• 「この価値をどうやって伝えましょうか会議」
    Ocha SURU? Lab. お茶の仕上げ編 Part 5

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    私たちの日常のライフスタイルがたえず変化するなか、
    お茶のあり方はどうだろうか。

    「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、
    現代の感覚で私たちなりの「解」を探求する「Ocha SURU? Lab.」。
    その探求の道のりの中で、
    皆さまの日常の中の「お茶する」時間が
    より楽しいものになればという想いとともに、
    CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねていきます。

    これまでのOcha SURU? Lab.の記事も合わせてお楽しみください。
    シーズン1:Licaxxxさんと一緒に お茶にハマる。 お茶するラボ、始めます。 Ocha SURU? Lab. Part 1
    シーズン2:自分の感覚で選べるお茶とは Ocha SURU? Lab. 一煎パック編 Part 1


    静岡の[鈴和商店]と[和田長治商店]、大阪の[多田製茶]でお茶の仕上げ加工の世界を体験してきたOcha SURU? Lab.のサードシーズン。鈴木麻季子さんと上田倫史さんがお互いに静岡、大阪で見たこと聞いたこと感じたことを共有して、その体験をより多くの人にどう広げていけるか、意見を交わした。

    これからのお茶の味の感じ方が変わる体験が生まれるかも……。

    鈴木麻季子さん。伊藤園にて、日々、茶葉を扱う仕事をしていて日本茶の勉強も積んでいるが、お茶づくりを間近に見たのは初めてのことだったという

    鈴木 私はまず[鈴和商店]さんに行かせていただきました。そこで、お茶の仕分けと火入れをする工場の中に入らせていただき、実際に使う機械を見ながら説明していただきました。たくさんの細かい工程を3人ぐらいでやっていらっしゃると聞いたのが印象に残っています。大量のお茶をその人数で扱っているっていうこと単純にびっくりでした。
     その後、近くの[和田長治商店]さんに伺って、主に火入れを見せていただきました。和田さんは炭火で火入れをしているのが特徴的で、珍しい方法らしいんですね。火入れ前の選別機も動かしていただいたのですが、理想的なサイズにしていくために何度もふるい分けをして、手間がすごくかかるんだなっていう、単純ですけど、そういう感想が実感として生まれましたね。
     火入れを始めるとすごく暑くて。職人さんその中で作業をしているっていうことに驚く。さらには、火入れ具合は職人さんの勘とか経験によるところが大きくて、『いつになったら一人前にできるようになるんですか?』って聞いたら、『自分の師匠さえも、何十年もやってる中で、数えるくらいしか完璧なものはなかった』っていうお話がすごく印象に残りました。
     そういう工程はテキストで勉強していたんですけど、やっぱり生で見るのって全然重みが違うなって。それを知ると、価値がわかるんだなっていうのをすごく感じて。高いお茶がなぜいいものなのか、っていうのが今回行くまではよくわかっていなかったというか。渥美さんや和田さんとお話しした中で特に印象的だったのが、『自分たちは茶農家さんの顔が浮かぶから』っていう言葉でした。私は製茶問屋さんのお仕事を体験させていただきましたが、その先には茶農家さんがいてと考えると、お茶が育てられて、摘まれて、手元に届くまでの一連の流れが体験してわかったら、そのお茶に対する価値がもっとわかると思いました。
     あと、これも渥美さんの言葉でしたが、『なぜの追求ができれば価値にたどり着く』っていうことをおっしゃっていて。あぁ、なるほどって思ったんですけど、なぜこのお茶はこういう味なんだろうとか、値段が高いんだろうとか、プロセスを追っていくとわかることがあって。それを伝えることができればいいなっていうのが、私の感想です。

