• 目黒[kabi]を訪ねて
    Licaxxxさんと掘る日本茶のうまさ
    Ocha SURU? Lab. Part 4

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    私たちの日常のライフスタイルがたえず変化するなか、お茶のあり方はどうだろうか。「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、現代の感覚で私たちなりの「解」を探求する企画「Ocha SURU? Lab.」。その探求の道のりの中で、皆さまの日常の中の「お茶する」時間がより楽しいものになればという想いとともに、CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねていきます。

    今回は、Licaxxxさんとともに、目黒にある人気レストラン[kabi]を訪れます。オーナーシェフ安田翔平さんとオーナーソムリエ江本賢太郎さん率いる若くてイノベーティブなチームとは、日頃から仲良くしているというLicaxxxさん。フード・ドリンクの面白さを教えてくれるというこの店で、お茶のうまさを改めて聞いていきます

    早速、お料理とお茶のペアリング体験からスタートです。

    岩牡蠣の一皿と氷出しの「あさつゆ」

    安田 炭火焼した岩牡蠣、トマト、そしてピーマンです。トマトとピーマンは鹿児島で自然栽培しているのを、炭火焼きにしています。その上に、「あさつゆ」の茶葉と、この春にピクルスにしたカシスの葉です。最後に、イタリアンパセリの花と、カシスの葉のオイルとディルのオイル、発酵したマッシュルームにすだちを加えて、ポン酢っぽい味にしています。けっこうお茶に合うと思います。

    Licaxxx おいしそう! 食べ始めちゃっていいのかな。

    江本 じゃあ、お茶も失礼します。長崎の「あさつゆ」というお茶で、8時間くらいかけて氷出しにしてます。5度以下で浸出させるとタンニン(お茶のカテキン)=渋味を出さず、旨味を出すことができるので、飲んでもらったらわかるけど、貝のだしに例えられるぐらい旨味がすごく強い。グラス一杯の量を飲むのが大変なぐらい、旨味がパンと来るような。

    Licaxxx ほんとだ! すごい、だし。

    江本 ほんとに、すごくだしみたいな感じで出ます。朝一番か前日から、氷と一緒に真空パックに入れて、冷蔵庫で仕込みます。そうすると、サーブする前にちょうどできてくる。氷がゆっくりゆっくり溶けていく、みたいな感じで作ってます。

    Licaxxx じゃ、一緒にいただきます。

    江本 牡蠣と、トマト、ピーマン。その上に「あさつゆ」の茶葉がそのままのっています。

    Licaxxx はい、おいしいです! 確かに、めちゃ葉っぱ感じる。

    江本 お茶っ葉に苦味があるんです。苦味に対して、ただ甘かったりすると変な感じになるけど、その下のポン酢でさっぱりと酸味があるからおいしい。お茶っ葉にポン酢をかけて出したりするところがあるけど、それは茶葉自体しっかりやわらかいものだから食べられるんです。紅茶とかの発酵茶は、乾燥し切って食べられないんだけど、緑茶の茶葉はそれ自体が柔らかいから、そのまま海苔みたいな感じで。青みも少しあるしね。

    [kabi]オーナーソムリエの江本賢太郎さん。Licaxxxさんと同い年の1991年生まれ

    — シェフの安田さんとソムリエの江本さんのコンビでやられていますが、そういったペアリングの構成ってどういうふうに考えて決めるものなんですか。

    江本 翔平が料理を考えて、僕がドリンクを考えるんですけど、一応ベースとしては料理が先です。僕はあんまり「ペアリング」という言い方はしていなくて、「ドリンクコース」という感じで考えていて。例えば、白ワインが来て、別のワインが来て次もまたワインが来るんじゃなくて、日本酒を挟んだりとか、なるべく波があるような感じにしているんです。連続して流れがいいときはそうしてるんですけど、料理ひとつずつに合わせていくとノンアル(コール)だと緑茶が続いちゃったり。違う種類でいった方が流れがいいなって思ったら、翔平に相談して料理を変えてもらうということもありますね。翔平は飲み物をよく知っているので、こちらに合わせて彼が料理を考えるっていうこともあります。

    Licaxxx おいしかったです。素敵な組み合わせ。私、ノンアルのコースやったことなくて、アルコールコースしか頼んだことないけど、お茶は最後の方に出てくるの?

