へ向かう。収穫したお茶の木を機械で細かく裁断し葉と茎に仕分けする。その後に行う焙煎作業にPeace Tea Factoryの番茶づくりの大きな特徴があるという。「もともとはガスの火で試してみたのですが、殺青(加熱することで葉の酸化を抑える工程)不足になり、葉や茎の芯まで火が通らなかったため薪に変えました。薪の遠赤外線効果で中までしっかり火が入るので(仕上がりが)天地の差なんですよ」とこの日焙煎を見せてくれた内沼良晴さんが教えてくれる。通常のガス火の焙煎機を、大工作業も得意な田中一考さんが友人と一緒に手ずから薪火の焚口を製作した。

    「ガスの直火でも扱うのは難しそうなのに、薪火のコントロールは更に大変そう…」と長谷川さんも感心していた

    薪火の熱気が工房内に広がる中、薪火のかまどの様子を真剣に見つめる内沼さん。焙煎の温度も三年番茶の味わいを大きく左右するため温度管理は重要だ。途中、一気に200℃まで上げてから160℃くらいまでに下げて温度を安定させることで、茶葉に艶が出る上に味わいは甘くなるのだそうだ。焙煎作業は1時間ほど。終盤は特に温度を一定に保つのが重要で、火の入り具合を感じながら薪を出し入れしなくてはならず、緊張感が高まる。

    焙煎されて機械から出したばかりの葉からはほのかに香ばしい匂いがする

    葉と茎をそれぞれ焙煎した後は袋に入れて、スギ板張りの倉庫内に常温で半年以上熟成する。梅雨の明ける頃にもう一度焙煎にかけ、葉と茎をバランスよくブレンドすることでようやくPeace Tea Factoryの三年番茶が完成する。

    葉と茎がブレンドされた三年番茶。茶葉を入れて水から沸騰させると透明感のある茶色に染まっていく

    今回の茶園体験で改めてPeace Tea Factory独自の面白さを発見した長谷川さん。

    「番茶の収穫はこれまでも見せてもらいましたが、2〜3mほどもある背の高いお茶の木があるのも珍しいし、刈り方も独特で面白かったです」

    青山国連大学前で行われるお茶の祭典・Tea For Peaceは、今年3月に第6回目を迎える。プロデュースを務める長谷川さんは、これまでに多くの生産者と直接会話を交わし触れ合ってきたことで「お茶の多様化」を肌で実感している。お茶の業界では現在、「一番茶」が最も評価が高く、多くの生産者はなるべく早く摘みたての一番茶を生産することに力を入れているが、それだけではなく多様なお茶を生産している茶園が広がっていくことでもっとお茶は盛り上がっていくと長谷川さんは語る。

    「今回のPeace Tea Factoryさんのように、一番茶だけではなく、色んなお茶があって、それぞれに面白さがあるということがもっと広まっていけば、様々なシーンでお茶が楽しまれる光景が増えていくと思っています」

    「ほっとする〜」とこの日何杯も番茶を味わった長谷川さん。カフェインが少ないためたくさん飲んでも安心だ

    一口に「お茶」といっても、季節や時間帯、体調によって実は様々な選択肢があることが垣間見えた冬の茶園見学。夏には青々とした爽やかな緑茶や水出しの冷茶、冬には温かい番茶や香りの良い紅茶など、それぞれのシーンに合わせたお茶の楽しみ方を知ることで、お茶がより身近に、日々に寄り添った飲み物に感じられる。

    「実際に茶園へお伺いすると、土地によってお茶のつくり方に違いが見えて面白いです。いろんなお茶や、その生産者の方を、消費者の人にも知ってもらいたいなと思っています」


    長谷川愛
    青山ファーマーズマーケットなどを運営するメディアサーフコミュニケーションズ株式会社所属。学生時代からのお茶好きが高じて、イベント「Tea For Peace」のディレクターを務める。お茶の多様性を消費者に広めるべく精力的に活動している。次回のTea For Peaceは3月28・29日に開催。
    www.tea-for-peace.com
    www.instagram.com/tea_for_peace (Instagram)

    Photo: Yoshimi Kikuchi
    Text: Ririko Sasabuchi

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