• OCHAの縁を深める
    振り返り座談会
    Ocha SURU? Lab.
    一煎パック編 Part 4

    2021.01.29

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    日常のライフスタイルがたえず変化するなか、お茶のあり方はどうか。「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、現代の感覚で私たちなりの「解」を探すべく、CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねる「Ocha SURU? Lab.」。

    「変化の2020〜2021年、今、淹れたくなるお茶とは?」という問いから、個性豊かなお茶を手軽に、そして自由に楽しんでもらうための一煎パック=「シングルサーブ」が完成しました。

    好評発売中のシングルサーブのアソートでは、伊藤園の「めがみ」(鹿児島)加えて、[お茶の富澤。(熊本)]、[多田製茶(大阪)]、[茶屋すずわ(静岡)]、[VAISA(静岡)]、[奥富園(埼玉)]、[Satén japanese tea(東京)]という7種類のお茶が産地も立場も超えてセットになりました。

    1月某日、改めて今回のOcha SURU? Lab.での取り組みを振り返るためにリモート座談会を開催しました。それぞれの場所にいながらもお茶を飲み交わし、みなさんが感じたことを聞きました。

    ボーダーレスな取り組みが楽しい

    お茶を淹れて乾杯からスタート。「お茶屋さんに目の前で飲まれるのは緊張しますね!」と同じお茶の世界にいるみなさんならではの“あるある話”が聞かれました。

    渥美慶祐 自分は普段からお茶ばかり飲んでいて、自分で淹れる時はそんなに気にしないですが、お客さんや友人に淹れるお茶は過剰なくらいに気を遣います。お茶屋さんに淹れるのは特に緊張しますね。茶殻の色とか香りとかをみてらっしゃると「お茶屋さんかな……?」とか。

    多田雅典 めっちゃわかります(笑)。少しぴりっとする感じありますよね。

    富澤堅仁 すするようにして味を見る方がいらっしゃると「どこのお茶屋さんかな?」と思うことありますよね。これはあるあるですね(笑)。

    同業者としてふとした所作に感じるものがある一方で、すれ違いの方が多いのもまたあるある。それが当たり前な中で、今回は産地も立場も超えたボーダーレスなつながりが生まれた取り組みとなりました。熊本からお茶業界を盛り上げようと積極的に活動する富澤さんは、こうした流れを実感していると話してくれました。

    富澤 2019年に全国8カ所からお茶屋さんを招いて「熊本大茶会」というものをやったのですが、時代が変わっているなと感じましたね。農家でも問屋でも、お茶に関わる人は垣根なくやっていかなければいけないフェーズになってきたんだと感じました。奥富さんとも「産地の違いも関係なくやらないとですね」と話しましたよね。俺らが儲けるというより、何かやることによって日本の茶業界全体に刺激を与えられたら楽しいだろうなと思います。お茶の世界ってまだまだ飲む方に伝わらない部分がたくさんあるので、ボーダーレスにつながることで開けることがあるんじゃないでしょうか。

    [お茶の富澤。]4代目の富澤堅仁さん。直営店[Greentea.Lab]にてお茶を淹れた写真を送っていただきました

    お茶業界における変化について、埼玉・狭山でお茶を作る[奥富園]の奥富雅浩さんも実感する部分があると言います。

    奥富雅浩 今日も20代前半のお客さんがうちまで来てお茶を買っていってくれたんですが、ここ一年くらいで若いお客さんが増えたなと感じています。特に若い世代でお茶の魅力を再発見している人が急速に増えていて、それはきっとみなさんが仕掛けていることがどんどん芽吹いているということかな、と。個人的に次は「あの人が作ったお茶を飲みたい」というのと同じように「あの人が淹れるお茶を飲みたい」というような感覚がもっと広がって、淹れ手が重要な位置を占めるのではないかと思っています。お茶業界に淹れ手として入ってきてくれる人が増えて、活躍できる場が増えれば、そうした人が消費者とお茶屋をつなぐ架け橋になってくれるんじゃないかと思っていて。そのためにどうしたらいいか、色々考えているところです。

    [奥富園]15代目の奥富雅浩さんは茶畑をバックにお茶を淹れてくれました

    #あなたならどう淹れる

    作り手の想いを理解しながら、美味しいお茶の味を伝える立ち位置にいるのが[Satén japanese tea]の小山和裕さんのような存在です。奥富さんの言葉を受けた小山さんは淹れ手からさらに飲み手にまで考えを広げてくれました。

    小山和裕 実はこの企画と並行するようなタイミングで、Satén初のオリジナルブレンドを[すずわ]さんにお願いして作ったんです。渥美さんにはかなりご無理を言ったのですが……。結局、お茶っ葉があっても、それが美味しく飲まれないことにはお茶は完結しないので、そこを含めてのご提案をこれからはしていかなければいけないと思っています。そのSaténブレンドも温度帯によって味わいがけっこう変わってくるんです。お店では高温で淹れるのですが、少し冷ましてあげるとなめらかな味になったり。そういった味わいの変化を飲む方にいかに伝えていくかが僕らの腕の見せどころ。SNSでもハッシュタグで「#あなたならどう淹れる」というのをつけて発信しているんです。どう淹れたら美味しかったか、というのを飲み手のみなさんに問うことって次の段階として面白いんじゃないかと思います。今回のシングルサーブも、手に取ったみなさんがどう淹れるかにすごく興味がありますね。

