• 見て、淹れて、アレンジする
    VISION GLASSが広げる
    お茶の可能性
    Ocha SURU? Lab. Part 3

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    私たちの日常のライフスタイルがたえず変化するなか、お茶のあり方はどうだろうか。「暮らし」と「お茶」との間に「問い」を立て、現代の感覚で私たちなりの「解」を探求する企画「Ocha SURU? Lab.」。その探求の道のりの中で、皆さまの日常の中の「お茶する」時間がより楽しいものになればという想いとともに、CHAGOCORO編集部が総力を挙げて研究を重ねていきます。

    前回までは、Licaxxxさんと一緒に、産地・品種による味や香りの違い、そして淹れ方による違いを実験しました。その際、試しに使用していたのが、ガラス製のツール。茶葉がひらく様子をきれいに楽しむことができ、新感覚茶器になるのではという予感がありました。

    このアイデアの発案はラボメンバーの水野さん。家でも毎日お茶を淹れているという水野さんが、かねてから考えていた新しい茶器のかたち。今回から、水野さんと一緒に、このグラス茶器ツールの開発の模様もお伝えしていきます。まず、向かったのは、東京・台東にある「VISION GLASS JP」。小沢朋子さんと板垣潮美さんに、水野さんがお話を聞きました。

    左からVISION GLASS JP PR板垣潮美さん、同代表・フードデザイナー小沢朋子さん、Ocha SURU? Lab.メンバー水野さん

    — 今回はVISION GLASSとお茶のツールを開発したいと考えた経緯をおうかがいできればと思います。水野さんはもともとVISION GLASSを使っていたそうで?

    水野 数年前に蔵前のカフェに行ったとき、最初に出されたお水がすごく背の低いグラスに入っていたんです。はじめは「これで飲むの?」と思ったのですが、よくよく見ると、見た目もシンプルで可愛いし、すごくいいなと惹かれてしまって。底のロゴを見て調べて、いろいろ探しまわって購入し、自宅で使っていたんです。このグラスを使うときれいなお茶の緑色が楽しめるし、デザインもとてもシンプルで使いやすく飽きがこない。今回の問いである、“夏にぴったりのお茶の楽しみ方とは”を考えたときに、ぜひVISION GLASSさんと一緒にやりたいなと思いました。

    板垣 事務所のオープン日に来てくださいましたよね。

    水野 そうそう。いつもお店で商品を見ていたのですが、いろいろ知りたくなってしまって(笑)。板垣さんに小沢さんを紹介いただいて、メールで「電話ください!」って書きながら、番号を書くのを忘れたりして(笑)。

    小沢 何回かメールを頂いたのですが、やっぱり書いてなくて連絡できないよねって。

    板垣 水野さんっぽい(笑)。

    VISION GLASSを使ってハーブティーを淹れてくれる小沢さん

    — 水野さんを夢中にさせたVISION GLASSですが、これはインドのメーカーのものなんですよね。

    小沢 はい。BOROSIL社というインドの理化学ガラスのメーカーです。いまは総合キッチンツールメーカーですが、創業は60年前で、インドのお医者さんとアメリカのコーニングというガラスメーカーと合同ベンチャーのような形で立ち上がりました。もともとはビーカーやフラスコなどを作っていましたが、30〜40年前にその技術でコンシューマー向けの製品を作ろうとできたのがVISION GLASSです。インドではロングセラーの定番商品です。

    — 品質はどのようなものなのでしょうか。

    小沢 いちばんの特徴は、材料がホウケイ酸ガラスという耐熱のガラスなので、熱に強いということです。正確に言うと温度差に強い。例えば150度に熱したオーブンにグラスを入れて、いきなり0度の水に入れるとします。こうして急激に150度温度が下がっても、その衝撃に耐えられるんです。火の扱いには注意が必要ですが、VISION GLASS自体は直火でも大丈夫です。オーブンもOKなのでカップケーキも作ることができます。

    インドで出合った一生使えるグラス

    — 輸入を一手に引き受けいるそうですが、小沢さんとVISION GLASSの出合いは?

    小沢 私は学生のころから何回もインドに行っているのですが、新婚旅行でインドの最北のラダックというヒマラヤ山脈の合間の街に行ったんです。そこは標高3000メートルで、行き来するのもとても大変な場所なんです。その街でふらっと入ったカフェで、グラスに入った綺麗なアプリコットジュースが出てきたんです。インドの山奥に来たつもりなのに、洗練されたすごくきれいなプロダクトが目の前にあって、ものすごい衝撃を受けてしまって……。

    — カフェで出合って、探して買ってというのは水野さんと同じですね。

    小沢 ほんとだ、そうですね(笑)。それで、自宅で2、3年使っていたのですが「これはどう考えても良すぎる」、「これは一生使っていきたい」と思うようになって。それなら自分たちが販売元になれば継続的に輸入もできるし、自分たちも使っていけると考えたんです。それまで小売りはもちろん、輸入の経験もなかったのですが、とりあえずBOROSIL社に長いメールを送りました。3カ月返事が来ず、もう一回送ったら返信が来て、一応、喜んでくれているようで、現地に会いに行きました。日本から突然来た女の子の話をよく聞いてくれたなと思います(笑)。そこでいきなり契約は結べなかったのですが、日本に帰って1年間はホームページやカタログを作ったり、展示会をして取扱店を何十店舗かに増やして、またインドに会いに行き、独占販売契約を結ぶことになりました。

