• 「品種の多様性と新しい合組とは?」
    Ocha SURU? Lab. お茶の仕上げ編 Part 4

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    私たちの日常のライフスタイルがたえず変化するなか、
    お茶のあり方はどうだろうか。

    「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、
    現代の感覚で私たちなりの「解」を探求する「Ocha SURU? Lab.」。
    その探求の道のりの中で、
    皆さまの日常の中の「お茶する」時間が
    より楽しいものになればという想いとともに、
    CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねていきます。

    これまでのOcha SURU? Lab.の記事も合わせてお楽しみください。
    シーズン1:Licaxxxさんと一緒に お茶にハマる。 お茶するラボ、始めます。 Ocha SURU? Lab. Part 1
    シーズン2:自分の感覚で選べるお茶とは Ocha SURU? Lab. 一煎パック編 Part 1


    お茶が私たちの手元に届くまでには、想像を超えるほど細かな作業があり、良いお茶を継続して作る現場には人の目と手とあらゆる感覚と経験が活きている。お茶ができるプロセスを辿る今回のOcha SURU? Lab.、かなり深いところまで掘り下げてきた。

    今シリーズのここまでのお話
    製茶問屋がそれぞれにこだわりを持つ「選別」「火入れ」「合組」という仕上げ工程を、その現場で体感させてもらってきた。
    Part 1「お茶はどのようにして 私たちの手元に届くのか?」 (茶屋すずわ/和田長治商店)
    Part 2「お茶に火を入れるとは?」(和田長治商店)
    Part 3「部位ごとの特徴とパーツのブレンドとは?」(多田製茶

    前回に引き続き、大阪・枚方の[多田製茶]で合組を実践的に体験。“パーツのブレンド”を味わった後、多田雅典さんに合組についてあらためて聞いてみる。

    多田 合組というのは、一般的には量を作るため、品質を安定させるために行うというのが多いですよね。例えば1トンものお茶商品を作ろうと思った時に、ひとつの種類のお茶では足りないので、自ずと10種類とかを混ぜて作る必要があります。20〜30キロであればそんなにたくさんの種類を混ぜずに2〜3品種で尖らせた感じを分かりやすくすることもできれば、逆にたくさん混ぜて複雑にすることもできます。どんなお茶を作るかによって変わってきますね。

    多田さんは、CHAGOCOROで披露してくれた「HENGE」や、クリエイターのアートワークをお茶の味で表現する「BYSAKUU」という独創的なブレンドを多く手がけている。量や品質安定のためではない、新しい合組という形を意識しているのだろうか。

    多田 実は昔、と言っても昭和40年前後まで、お客さん一人ひとりに合わせたお茶が合組で作られていたんです。あちらのお客さんはこういう味が好きだから、ということでお客さんそれぞれの味にブレンドしていたんですね。でもそれってすごく大変ですし、売り方としては効率的ではない。だから次第に1000円のグレードのお茶だったらこういうお茶という方向に変わった。そう考えると今はまたひと昔前に戻ってきたとも言えるかもしれないですよね。また品種について言うと、歴史的には「雑種の時代」が長かったんです。それが、明治中期に「やぶきた」が登場して以来、お茶と言えばやぶきたという時代が続いてきました。リスク管理の観点からも品種の多様性が必要とされて約20年前から様々な品種が導入されました。その努力が今、花開いているということだと思います。

    なるほど、お茶づくりの歴史は今も巡っていて、クラフト的な楽しみ方ができる時代が来ているということかもしれない。

    品種を掛け合わせた合組を楽しむ例として、多田さんが用意してくれたのが「かなやみどり」と「はるみどり」という2つの品種のお茶。ここで扱うのはもちろん本茶の部分。それぞれ単一品種(シングルオリジン)として飲んでも楽しめる。それらの配合割合を自分なりに作っていく、という合組の導入演習。

