美味しいお茶の表現方法 和多田喜さん& 小山和裕さん対談 <後編>
2020.09.08 INTERVIEWCHAGOCORO TALK
- 煎茶
- 東京
前編では、お茶染めWashizu.の工房を訪れ、その職人姿の一端を覗かせてもらった渥美慶祐さん。続いては、車で20分ほどの距離にある渥美さんの[茶屋すずわ]でお茶を淹れていただきながら、「文化をつくること」について語り合っていただいた。
渥美 「団欒」というブレンドのお茶を淹れさせていただきました。鷲巣さん、普段はお茶飲まれますか?
鷲巣 普段淹れてはないですが、作業のときに飲んだりしますね。出身は羽鳥という近くのところで、昔、親と食事していたときはもう毎日必ず急須で飲んでましたけど。
——お茶染めを始めてから、お茶との距離感は変わりましたか?
鷲巣 お茶屋さんにお会いすることが多くなったので、色々な種類のお茶をいただくこともあり、飲む幅は広がりましたね。さっきも(前編で)話した通り、最初は請け負い仕事をやっていたので、工房からほぼ出ない生活でした。お茶染めを始めて、それを文化として広げていく活動をする中で、色んな人と会うようになりました。
渥美 「お茶が売れない」ってよく言われるんですけど、売れている場所というのはあって。そういうところに行くと、色んな人と出会えます。お茶が売れる世界っていうのはこれまですごく狭い世界だったと思うんです。それがだんだん境界を超えていけるようになったというのは、ここ最近のこと。お茶がセレクトショップとかアパレルショップに並んでいるなんて、僕がお茶業界に入ったときには夢のまた夢の話でしたよ。そういうのってすごくいいなって思いますし、鷲巣さんの言っていたのと同じでお茶屋さんも請け仕事ばっかりやっていたら、先細ってしまいます。独自性じゃないけど、好きなことを好きなようにやったほうがいいと思っていて、僕は“自分の趣味に近いところにお茶を持ってくる”っていうことを意識しています。仕事と遊びの境界線をどう崩すか、みたいな。所ジョージさんが憧れなんです。それこそ、鷲巣さんも何かのインタビューで「違う世界の人にお茶染めを持って行くと、自分では考えられないような面白いことをしてくれる」っておっしゃっていたんですけど、所さんの生き方もまさしくそうだと思っているんです。つまり、僕たちが面白くしようとする必要ってなくて、面白い人に手渡すことができれば、それでいいんじゃないかって僕は思っているんです。結局、自分たちの狭い世界からでは、多分業界の枠ってなかなか越えられないと思っていて。全然関係ないところにいる人が関係していくと、面白い文脈でお茶をとらえてくるっていう。同じですよね?
鷲巣 はい、全く同じですよ。自分だけで考えているより、人に考えてもらうというか、色んなアイデアの種まきをしていくっていうことかなと思いますね。
——工芸においてもお茶の世界においても、お二人の世代では色々な視点が必要なタイミングだったということですよね。
鷲巣 黙っていても仕事が来るような時代じゃなくなったことで、自分で考えていこうという人が増えているのは間違いないですね。僕なんかは特に、家業を継いで必死で覚えた技術が身についた頃に、ちょうど需要がなくなっていったので。これだけ覚えたのに、全然生活ができないという鬱憤のようなものがすごくあって。絶対にこの技術で生きていきたい!みたいなところから始まってるんですよね。
——今では文化を広げるという意識で取り組みをされていますが、やはり根っこには、自分の技術を世界で生かすんだ、という譲れない思いがあったわけですね。
鷲巣 始まりはとにかくそれなんですよね。まずは自分がこの仕事で食いたいっていう。その次に、いくら自分が泳げても、船が沈没してしまったら自分も溺れてしまうから、周りのことを考える。色んな人に教えて、業界として盛り上がった方がいい、という考え方なんです。
——茶業界はいかがですか?
渥美 全く一緒ですね。今何か新しいことをやっている人たちのモチベーションというか原動力ってまず、怒りみたいなところが絶対あるはずだと僕は思っていて。上の世代から価値があると伝えられてきたもの、自分たちが見出している価値、それと消費者の人たちが感じている価値が合わなくなってきていて、そこにフラストレーションを感じる。じゃあその価値をどう伝えるか、みたいなところから僕らの世代は始まるのかなと思いますね。
でも、今日ちょっとの時間ですけど鷲巣さんの工房を見させてもらって、やっぱり手仕事ってすごくいいなって感じました。大量生産、大量消費のものが増えてくるのと反比例するように、手仕事の価値って上がってくるんだなってすごく感じましたね。儲からないかもしれないですけど、だからこそ今の状態でお茶の世界に入ってくる人っていうのは、めちゃめちゃ熱い人が多い。そういう人たちが増えたほうが、文化としては面白くなると思います。なので、今がお茶の世界にとって一番いい時期なのかなって思いますよね。ここから30年後、文化になってる。お茶染めもそうですよね。
鷲巣 はい、そう思いますね。
——文化をつくるという頂上のない山を登って行くというのは途方も無いことのようにも感じますよね。
鷲巣 なので、色んな人と広げていく。文化って自分一人でつくれるものじゃないですから。お茶染めを知ってもらって、関わってもらう。とにかく種をまきつづけるというのは、結構楽しいです。
渥美 なんで「お茶でいこう!」と思ったんですかね? やっぱり、産地だったから?
