MENU

2020.03.03

お茶を生業とすることに決めた
南青山・即今 店主
トゥーシャン・ザッカリ
<前編>

SCROLL

次のレベルを追い求め辿り着いた、茶人という生き方

日本とフランス、両国のアートやカルチャーは、互いにインスピレーションを与え合いながら上書きされてきた歴史がある。19世紀後半には、クロード・モネをはじめとするフランス人画家たちが、浮世絵に影響を受けた作品を発表。また芸術の都として花開いたパリへの憧れを胸に海を渡った藤田嗣治や岡本太郎は、シーンの最先端で名を馳せた。そして現代においても、ダフト・パンクと松本零士、ルイ・ヴィトンと村上隆など、両国を代表するアーティストやブランドのコラボレーションが話題をさらってきた。

そのような相互作用は食の分野でも起こっている。フランス語で「食文化」を語源とする「ガストロノミー」は新たな美食のかたちとして日本において広く認知されてきているし、フランスにおいて和食は今でも要注目のトピックだ。フード全般に関心が集まる中で日本茶も、文化の交差によるアップデート目前ではないか。その象徴ともいえる、フランスにバックグラウンドを持つひとりの茶人を紹介したい。

ウェリントン型のメガネとヒゲがよく似合うトゥーシャン・ザッカリさん。ミシュラン二つ星の先鋭的フレンチレストラン[レフェルヴェソンス]のサービススタッフを経て、現在南青山で本格的な茶懐石が楽しめる[即今(そっこん)]の店長を務める。

即今では、薬味たっぷりの禅寺うどんのようなカジュアルな楽しみ方ができる上、本格的な懐石料理から茶室でのお点前、そしてお茶を中心としたカクテルまで、さまざまな角度からお茶に親しめることが最大の魅力だ。

表参道と西麻布をつなぐ骨董通りに店はある。その名の通り、時代を感じつつも色褪せないアンティーク専門店もあれば、最先端をゆくファッショナブルなセレクトショップも多い。古今東西洗練されたものが集まる一本道の、ちょうど真ん中あたりにあるビルの階段を降りて、仄暗い店内に入る。多くの人々が忙しくなく行き交う通りからは隔絶された、落ち着きのある空間が広がっていた。

まず案内してもらったのは、3畳間の「笊籬菴(そうりあん)」だ。ザッカリさんからは、「苦しかったらいつでも足を崩してください」と一言。掘りごたつ式で足を伸ばせる快適な仕様で、緊張もほぐれつつ主菓子をいただく。クロモジの楊枝で、ふっくらとした主菓子を切り分け口の中へ。プレーンな味わいの餅の部分と、あんこの甘さが絶妙で、思わずお茶が飲みたくなったところで次なる部屋「即今」へと移動する。ここでザッカリさんにお点前を披露してもらった。

お点前には慣れた手つきのザッカリさん。レフェルヴェソンス時代からサービススタッフとしてゲストの前で抹茶を点てていたそう。ぴしりと背筋を伸ばしながら行う、丁寧な所作は思わず目を惹く。抹茶の飲み方や、器の持ち方がわからなければ優しく教えてくれるし、ホスピタリティも随所に光るが、それは長年飲食業界で働いてきた経験が活きているのだろうか。

17歳のときから飲食業界に飛び込んだというザッカリさん。生まれ故郷であるフランスに加え、イギリスでも様々な食文化にふれてきた。「イギリスでは焼き鳥がメインの和風居酒屋で働いていたこともありました。日本だと当たり前かもしれないけど、日本酒を升にまで溢れさせる注ぎ方も向こうでは新鮮なのか、お客様は毎回喜んでくれて。日本酒は好きだったから、来日してからは色々な蔵を回りましたね」

興味のある事柄には、特に勉強熱心だというザッカリさん。レフェルヴェソンス時代もシェフ生江史伸さんの下で、「もっといいサービスを、もっといいサービスを」と追究することを怠らなかった。トップレベルのサービスが求められる環境であり、「レフェルヴェソンスのおもてなしは、本当にネクスト、ネクスト、ネクストのレベル」と当時を振り返る。食べ終わった皿の下膳からスタートし、アルコールのペアリングまでさまざまな役割を担いながら、常に貪欲に学び続けた。

サービスの一環で、お客さんの前でお点前をすることになっても、真摯な姿勢は変わらない。茶道の師匠の元へ何度も足を運び、「次のレベルにいくには何をすればいい?」と何度も尋ねた。そうした日本茶にのめり込んだ末に、レフェルヴェソンスを離れることを決断、お茶のスペシャリストとしての現在に至る。

コース内焼き物には旬の魚を焼いたものが供される。竹製の箸の水滴は、朝露のような瑞々しさを演出するため

そんなザッカリさんが歩んできた道のりの結晶ともいえる、見事なお点前を満喫した後には、広間「爤酔亭(らんすうてい)」へと移動し懐石料理をいただく。日本茶と料理、提供されるものによって場所が変わるのは楽しいし、ユーモアたっぷりの軽妙なトークも心地よい。それが自然なのは、ザッカリさん自身、人をもてなすのが大好きだからだろうか。休みの日にはホームパーティで友人たちにお手製の料理を振る舞うことも多いそうだ。しかし、ザッカリさんのおもてなしの真骨頂は、実は抹茶を使った「カクテル点前」にあるようで、その様子を中心に後編ではレポートする。

トゥーシャン・ザッカリ
フランス出身の茶人。イギリスとフランスの飲食店での勤務を経たのちに来日。レフェルヴェソンスでサービススタッフとして働いたのち、2019年南青山にオープンした即今では店長を務める。
sokkon.jp

Photo: Yoshimi Kikuchi
Text: Shunpei Narita

TOP PAGE