    [Satén japanese tea]の小山和裕さんはお店のカウンターでほうじ茶を

    渥美 小山さんとは完全リモートでお茶づくりを行なったので、最終的に157種類も今回作ったんですよ。最初は[Satén]さんをイメージして作ってほしいというところからだったのですが、正直だんだんわからなくなって(笑)。でも、僕が面白いと思うものをどんどん出せば、小山さんみたいな面白い人が面白い淹れ方をしてくれるはずだと思いました。奥富さんがおっしゃる通り、若い人がお茶を始めていることを僕も実感していて、そういう人って自由に面白い淹れ方をしてくれるんですよね。おこがましい言い方かもしれませんが、淹れ手と同じように飲み手の方も今育ってきていると思うんです。そういう方達にある程度任せてもいいのかなと。面白がってもらえたり選択肢が広がるものを僕らは作ればいいんじゃないかなと思います。小山さん、すごくきつかったですけど(笑)。

    [茶屋すずわ]6代目の渥美慶祐さんは、ショップにてご自身の好きな道具やモノに囲まれながら淹れる一枚。穏やかな空気感まで伝わってくるよう

    新しい茶道具=OSGKを使って

    小山 Saténブレンドは(ガラスの茶海=小さいピッチャーのような茶器で)すごく簡単な淹れ方をしているんです。それでも個性がわかりやすい。知識や技術に頼らずシンプルな淹れ方でも個性がわかりやすいというお茶が今後増えてくると思っていて、このOSGKもそうしたシンプルな淹れ方を広めるきっかけになるのではと思っています。

    多田 実際に使わせていただいてまず率直に思ったのが、やはり急須とは違った出方をするなと。そこで、「道具に合わせて作るお茶」っていうのもできるかもと思いました。HENGEは急須で煎を重ねてもらうことを考えて作ったお茶ですが、今度はOSGKに合わせて作るのもありかなと思いました。アウトプットである抽出液=お茶がいかに美味しくなるかと考えた時に、茶葉と水と道具という要素があって、それぞれの要素にアプローチして最適なお茶を作るっていうこともできるのではと思わされました。

    [多田製茶]7代目の多田雅典さん陽の光が気持ちいい席で。普段の淹れている姿は貴重とのこと

    渥美 こういったツールができて淹れ方が多様になると、茶葉が届いた先で広がるものもあると思います。野菜と同じような感覚でお茶を売るような。つまり“料理”の仕方は任せるくらいの感覚でもいいのかなと僕は思います。あと、昔溶接の免許を取ったことがあるもんで、茶漉しのクオリティがすごいなと思いました。

    奥富 画面越しにみなさん使っているのを見ていても、透明なグラスに緑色が映えてすごくきれいだなと思いました。グラスがいくつかあるので湯冷ましにしたり色んな使い方ができますよね。例えば、2つのグラスに5gの茶葉を半分ずつ入れて、ひとつは水、もうひとつはお湯で、それを混ぜ合わせて味を決めるとか。そんな実験っぽい淹れ方もできるんじゃないかと思いました。

    プロならではのフィードバックはもちろんのこと、自由な発想が生まれたことを実感できたのはOcha SURU? Lab.としては嬉しい限り! お茶についての話は尽きませんが、最後は今回のデザインコンセプトを担当しチームとしての取り組みの意義について深く考えてくださったVAISAの郡司淳史さんに締めていただきました。

    郡司 今回、こんなに素敵なチームで、いや“ティーム”でご一緒できたことが本当に楽しかったと思っています(一同笑)。これから僕たちがやり続けなければならないのは、問いを立て続けることなのかなと改めて思いました。なぜかというと、答えはお客さんが持っていて、お客さんに委ねるために僕たちはいかにわかりやすいもしくは面白い問いを立てられるか。そうすることで暮らしが豊かになるとか、「Pause & Inspire」という言葉の通り気づきを与えられると思います。「お茶が好き」という共通項から、お茶を通じた豊かさを伝えていくことの第一歩になったのではないかと思います。

    VAISAの郡司淳史さんは、都内の新オフィスで朝の一杯を淹れてくれました

    Ocha SURU? Lab. 一煎パック編をご覧いただきありがとうございました。全国各地にある美味しいお茶を楽しむきっかけに、暮らしのなかで使いやすい便利なお茶のかたちとして、皆さんならでは楽しみ方を見つけていただければ幸いです。

    次回のOcha SURU? Lab.もご期待ください。

    今回ご参加いただいた皆さんの過去の記事もあわせてお楽しみください。
    「お茶に救われ、お茶に夢中になった 富澤堅仁さんのライフ」
    「多田製茶・多田雅典さんの変化を楽しむ茶と人生」
    「茶屋すずわ 渥美慶祐さん 伝えたいお茶の豊かさと茶問屋の矜恃」
    「自由で、おおらか。VAISAが切り拓くお茶の道」
    「西荻窪の街角に生まれた日本茶とコーヒーの交差点 Satén japanese tea」
    「江戸からつづく狭山の茶園 今年もお茶づくりは止まらない 奥富雅浩さん」

    Cover Photo: Taro Oota
    Interview & Text: Yoshiki Tatezaki
    Special thanks to the CHAGOCORO family

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