    まずはそれぞれの香りと味の特徴を掴むところから。多田さんにそれぞれの特徴を解説していただこう。

    多田 かなやみどりというお茶は、ミルクのような甘い香りが特徴的です。一方で味は渋みがやや強い。そのミスマッチさに少し違和感があって、そこをうまく補えないかという思いがベースにあります、と。そこで、はるみどりという品種を持ってきます。はるみどりは、かなやみどりの子どもに当たる品種なのですが、香りはやや穏やかで、味は糖のような甘さがあるんです。これを、かなやみどりに合わせることで互いを引き立たせるというブレンドです。

    上田倫史さんと3種類のお茶を飲み比べてみる。

    上田 香りはどれも華やかという感じですね。シングル同士は飲み比べてみるとそれぞれ違いますね。その上でブレンドを飲むと……お〜、面白い。1+1が2じゃなくて、掛け算になってる感じがします。ブレンドは丸くなっている感じがしますね。

    多田 おっしゃる通りですね。そう言っていただけて嬉しいですね。特徴が違うもの同士を掛け合わせると多様性という表現はしやすいですが、こうして同質系のものを掛け合わせることで欲しい味と香りを狙って出すというやり方もあります。ぜひ、割合を変えて試してほしいですね。

    というわけで、かなやみどりとはるみどりの割合を変えることでどんな違いがでるのか、実際に合組をさせてもらうことに。アクセントに粉茶を使うパターンも含め、以下の3パターンを試してみた。

    ①かなやみどり3:はるみどり1
    ②かなやみどり1:はるみどり3
    ③かなやみどり1.5:はるみどり1.5:粉茶1

    上田 はるみどり多め(②)の方が好きですね。③、粉が多かったですね。少なめにしたつもりでしたが、粉茶が邪魔しちゃってます(笑)。なるほど、足せばいいというわけではないんですね。

    多田 そうですね、渋みが強くて、おそらく粉茶のかぶせ香が邪魔しちゃっている感じですね。粉茶を使うとすると、「つなぎ」の役割として深蒸しの露地のおくみどりなんかを足してあげるといいかもしれないですね。②のお茶は、甘いはるみどりのお茶をベースとして、かなやみどりをスパイス的に足してあげた感じですね。

    上田 スパイスみたいに足すっていうのは面白いですね。

    多田 自分がブレンドする時にもスパイス的な考え方は実際するんですよ。かなやみどりはベースとして最初使いましたが、これをスパイス的に使うとすると、例えばやぶきた3に対してかなやみどりを1合わせるとかも面白いかもしれないですね。

    多田 (やぶきた×かなやみどりを試してみて)もっとかなやを足してもいいかもしれないですね。このやぶきたは朝宮というところのもので、同じような甘い香りがあったので意外と隠れた感じですね。

    こうした合組は組み合わせが自由である分、やり始めると試行錯誤の連続。一日に何十種類も試すというお茶づくりのプロにはリスペクトしきりだ。それと同時に、自分でお茶のブレンドができてしまうというのは、けっこう楽しい。足しすぎたり、足らなかったりということはもちろんあるだろうが、こうしてお茶を飲み比べている時間は、それ自体が新しい体験となるかもしれない。

    次回のOcha SURU? Lab.では、今回の仕上げ工程の体験をいかに読者の皆さんとシェアできるかアイデアを考えていきます。

    多田雅典|Masanori Tada
    大阪に160年以上続く製茶問屋[多田製茶]の専務取締役。マーケティング会社に就職し、大手メーカーなどの商品キャンペーンの企画などを手がける。28歳のときに日本茶インスタラクターの資格を取得。「日本茶をもっと楽しく、もっと自由に。」をテーマに掲げるオッサム・ティー・ラボというグループでは、海岸での喫茶などさまざまなイベントを展開してきた。日本茶アドバイザー養成スクールの専任講師(日本茶鑑定)や大手調理師専門学校で日本茶の講師を務める。
    tsusen.net
    instagram.com/tadateaproducts

    Photo: Yuri Nanasaki
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki
    Produce: Kenichi Kakuno (Itoen)

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