    上田倫史さん。広告・PRのプランナーが本職で、最近お茶関係のプロジェクトに携わったことをきっかけにお茶のコアな部分に浸かっている

    上田 僕は元々、伊藤園さんのデジタルキャンペーンをやったことがきっかけで、お茶の世界に少し入らせていただくことになりまして。それまでは、出されたお茶を飲むぐらいで。極端な言い方をすれば、ペットボトルで飲んでいる銘柄が何なのかすら自覚がないぐらいの……。実は子供のときの方が、親がちゃんと淹れてくれたおかげで、いわゆる日本茶の世界と繋がってた。大人になるにつれて、急須を見る機会も減って、お茶の香りとかもほぼ忘れていたんですけど、最近は飛び級でお茶農家さんや製茶問屋さんのところで学ばせていただいて、お茶がありがたいと思うようになりました。なんとなく楽しむんじゃなくて、味を自分から掴みにいこうとするっていうか、積極的に楽しむようになりましたね。
     多田さんところでは、合組を中心にやらせていただいたんですけど、多田さんのお茶づくりはすごく自由だと思いましたね。基本的なロジックだったり、こうすると間違いないという筋道はあるようなんですけど、そこから脱線しても面白いものができると思いますって自由にお話をしていただいたし体験させていただいたっていう印象がありますね。渥美さんが『なぜを追求すると』っていうお話がありましたが、多田さんも同じような取り組み方をされてたのかなって感じましたね。ワインのような味覚チャートをご自身で持たれていて、一つひとつ毎年、毎日、味を確かめるときに、それを使いながら研究したりしているっていう。その繊細さの中で、一つひとつ合組してるっていうのが、すごく面白そうだったし、ご自身もすごい生き生きお話しされてたなっていうのが印象でした。

    鈴木さん、上田さん、それぞれ本当に多くのインプットがあったよう。お話で振り返りながら、茶葉の選別と火入れを手作業でやってみる。感覚を置き去りにせず、いかに「体験」する方法を作れるか……。

    篩を回して細かい粉を落とす鈴木さん
    次にピンセットで茎を取り除いていく。実際の工場では静電気で茎を吸い分ける
    プロから見ればまだまだ粗い選別かもしれないが、左上が茎、右が本茶、一番下にあるのが粉。「お茶」に含まれる様々な部位
    フライパンで乾煎りする要領で、それぞれの部位に火を入れていく。焦げないよう、香りの変化に集中する

    上田 多田さんとの合組体験では、「かなやみどり」と「はるみどり」とういう親子の品種を組み合わせたブレンド茶を考案されたプロセスを追体験する形で、「かなやみどり」と「はるみどり」のシングルオリジンをそれぞれ飲ませていただいて、その違いを実感できたのはすごい面白かったなって思いましたね。その後、自分でもその2種類の合組をさせていただいて、面白かったですね。
     お酒で、カクテルを作るような感じっていうか。ハイボールにレモンを絞ると飲みやすくなったり、あるいはレモンピールを使うとか。そういう感じで、部位を使い分けると面白いのかなって話をしてて。多田さんも、ベースはご家庭で買えるもので良くて、それにスパイス的にこの部位とかこの品種を追加すると、味が全然変わって楽しめるし、そういう日本茶の楽しみ方はいいんじゃないですかねってお話をされていたのはとても印象的でしたね。

    鈴木 スパイス的に(お茶を混ぜる)って面白いですね。

    上田 全てプロに任せて美味しいお茶をありがたくいただくのもいいと思ったんですけど、それを、僕たちは自分でわからないなりに体験する面白さもあっていいのかなと。

    鈴木 わかります。組み合わせによって全然味とかが変わるから、なおさら面白いですよね。私も、苦いとか渋いとか、お茶に旨味があるとか、入社してから知ったので、あまりわからないのが普通ですよね。でも合組を自分でしてみて、味のバランスが変わるって感じられたら面白いなって思いますし、本当に奥が深いですよね。

    上田 全然違う話なんですけど、今週たまたま、「音だけの、耳で視る映画」っていうコンセプトの公演を体験しに行ったんですよね。要するに、視覚・映像じゃなくて、聴覚・音だけで映画的な体験をするっていう。全く暗闇の空間に入って、70分間、音だけなんですよ。自分からそれを“映画的体験”だって楽しみに行ったので、聴覚を研ぎ澄まそうとしましたし、その体験に乗れるっていう感覚がすごくありました。
     でももし、このコンセプトが共有されてなくて、暗闇の中で、受け身の状態で音を聞き続けたとしたら、暗闇で爆音が続く状況なので、あまり楽しめなかったかも。 コンセプトを作り手と受け手で共有する大事さを、あらためて感じました。
     だからお茶も、急須でこうやって淹れないといけないとか、何秒待たないといけないとか、教科書的になると、すごくめんどくさい体験になってしまうのかもしれないなと。それとは別の何か、楽しい体験ですよっていうふうに、体験のコンセプトを共有できると面白いなとは思いました。それは淹れる時間の豊かさというのがまず大きいですし、さらに今回、多田さんのところではまた違う可能性を感じさせてもらって。自分で組み合わせる面白さっていうのは、すごくいいんじゃないかと。

    お二人の視点を行き来しながらの対話は次回につづきます。

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Yoshiki Tatezaki
    Produce: Kakuno Kenichi (Itoen)

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