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2020.01.17

お茶を面白く、
人をつなぎ、カルチャーに。
Tea Bucks 大場正樹
<後編>

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日本人はお茶を知っているようで知らない

2018年春のオープン以来、お茶の面白さを着々と広めているティースタンド[Tea Bucks]。前編で大場さんが語るように、Tea Bucksは「嘘のようなお茶屋」だ。日々ローカルなお客から、語弊を恐れずいえば“お茶なんて飲まなそうな若者”までが、まるで家のように気軽に訪ねてくる。

「お茶ってやっぱり、お金を出して飲むものと思っていない人も多いですよね。食事にサービスでついてくるようなイメージで。でも、お茶農家さんとお話するようになってその思いは強くなりましたが、僕はお金を払う価値のあるものだと思っています。Tea Bucksという名前をつけたのも、それが由来なんです」

アメリカでは通貨の「ドル(dollars)」のことを「バックス(bucks)」と表現することがある。くだけた会話表現だが、元は開拓民が貨幣の代わりとして使用していた鹿革(buckskin)に由来する。Tea Bucksのホットティー用のカップやTシャツに描かれる女性も鹿の角をつけているし、何よりインパクト大な鹿の剥製にも「お茶の価値」という思いが込められていることになる。 

「お店に置いてあるものは、僕が海外を回って見てきたものが影響していると思います」一つひとつの個性は強いが全体としてまとまりがあり、不思議なくらい居心地がいいのは、それぞれに込められた意味や思いがあるからだろうか。

愛用の丸型急須は若手の人気急須作家・山田勇太朗氏のもの。
「職人気質でありながらアーティスト的でもあり、僕の好きな作家さんです。丸型急須は、茶葉がよく踊ってくれる感覚があって好きなんです」

中南米を巡り、アフリカとアメリカを縦断したという大場さんだが、「まだまだ見てみたい国はあります。今は、ウユニ塩湖やマチュピチュなどこれまでに行った絶景の地にもう一度行って、そこでお茶をいれたいなと思っています」と語る。

旅の中で印象に残った文化の一つにエチオピアのコーヒーがあるという。

「シャシャマニという現地の人しかいないような地域で、おばちゃんたちが路上で焙煎してコーヒーをいれてくれるんです。仕事に疲れたおじさんとか子連れのお母さんとかがぱっと寄ってコーヒーを飲む。もちろん味も美味しいんですけど、空間を楽しむというか、演出が楽しいんです。コーヒーをいれる前に香木に火をつけて香りでリラックスさせてから、僕がしゃべりながらお茶をいれるように、おばちゃんが喋りながらコーヒーをいれてくれて、最後にはハーブで香りをのせて出してくれるんです。あのセレモニーは忘れられないですね。生活に根付いていて、それこそライフスタイルですよね」

コーヒーセレモニーはエチオピアの文化的風習として知られ、コーヒーを飲むという行為を儀式化している点で日本の茶道と似ているといえるが、道ゆく人がカジュアルに楽しむ姿に感銘を受けた。

「僕は、お茶は乾いた喉を潤すためだけの“ツール”ではないと思っています。ときに遊び道具にもなるし、コミュニティをつくるものにもなる。エチオピアでは、それがコーヒーで行なわれていたのかなって思いますね」

カウンターの端には小さな囲炉裏が切られており、茶香炉から茶葉を焙じる香りが立つ

エチオピアのコーヒー文化になぞらえ、日本茶の可能性も感じている大場さんだが、お茶の現状と未来にはまだまだ危機感を覚えているという。

「時間ができればなるべく農家さんに会いにいくようにしています。農家さんたちも『お茶って今流行り始めてるんだって?』と気づいてはいるんですけど、みんな口を揃えて『私たちにはまだ(その影響が)届いてない』って言うんですよね。『生活も楽じゃない』って。まずその環境を変えていかない限りはお茶の未来はないだろうなって僕は感じます」

大場さんは「日本人はお茶を知っているようで知らない」と感じているという。古くからの伝承が色濃く残るお茶の世界には、種々の固定概念が強いことは事実。それを現代の感性でアップデートすることを目指し、これまでにないイベントも積極的に行なっている。 

一昨年、「茶酔」というイベントを都内のお寺で行なった。お客さんもアーティストもまず同じ一杯のお茶を飲むところからスタートする。アーティストはそのお茶に感じたことをそれぞれの手法で表現して、お客はそれを観る。お茶でリラックスしたと感じる人もいれば、同じお茶を荒々しく表現するアーティストがいたりと、感受性の違いを感じることができるイベントで、参加者にとってお茶の味わい方を見つめ直す機会となった。

脈々と受け継がれてきた技術を変えることなく伝える「伝承」に対して、現代の視点で解釈することを「伝統」と呼ぶ大場さん。例えば歌舞伎界では昨今アニメとのコラボレーションなどが盛り上がっているが、お茶の世界にはその「伝統」の視点が足りないという。

「茶室を一つのテーマに取り組んでいきたいと思っています。例えば、真っ暗な部屋と眩しいくらい明るい部屋、暑い部屋と寒い部屋、それぞれお茶の味わいも空間によって変わってくると思うんです。まだまだお茶を知っているようで知らないのが日本人。『知ったかぶり』の状態というか、味わいがどうこうだけじゃなくて、お茶の面白さや違う魅力の発信の仕方が大切なのかなと思っています。そうすることによって今までお茶を知らなかった世代も手を出そうとしてくれる。それがお茶の可能性なのかなと思います」

一杯のお茶の美味しさを一人ひとりに伝えながら、お茶という文化(上から下への伝承)をカルチャー(横に広がる伝統)にアップデートしようとする大場さん。このチル・スポットから、これからも面白いインスピレーションが生まれてきそうだ。


Tea Bucks
各地の選りすぐりの茶葉を提供するティースタンド。国籍も年齢も違うさまざまな方に、贅沢に淹れた一杯のお茶を飲みながらコミュニティーの場として利用してもらいたいという想いで大場正樹さんが2018年にオープン。お茶が繋ぐ素晴らしい縁でお茶のニューカルチャーを発信する。
www.instagram.com/tea_bucks (Instagram)

Photo: Eisuke Asaoka
Text: Yoshiki Tatezaki

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