• 静岡の茶畑とお客様をつなぐ
    NAKAMURA TEA LIFE STORE
    <前編>

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    赤レンガのお茶屋さん

    東京・蔵前の裏通り。古き良き職人の町に店を構えるのは[NAKAMURA TEA LIFE STORE]。赤いレンガの外観に、藍色の暖簾。古さのなかにもモダンなデザインが際立つこの建物は、元はタイル職人の工房で、木造の内壁などは当時のまま。この雰囲気に茶箱や茶器が自然と似合う。

    NAKAMURA TEA LIFE STOREは、静岡県藤枝市で昨年創業100年を迎えた老舗のお茶農家「中村家」の無農薬有機栽培の茶葉を扱うお店で、中村家の中村倫男さんと同級生でデザイナーの西形圭吾さんのふたりで2013年にオンラインストアとしてスタート。その後、オンライン販売やイベントで話題となり、2015年に台東区蔵前に実店舗のNAKAMURA TEA LIFE STOREをオープンした。今回はオーナーである西形さんに、急須で入れるお茶の魅力について話を聞いた。

    レンガ貼りの建物に、大きな暖簾が一際目を引く。戸はいつも開けられていて風が気持ちよく感じられる。不思議と雨は入ってこないという

    静岡は急須が当たり前

    オーナーである西形さんは静岡県藤枝市出身。デザイナーとして活躍し、独立のタイミングで小さいころからの友人である中村さんと一緒にNAKAMURA TEA LIFE STOREをスタートした。

    「ぼくがデザイナーとして独立したタイミングで中村くんは家業を継いで。それで一緒にできることからやろうと話したんです。中村くんの家は、100年続いているお茶農家ですが、2000年を過ぎたあたりからリーフのお茶が売れなくなってきているという問題がありました」

    西形さんが話す通り、その頃から急須を持つ家庭の数も徐々に減っているようだ。静岡育ちの西形さんから見ると、急須でお茶を淹れないということは「不思議なこと」だったという。

    「家にもよると思いますが、ぼくは小さいころから急須でお茶を飲むことは当たり前だと思っていました。ですが、東京で周囲を見回しても『実家や、おばあちゃんの家では飲むけど…』という人しかいなくて驚きました」

    藤枝では、お茶農家が多く「親戚の誰かはお茶をつくってるような環境」だという。「小さいころのお手伝いで、家族にお茶を淹れていたから、熱湯を入れてはいけない、とかは自然と知っていましたね。お茶を買うことももちろんありますが、誰かから直接譲ってもらうというのが当たり前の環境なので、みんな本当によく飲みますよ」と西形さんは話す。

    静岡のお茶を多くの人に知ってもらいたいと、ショールーム的な役割でスタートしたのが蔵前の店舗だった。

    常滑焼の急須も販売している。手に持っている急須は蓋を金継ぎで直して何年も使っているもの

    業界の外から見えてきたもの

    NAKAMURA TEA LIFE STOREのお茶のラベルには、製造日をはじめ、製造者、収穫した場所などが細かく記載されているのが特徴だ。誰がどこで、どうやってつくったのかがわかるのは、消費者にとってうれしいし身近に感じられる。

    「ぼくはデザインや映像の仕事をしていて、お茶の業界にいなかったからか、素人みたいな感じで“疑問”がたくさんありました。例えば『中村くんの名前がついた商品はないの?』とか、『静岡茶というけれど、どう商品名が決まっているの?』とか」

    そういった疑問を中村さんと話し合った。すると、中村家で収穫されたお茶は収穫日ごとに袋分けされていて、どこの畑で収穫されたかまでわかるように保管されていたことがわかった。

    「同じ畑でも、毎年の天候によって味の具合が変わるので、それを均すためにいくつかの畑の茶葉をブレンドしてひとつの商品をつくるんだということもわかりました。でも、味を安定的に提供することも大事だけど、いつ、どこで、誰がつくったのかという情報をお客さんに届けてみるのもよいかなと思ったんです」

    お茶業界の外にいたからこそ感じられる疑問と、100年以上お茶づくりを続けてきた伝統が組み合わさってNAKAMURA TEA LIFE STOREのスタイルが生まれた。

    茶筒に巻かれたシンプルなラベルがトレードマーク。「Garden No.1」「〜 No.2」などニュートラルな呼称に、その茶葉が育てられている地点の緯度と経度が記されているなど、情報の示し方に無駄がない
    お店の中央にある商品テーブルは、実はお茶を手揉みする際に使われる「焙炉(ホイロ)」と呼ばれる台を再設計したもの。小さな店内にお茶づくりの要素が詰まっている

    日常に「1分待つ」という楽しみを

    忙しい毎日を送っていると、ペットボトルのお茶やティーバッグなど、パッとすぐに飲める便利で楽なものを求めがちだ。西形さんは店頭に立ち、お客様と話しながら次のように感じたという。

    「たしかにお茶に対して手軽さ、利便性を求める人が多い印象があります。でもお茶には“あえてやる部分”があると思うんです。日常生活で、あえて『1分間待つ』ということはなかなかないですよね。『1分経ったら美味しいお茶が飲める』という、時間が経つのを楽しみにすることは、時間に追われている生活の中での“ひと呼吸”になる。お茶を淹れる時間が、日常に“リズム”を生むと思うんです」

    時間の経過を楽しむことは、日常生活ではなかなかない。お茶を淹れるということをきっかけに、1分でもリラックスした時間を過ごしてみるのはどうだろうか。

    後編では、西形さんのおすすめのベーシックな煎茶と、暑い日に飲みたくなるアイス緑茶の淹れ方をご紹介。

    西形圭吾|Keigo Nishigata
    静岡県藤枝市出身。デザイン会社や映像編集スタジオ勤務を経て、2013年より幼馴染みで藤枝市で茶農家を営む中村家4代目の中村倫男さんとオーガニック日本茶ブランドNAKAMURAの運営を開始。2015年にNAKAMURA TEA LIFE STOREを蔵前にオープン。現在、試飲など一部サービスは休止しているが、茶葉の販売は通常通り営業中。
    tea-nakamura.com
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    instagram.com/nakamuratealifestore (Instagram)

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Rie Noguchi
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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