    こちらはインドの鍋の蓋。持ち手もないので、お皿としても使える。「VISION GLASSの原材料は長い筒状のガラスで、それを切り分けて底を成形しただけ。インドの製品は最低限の加工で製品として良しとしている潔さがかっこいいなと思います」と小沢さん

    お茶を淹れるための「2つの機能」

    — 今回のコラボセットでは、インドならではのシンプルな作りを生かし、グラスの中にひとまわり小さなグラスを入れていく“入れ子状”になっています。

    今回のコラボセットを思いついたきっかけとなった入れ子。これは水野さんが試した私物

    水野 重なりが美しい。こんな美しいものあるのかというくらい感動したんです。

    — 「お茶は急須で」というのが常識ですが、VISION GLASSでもおいしいお茶が淹れられるということですね。

    水野 そうですね。基本的には2つの機能があればお茶は楽しめます。まずは茶葉がお湯や水と一緒になるための空間。次にお茶が出たら、液体と葉っぱを網で分けるということ。この2つの機能があればいいんです。

    小沢 スタッフみんなでお茶を飲みたくなると、大きい鍋にお湯を沸かして、茶葉を入れて、みんなでレードルでお茶をすくって、茶こしで入れていました。「急須がなくてもお茶って淹れられるんだ」と思っていましたね。

    水野 一家団欒など誰かと楽しむときはグラスをいくつか使いますよね。使っているときだけでなく、使っていないときも重ねてコンパクトに、かつその佇まいも美しく感じられるような“日常使い”の茶器ツールがあるといいなと思うんです。いろいろなところからガチャガチャ取り出すのではなくて、セットにすることですごく凝縮されたものになる。1セットあることで、ひとりでも、お客さんが来たときも、サッと楽しむシーンがシンプルに作れると思います。

    板垣 たしかに、日本は狭小住宅と言われますが、収納スペースを気にする方が多いので、入れ子状になっていると良いですよね。持ち手もないですし。

    水野 今回、“急須がわり”に使うために注ぎ口をつけていただこうと相談しているんです。やっぱり、初めてという方たちが「こぼれそうで怖い」と思わないようにしないといけないので。デザインの邪魔をしないように、注ぎ口の大きさや角度を調整してもらっています。

    小沢 何パターンかご用意しましたよ。注ぎ口は、職人さんの手作業です。

    水野 ちょっとやってみましょう!

    注ぎ口の角度や大きさ、広さを変えた試作品
    お水で実験開始。「やっぱり注ぎ口があると全然違いますね」と水野さん
    実際に茶葉も入れて、冷たい緑茶をトライ。綺麗に入りました!

    水野 シンプルさを大切にしたい一方、こうやって試してみると、注ぎ口は少し大きいほうが液ダレしないですね。

    板垣 角度が肝ですね。

    小沢 注ぎ口をつけるのなら注ぐ感覚の満足度も上げたいですよね。先端がとがっているか丸いかの違いもありますよ。

    水野 丸いほうがいいですね。あとは蓋として重ねたときにあまり主張が強くないほうがいいと思います。注ぎやすくて機能性があって美しい。……これくらいがよさそうですね。

    注ぎ口つきのものをセット。アヒルの口っぽくてかわいい

    水野 小沢さんは、「お茶+何か」で楽しいお茶の飲み方を教えてくれるんです。

    小沢 コーヒーとお茶の違いは何かと考えたときに、コーヒーはホットコーヒー以外にもフラペチーノやカフェラテなど、甘いものが多いことだと思うんです。シロップなども用いたアレンジの展開の幅の広さ、ラインナップの多さが、コーヒーだけでお店が成立する理由だと思います。お茶も、お茶単体だけでなく、甘くしたりソーダで割ったりした“アレンジしたお茶”ができたらいいですよね。

    水野 そうですね。コーヒーはお茶と比べて①プレイヤー、②スタイル、③ツールがどれも充実していて、誰もが自由に楽しめる飲み物だと思います。一方で、お茶は急須しかない、というイメージが強いですよね。しかも急須にシロップを入れて飲もうなんて誰も思わないですよね。それが今回のようなVISION GLASSでお茶を淹れることで、「シロップを入れてみよう」、「自分なりのアレンジをしてみよう」、「自分のあのツールと組み合わせてみよう」という気持ちになる。自由に、お茶の幅が広がるし、新しいシーンが出てくるのも想像できます。


    たしかに、コーヒーに比べて淹れる道具はもっと自由になる“余地=可能性”がありそう。「このセットにぴったり合う茶こしを作ってくれるところも探してきたんですよ」と嬉しそうに話す水野さん。お茶の楽しみ方を広げるツール開発は水野さんとともに継続。来週は、Licaxxxさんがお茶に目覚めるきっかけとなったお店、目黒[kabi]でペアリング料理の妙に触れながら、いかにお茶への入り口をつくるかについてなどお話を聞きますのでお楽しみに。

    VISION GLASS JP|ヴィジョン グラス ジェーピー
    インドの理化学用ガラスメーカーBOROSIL(ボロシル)社が製造するシンプルな耐熱グラスのVISION GLASS。インドでは30年以上に渡って多くの人に愛されるロングセラー商品。フードデザイナーの小沢朋子さんが、夫の國府田典明さんと共に2013年から輸入をスタート。
    kodashoten.co.jp/visionglass
    instagram.com/visionglass_jp

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Rie Noguchi
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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