• お茶のコミュニティを表現する
    パッケージデザインの裏側
    Ocha SURU? Lab.
    一煎パック編 Part 2

    2020.12.29

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    日常のライフスタイルがたえず変化するなか、お茶のあり方はどうか。「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、現代の感覚で私たちなりの「解」を探すべく、CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねる「Ocha SURU? Lab.」。

    「変化の2020〜2021年、今、淹れたくなるお茶とは?」という問いを起点に前回、[奥富園]の奥富さん、[Satén japanese tea]の小山さん、「VAISA」の郡司さんと一緒に自由なお茶との付き合い方、その入口としての「一煎パック」というアイデアについて意見を交わしました。

    そのアイデアに共感してくれた三者に加えて、さらに熊本[お茶の富澤。]の富澤堅仁さん、大阪[多田製茶]の多田雅典さん、静岡[茶屋すずわ]の渥美慶祐さんとこれまでCHAGOCOROに参加してくださった各地でお茶づくりをする三者とともに一煎パックを作り上げていくプロセスがスタートしました。

    みなさんそれぞれに個性とお茶への愛を持った方々だということは、過去の記事でもご覧いただいた通り。各々のこだわりの詰まったお茶を、日常のなかで手軽にセレクトして楽しんでもらうための前例のない試みです。個性とこだわりが強いからこそ、それをまとめるパッケージには統一感と面白さが必要です。

    そんな大役を買ってでてくれたのが「VAISA」の郡司淳史さん。sindenというクリエイティブチームを率いるプロデューサーである郡司さんの新オフィスにお邪魔して、パッケージデザインの裏側を覗かせていただきました。

    自由なお茶を楽しめるコミュニティを表現

    sindenではお茶のプロジェクト「VAISA」の他にも、さまざまな課題を解決するクリエイティブプロジェクトを指揮する郡司さん。

    「僕の役割はどちらかというと、ものごとの大枠というか世界観を考えることです。『これ面白そうだよね』というものを考えて、それにチームで専門的なスキルをもって肉付けをしていくという感じです。ウェブサイトやグラフィックなどの制作から、商業施設のイベント企画などの空間づくりに加えて、新たなアイデアを形にする、お茶のプロジェクト『VAISA』のようなプロダクトづくりを行うことが僕たちの領域です」

    いくつか教えていただいた事例で面白かったのが、「ほめるBar」というもの。大阪の商業施設で行われていたイベントだが、名前の通りひたすらほめるというBarをつくったのだそう。

    「大人になると褒めてもらえないよね?というところから趣味で3人で始めたものが大きくなりました。毎朝早く起きて電車に乗って会社に行って、仕事して夕方帰ってご飯作って寝て、それを繰り返して。よくやってるよねって思いません? そういうことを全部Barでほめるというものです(笑)」

    オフィスには箱いっぱいの茶葉が常備してありました! 思い入れの深いという静岡県富士市[山大園]の「平常心」という書が印象的な煎茶を淹れていただくことに
    都心が一望できるサンルームにて一煎

    お茶を起点として一人ひとりの時間を豊かなものにするというVAISAの考え方にも共通しているように思うのが、郡司さんは人と人とのコミュニケーションが好きなのだということ。仕事をする上でも意識をしているのでしょうか。

    「意識しているわけではないですけど、そもそも人って幸せになったり楽しいことをして生きたいと考えていると思うんです。そのためには何ができるか。そのために例えば面白いことを企画にしていこうというのはあります。いろんなことが発達している世の中だからこそ、みんな『何のために生きているの?』ということを意識していると思うんです。それはポストコロナという話に関係なく。それを考えるようになったきっかけが僕にとってはお茶だった。お茶を飲むという時間を通じて、自分や誰かと向き合い、同じ想いや気持ちを分かち合うことが出来るコミュニティが生まれてくると思うんです。僕にとってお茶は、生きているなかで大事なことってなんだろうな、ということを気づかせてくれる大切な時間をくれるものだと思います。」