    江本 いや、ノンアルは序盤からお茶出てくるよ。今夏のコースの最中は、アルコールの人もしめにそうめんが出てくるけど、そこは台湾茶でいってるかな。

    Licaxxx 中国茶ってめっちゃ種類あるじゃん。

    江本 めっちゃ多い。中国茶はなかなか手が出せなかった。

    Licaxxx 細分化されすぎてて。

    江本 すごく細かくて。しかもお茶はワインと違って。ワインはブドウにほぼ何も加えずに味を仕上げていくから、飲めば直接ブドウの味とか産地を想像できたりするけど、お茶はその途中に揉んだりとか発酵させたりっていう過程があって、(加工する)人の加減によっても味が変わってくる。すると最初の茶畑、茶葉が想像しづらいから、テイスティングとかも難しい。だからお茶飲むのは好きだけど、実は苦手とも思ってる。

    Licaxxx なるほど。そもそも、今回の取材の流れで[kabi]に行きたいと思ったのが、最初は「ビール」、「ワイン」とかジャンルでしか飲んでなかったんだけど、さらに細かく、そのジャンルの中の種類とか、ご飯と一緒に食べて味の感覚が変わるとかっていうことをちゃんと知ったのが[kabi]だったから。コーヒーもそうだったけど、お茶のときも、「おいしいお茶飲みたいけど何かおいしいのない?」とか雑に聞いてたよね。その最初の一歩として[kabi]があったからまたここに戻って来たって感じ。ちなみに、ワインとお茶はどっちから先に入ったの?

    江本 ワインが先。お酒飲むのが好きだから。ノンアルコールの人って、言い方がわかんないですけど、ちょっとかわいそうだなと思ったりしてて。ノンアルコールがおもしろい店があんまりないなってずっと思っていた。せっかく日本に帰って来たから(注:江本さんはオーストラリアの料理店でシェフソムリエを務めた)、日本っぽいものをノンアルコールに入れたくて、すぐ「お茶だな」と。当時、[龍吟]とか[茶禅華]とかに行ってたから、こういうふうに旨味の強いお茶もある、バリエーションがすごくあるって知ってて、ノンアルコールもアルコールペアリングぐらい楽しめるように、お茶を入れました。

    — [kabi]は発酵料理やドリンクも有名だと思うんですが、もちろん今日みたいな緑茶もあって。テーマみたいなものはあるんですか。

    江本 ぼくとか翔平が海外にいた頃は、発酵はごく普通のことで、焼く、煮る、発酵させるって感じで。発酵をテーマにっていうのは全然なかった。生でおいしければ生でいいし、発酵させた方がおいしかったら発酵させたらいいと。今は「発酵」っていう言葉が、一人歩きしちゃってる感じがします。一番大切なのは、みんな味噌も醤油も普通に食べてるし、日本人として当たり前のように身近にあるから、逆にそれを過度に捉えるのはおかしいなと。店名決めたときはまさかこんなに発酵が流行ると思わなくて、すごく気軽に決めたので。実は途中で改名しようかなと思ったぐらいです。

    Licaxxx 別に、流行に乗ってるわけじゃないからね。

    江本 テーマとかそういうものに、あんまり捕われるのはよくないと思っていて。あえて言うなら、「地のもの」。だからフレンチのペアリングとか、中国茶とか香りのあるものでワイングラスで楽しめるものはすごく多いんですけど、うちはそうじゃなくて、日本茶にフォーカスしていることの方が多いです。日本のレストランなので、というところですね。


    今、東京で最も注目を集めるレストランの一つである[kabi]の本質的な考え方に触れられた今回の対談。日本茶の魅力を改めて感じることができました。対談はまだ続きます! 当たり前のものとして飲まれる日本茶でいかにインパクトを与えられるか、プロならではのお話を聞きます。

    次回の更新では、水野さんとのツールづくりの続きをお届けしますので、お楽しみに。

    Licaxxx|リカックス
    東京を拠点に活動するDJ。Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCOなどヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。ビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。レストランシェフに教えてもらってお茶の面白さに目覚め、自ら淹れたお茶を日々たっぷり楽しんでいる。
    instagram.com/licaxxx1
    twitter.com/Licaxxx

    kabi|カビ
    2017年末、目黒通り沿いの日本家屋を改装してオープンしたレストラン。デンマークの1つ星レストランで経験を積んだシェフの安田翔平さんと、アメリカやオーストラリアで経験を積んだソムリエの江本賢太郎さんが日本で出会ったことからスタート。若くして洗練された感性が反映された料理で瞬く間に話題となり、都会の新しいライフスタイルを担う注目店。今年1月には、兜町のマイクロ複合施設「K5」に、新店[CAVEMAN]をオープンした。
    kabi.tokyo
    instagram.com/restaurantkabi

    Photo: Masaharu Hatta
    Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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