• 西荻窪の街角に生まれた
    日本茶とコーヒーの交差点
    Satén japanese tea
    <後編>

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    西荻窪の街角に生まれた 日本茶とコーヒーの交差点 Satén japanese tea <前編>

    お茶屋とカフェの組み合わせは、どう生まれた? ぴかぴかに磨かれたイタリアの高級老舗メーカー「ラ・マルゾッコ」のエスプレッソマシンが鎮座するカウンター。マシンに貼られたステッカーにも個性が感じられて、なんだか格好いい。 話…

    2020.02.18 日本茶、再発見

    日常からお茶の世界の深淵に

    前編では、西荻窪にある日本茶スタンド[Satén]誕生の背景を尋ねた。後編ではオープンしてから間も無く、日本茶シーンの注目株として脚光を浴びる店となった理由に迫る。

    Saténで一番の人気メニューは抹茶ラテ。スチームされたホットミルクに、鮮やかな緑色のコントラストが効いていて、グッドルッキングな一杯だ。若い女性を中心に多くの人々の心を掴んで離さず、InstagramなどSNS上でも人気だが、決してビジュアルありきでつくられたものではない。

    「カフェで美味しい抹茶ラテがどうしてないのか?という疑問を感じていました。ほとんどが加糖された甘みの強いもので、抹茶の香りを活かせていない。お砂糖なしで、ミルクの甘さを感じつつ抹茶の風味を楽しめる、『本当の抹茶ラテ』はどうしたらできるのか? お店をはじめる前から二人で話していたんです」とバリスタの藤岡さん。

    確かにカフェにおいては副原料的な側面が強く、あまりアップデートされてこなかった感がある抹茶ラテ。ではその常識を打ち破るべくつくられた一杯は、一体どのようなものなのだろうか。まずは抹茶側からのアプローチを探っていく。

    2017年に内閣総理大臣賞を受賞した京都府宇治市の生産農家「辻喜」がSaténのために特別に提供した抹茶を使用。一芽一芽丁寧に摘み取られたのち、鮮度を保持したままに即時製造、加工することで本来の香りがしっかりと残るこだわりのもので、これを“茶リスタ”の小山さんが点てる。

    抹茶を最大限引き立たせるために、何種類ものミルクと相性を検証した。藤岡さんは、「カフェラテでもコーヒーにあわせるミルクはとても大事。たとえば深煎りでビターな印象の豆であれば、濃厚で甘さを感じるミルクを。逆に浅煎りで酸味が強いタイプだと、低温殺菌ですっきりしたものをあわせると、コーヒー本来の香りが損なわれない」と説明する。抹茶ラテへのアプローチはどちらかといえば後者に近かったようだ。「使っている牛乳は低温殺菌で脂肪分が少なめのもの。抹茶の香りが最大限活きるように。でも、コクもあるタイプの牛乳を選ぶことで、あっさりし過ぎない味わいを狙っています」

    コーヒースタンドのカフェラテであれば、自分でエスプレッソを抽出し、自らスチームしたミルクをあわせる。つまりバリスタ自身でドリンクをつくるスピードを調整できるが、抹茶ラテはそうはいかない。小山さんが抹茶を点てている間に、藤岡さんがミルクをスチームする。そのタイミングがずれてしまえば、理想の一杯からは遠ざかるだけ。美しい仕上がりに目が奪われがちだが、二人の見事なコンビネーションも見どころといえるだろう。

    バラエティに富んだメニュー構成、さらにテイクアウトのお客さんも多い。スピード感と同時にクオリティを保つために、感覚だけではない、ロジカルなアプローチで抽出に向き合う。しかし、単に決まりきったものを出し続けているのがSaténのスタンスかと思われたら、いや、むしろ真逆の姿勢だと言いたい。

    エアロプレスで抽出したほうじ茶とミルクを合わせた「ほうじ茶ラテ」や、コーヒーをお湯代わりに淹れる「コーヒーほうじ茶」、またアルコールドリンクも「煎茶ジントニック」や「ほうじ茶ラムコーク」など創意工夫が凝らされている。「急須で淹れるだけがお茶ではない」というポリシーに象徴されるように、正解とされている手法に固執せず、目指したい味にあわせ適切な方法を探求しているのだ。

    フードメニューの充実ぶりも熱心なファンが足繁く通う理由のひとつ。あんバタートーストやコンビーフサンドなどに加えて、大人気なのは自家製の抹茶プリンだ。売り切れ必至なので、食べたい人は早めの来店を。

    取材当日もお店がオープンする前から人が集まりだし、開店時間を過ぎればあれよあれよという間に満席状態に。お客さんの約8割が女性だそうで、特に午後の時間帯は授業を終えた学生が中心に。お店が21時(金曜は23時)まで営業していることもあってか、夜帯には落ち着いたトーン、仕事終わりの人などが一息つく場所になる。

    心地いい時間を過ごすための空間づくりも徹底している。北欧らしい色合いを意識した壁面の落ち着いたトーンの緑色に、ベルベットの生地を施した椅子には、どこかノスタルジックな趣を感じる。ユニフォームにも惹かれるので聞いてみると、これはアメリカのワークウェアブランド「RED KAP」のものだそう。華やかなカラーリングやリフレクターがついていたりするものも多いが、シックなグレーを選んだあたりに審美眼が光る。胸部には茶葉を摘んでいる手が刺繍されている。ピカソの作品『花束を持つ手』のオマージュというから、ここにも一捻り。

    メニューから空間設計、ユニフォームにまで、様々な感覚・要素を絶妙なバランスで詰め込んでいる。だからこそ、Saténに行く動機は随所にあるといえる。そして「もう一杯、さらに一杯」と進んでいけば、日常からお茶の世界の深淵に近づいていくこととなる。「うちは単一農園の茶葉にこだわっているからこそ、生産者さんをご紹介することもできますよ」と、お茶をさらに知ろうとする人を歓迎している。一見カジュアルに思えるが、ディープなお茶の世界へとアクセスできる店なのだ。


    3月1日(日)に渋谷[JINNAN HOUSE]内の茶食堂[茶空 SAKUU]にて、「出張Satén」を開催予定。煎茶、ほうじ茶、抹茶、アイス抹茶ラテ、抹茶プリンなど人気メニューが限定で楽しめます。


    Satén japanese tea
    2018年4月西荻窪にオープン。茶リスタの小山和裕さんとバリスタの藤岡響さんという二人のスペシャリストが手がける日本茶スタンド。抹茶ラテや抹茶プリンから、茶器を使って淹れるシングルオリジンの日本茶まで、人々の日常に溶け込むお茶を届けている。また、今年5月で第3回となる「Japan Matcha Latte Art Competition」を主催。イベントなどを通じて日本茶の価値、ストーリーを広めている。
    www.instagram.com/saten_jp (Instagram)

    Photo: Yuri Nanasaki
    Text: Shunpei Narita

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