    コミュニティというのは人と人が出会い、つながりが生まれることで形成されるもの。お茶を中心とすると、自然と人と人との間につながりが生まれます。それが豊かな時間のきっかけにもなるはずです。今回の一煎パックの取り組みについても郡司さんは「コミュニティ」を一つのキーワードにしたのだと言います。

    「CHAGOCOROでこういう取り組みをするということが前提として大切だと思いました。まさに『お茶を通じた出会いと文化を発信するコミュニティメディア』で、今回もそこで出会ったお茶屋さんと一緒に進める。CHAGOCOROに横串を刺して、それぞれの想いをどう見せていけるか。みなさんのお話もお伺いさせていただき、我々がそれを整理して形にする。CHAGOCOROの想いとそれぞれのお茶屋さんの想いを重ねることを今回のゴールとして定めました」

    そして郡司さんたちが考えたデザインのテストプリントがこの日届きました。

    テスト版を見て開口一番「めっちゃいい感じじゃないですか!」とテンションがあがる郡司さん

    今回参加するのは6つのお茶屋に「GOCORO」の一文字ずつを割り振り、Ocha SURU? Lab.の茶葉を「CHA」としてつけました。並べれば「CHAGOCORO」に。

    「別々のロゴやイラストを持つブランドをまとめる上でデザイン的な課題もありました。お茶屋さんはみんな個性がある。そして一煎というサイズ。そういった制約のなかで、今回のプロジェクトの価値を表現できればと思いました」

    シンプルなデザインに到達するためには見た目以上に熟慮が必要なものです。

    「お見せしていない企画書もあったんですよ。気分によって音楽を聴くようにということがあったので、一週間毎日気分によって選べるセットも考えました。あと「CHA(茶)NGE」。気分を変えることが大事で、お茶がその役割を担うとしたらそれはあなたにとっても「CHA(茶)NCE」なのかも、みたいな。でもこれはVAISAっぽすぎるかなと(笑)。今回はVAISAじゃなくてみんなでやるものだから、何が一番伝わるんだろうって考えました」

    そういった思考のなかで、郡司さんは「共通項を探すこと」を考えるそうです。お茶の味はもちろんのこと、その背景にいるお茶を淹れるかっこいい人の“心”を伝えることができるのではという想いをこのパッケージデザインに込めてくれたのだそうです。

    前回の話し合いも刺激になったそうで、「あの時、小山さんと奥富さんの前でお茶を淹れていて、自分のやり方正しくないかもって思っちゃったんです」と郡司さんは回想してくれました。

    「でも、そういうことではないんだと思ったんです。正解のない時代に入って、自分が『これでいいのだ』と思うことの価値をお茶で表現できるんじゃないかと感じました。だから僕らはVAISAという自由なスタイルでやっていたんじゃないかということに気付いたんです。こうしていいお茶が自分で選べて、熱くても冷たくてもいい、そこは好みで淹れればいい」

    まさにそうした自由な感覚で選びながらお茶を楽しんでもらえたら嬉しいですね。自分の感覚を確かめるというと難しそうですが、試しに一杯淹れて飲んでみるだけでいいのではないでしょうか。

    「人生じゃないですけど、お茶でも選択肢があるっていうのは豊かですよね。いろんなお茶に出合って、今日はこういうお茶って選択をする。そこが自分自身の納得感になる。その瞬間が大事ですよね。まさにライフスタイルに近づいてくると思います」

    「最初はこんな展開になるとは思いませんでしたよ」と笑う郡司さん。「VAISAもダジャレみたいなことから始まって、それが広がっていって、そうしたら『お〜い』って呼んでいただいて(笑)」

    激変の年と言える2020年。そんな年に出会うことができた素晴らしいお茶と心。ぜひ多くの方に触れていただきたいと思います。

    「価値ある時間を大切に」というコンセプトのもと、現代の若者に向けて日本茶を熱く、そして愉快に届けている個性的な日本茶プロジェクト。東京を拠点に、様々な分野で活躍する若手デザイナーやクリエイター集団「sinden」により2016年にスタート。
    sinden.tokyo/
    vaisa.jp/
    instagram.com/vaisa.jp

    Photo: Taro Oota
    Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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