鷲巣 産地だからっていうのと、やっぱり文化になりうると感じたから。自分でもはっきりゴールがわからないものを目指そうって決めたときに、魅力をめちゃくちゃ感じたんです。ゴールまで今何割なのかもわからない。でも、それを目指してやりつづけることで、自分の人生が面白い方に転がっていったりとか、自分の頭の中にしかなかったものに対して、別のところからオファーが来たり、今日もこうしてお話させてもらったりということが面白くて。
渥美 見方が変わると、ひっくり返したように評価が変わる。だもんで、作りたいものを作りつづけてて、それが売れるまで時代を待つというのが理想なのかなってすごく思いますね。流行を追ったとしても、それがつくれるようになるまでに5年くらいはかかる。それって、どうですか?
鷲巣 本当にそうだと思う。自分が信じているもののクオリティが保てるか。とある人間国宝の方が知り合いの方に言った言葉だそうなのですが、「絶対に周りがつくってくれっていうものはつくるなよ」って。渥美さんのお話を聞いていて思い出しました。自分が、いい、これがいいってものをつくりつづける。今は多様な価値観がある時代だから、ヒットする市場って必ずどこかにあるはず。自分が信じた、自分が楽しくて、かっこいい、いいと思うものをずっとやると、クオリティが担保されて、市場とマッチングしたときに、一番強いはず。
渥美 なおかつ、後悔がないですよね。誰かがいいよって言ったものを作って失敗したら、絶対人のせいにしたくなるじゃないですか。そこが、自分のつくりたいものをつくった結果で、後悔がないっていうのがいいですよね。
——最後にお互いの印象をあらためて聞かせてください。
渥美 かっこいいなと思いましたよ。こういう方が評価されていくんだろうなっていうのはすごく感じますよね。見た目もかっこいいですしね。でもやっぱり文化を考えて生きている人はすごいなって思いますよね。僕なんて身の回りのことで結構一杯一杯で、業界全体とかっていう話って、なかなかできないですよ。それを文化とか市場とかをしっかり考えて、行動に移しているというのがかっこいいですね。
鷲巣 嬉しいですね。
渥美 言葉に出した時点で、やっぱりやんなきゃいけないですからね。
鷲巣 そうなんです。自分にやれる実力があるとか能力があるとは全然思ってないんです。でも、それを口に出して発信することで、自分の人生が面白いところに展開していくし、人にも喜んでもらえる機会が増えるんじゃないかっていうところですね。
渥美 その覚悟ですよね。
鷲巣 何の覚悟かって、馬鹿にされる覚悟。馬鹿にされても気にしないで行動できるか、気にして行動しないかで決まるので。渥美さんは、同い年ということで、変化する業界をともにする世代ですごくノリが合うというか、いい話ができる人とお会いできて、すごく嬉しく思いました。流木も集めて魚も好きでと、話していても知識が豊富で色々な話が展開していく。自分がワクワクしていることで他人も楽しませることができますよね。人ってそういうことにお金を払いたくなりますから、すごく大事なことだと思いました。美味しいお茶とか、工芸もそうですけど、いいものって世の中にいっぱい出てくる。あとは、誰から買いたいかっていうところも大きい要素になると思うんです。お茶を買うんだったら、渥美さんから買いたいなっていうふうに、人で選ばれる方だなと思います。ありがとうございました。
渥美 ありがとうございます。今度うちもお茶染めをお願いさせてください。
鷲巣 ぜひぜひ。
同じ静岡市出身、同い年の鷲巣さんと渥美さん。初対面ながら話が深いところへすぐに展開したのにはお茶やつくり手という共通項の他に何より、自分がいいと思うものを信じる、しなやかさがあった。今年も各地で芽を出す新茶のように、清々しい出会いの時間だった。
鷲巣恭一郎|Kyoichiro Washizu
静岡市の北部、羽鳥の染色工房「鷲巣染物店」5代目として、駿河和染の伝統を継承しつつ、独自の表現技法の一つとして静岡の茶葉を活用した「お茶染め」に取り組む。「お茶染め Washizu.」を主宰しながら、現在は、静岡駅から車で10分ほどの距離にある「駿府の工房 匠宿」で工房長も務める。
www.ochazome-shizuoka-japan.com
takumishuku.jp
渥美慶祐|Keisuke Atsumi
静岡市の[茶屋すずわ]店主。創業170年の茶問屋・株式会社鈴和商店6代目として茶問屋を営む傍ら、「現代の茶屋、人々の暮らしになくてはならない大切で優しい寛ぎの存在」をコンセプトに、お茶とそのまわりの物を扱う同店を2017年にオープン。これまでお茶に興味がなかった人に少しでもお茶のある暮らしの良さが届くよう、日々発信している。
chaya-suzuwa.jp
instagram.com/chayasuzuwa
Photo by Eri Masuda
Text by Yoshiki Tatezaki
2024.06.28 INTERVIEW日本茶、再発見
2024.07.05 INTERVIEW日本茶、再発見
2024.05.24 INTERVIEW茶と器
2021.07.13 INTERVIEW茶と器
2021.07.16 INTERVIEW茶と器
2021.11.23 INTERVIEW茶のつくり手たち
内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール