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2020.12.04

日常にほしい美しさ
イイホシユミコさんの
ものづくりの秘密<前編>

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「yumiko iihoshi porcelain」の器の魅力は何だろう。まず、一目で引き込まれるような佇まいの美しさがある。無駄のないシンプルなフォルムにストイックなシングルカラーのプレートを見ると、心地よい違和感のようなものが湧き、思わず手を伸ばしたくなる。その一方で、手に取って「これに何を入ようかな」と頭が働きだす。はじめの違和感はあくまで自然な日常の延長上にあるのだと感じる。器作家/デザイナーのイイホシユミコさんが一つひとつデザインする「作品」でありながら、使う人の日常に寄り添う「プロダクト」でもある。

実はCHAGOCOROの取材でも度々使用している急須は、yumiko iihoshi porcelainの「kyu-su」というプロダクトだ。真っ直ぐな円筒形の胴体にシンプルなパーツ、釉薬を使わない焼き締めという方法で仕上げられた色と質感。他にありそうでない、うちにもプレゼントであの人にも、どこにでも馴染みそうな絶妙なデザインの急須だ。

今回はyumiko iihoshi porcelainを主宰するイイホシユミコさんとお茶をいただきながら、イイホシさんのものづくりについてお話をうかがった。

— 食器を中心に製作していらっしゃいますが、ものを作るということに目覚めたきっかけは何かありましたか。

イイホシ 母親がすごく食器好きだったので、子供の頃から母親の影響を受けていました。自分も食器が好きでしたが、形とかよりもその食器による「効果」みたいなものが印象に残っていますね。例えば、うちの母は普段の食事を松花堂弁当に入れてみたりする人だったんです。中身はいっしょなのに、器によってすごく楽しく盛り上がるというのが、器による効果の一つかなと。家の中にいるんですけど土曜日のお昼はお弁当箱に詰めて食べたりとかする、そういうちょっと天然な母親だったんです。

— 天然というか、素敵な遊び心ですよね。

イイホシ それが、子供心にすごく楽しくて。お客さんがとても多い家でもあったので、食器を買って、何を盛り付けてっていうのを考えているのが、いつもすごく楽しかったです。だから、陶芸をやり始めたのは、作りたいというよりも、まず食器が好きというのが強かったです。

— 作っているときも「何を盛ったらいいかな」と常に考えているんですね。

イイホシ そうですね。盛り付けたときの様子が一番大事。

— イイホシさんは一度会社でお仕事をなさってから、作る方に移られたそうですね。

イイホシ 雑貨の輸出入をする会社にいました。やっぱり食器だけやりたいと思って、どこで学ぼうか考えました。どこかに修行に行ってその作風のものを作るというよりは、「食器が作りたい」ということ。陶芸家になりたいというよりは食器を作りたい、食器というアイテムが決まっていたので学校に通うという選択肢を取りました。現在の嵯峨美術短期大学の当時あった陶芸科に2年間通いました。

— 陶芸の基礎からそこで学ばれたんですね。

イイホシ そうです。いろいろなコースが選択できるんですけど、私はろくろのコースを選択して、一から。

— 今もろくろを回してモデルを作っているんですか。

イイホシ 作ります、はい。目黒のアトリエにはろくろとか窯があって、そこで普段作っています。

この日、イイホシさんの私物のkyu-suで煎茶を淹れていただいた。「今朝も飲んできました。一日のどこかで必ず飲みますね」と、馴れた手つきでお茶を淹れていく。

yumiko iihoshi porcelainのアルミプレートを茶盆として。湯呑みは美術学校の教師だった陶芸家・内山政義さんのもの

作品づくりのときも常に傍らにお茶があると話すイイホシさん。「やっぱりお茶飲んだらスッキリしますね。コーヒーとか紅茶もよく飲むんですけど、やっぱり緑茶ってちょっとまた特別な気分転換になるなって思っていて」。

イイホシさんの食器づくりのコンセプトは「手づくりとプロダクトの境界にあるもの」。モデルは一つひとつイイホシさんが手作りしているが、それを複製し量産する形で商品を生み出している。そのためyumiko iihoshi porcelainのプロダクトに惹かれて手に取って値段を見てみると、驚くことが多い。てらいなく日常に迎えられる手頃なプライスレンジなのだ。手づくりとプロダクトの間。その難しいバランス感覚は、器作家の側面と食器が好きで日常で使うことを前提としているイイホシさんのライフスタイルが形づくっている。

— 美術学校を卒業されて、東京で制作活動をスタートされて、量産という形は当初から目指していた方向だったのでしょうか。

イイホシ 最初からそこを目指していたっていう感じですね。今は私が手作りで作っているって知らない人が多いと思うんですけど。

— デザインをして量産するというスタイルの先達はいらっしゃったんですか。

イイホシ いや、いないんです。富本賢吉さん(人間国宝にも認定された陶芸家。1886〜1963年)が、量産っていうよりは職人さんに頼んでたくさんの量を作っておられたっていうのは知っていたんですけど、完全にプロダクトとして量産という方は知らなくて。それで、手探りですね。本当に…1歩進んだらその1歩先に道が出てきてっていう感じですね。量産するということは決めていましたが、資金や出荷の規模もやりながら探り探りでした。

— 量産した方がいいと思った一番のメリットは何だったのでしょう。

イイホシ 一人で作る量と圧倒的に違うということがまずあります。そして、なんていうんですかね……作家の手作りの「重さ」みたいなのがそこ(プロダクト)に入らない方がいいと思っていたのが一番の理由です。普段の日常の食器として、値段もあまり重くなく、愛着は湧くけど押し付けがましくないっていうのが作りたかったので、量産することはすごく重要でした。

— 「重さ」というのは、人によっては使いにくさにもなり得るものですよね。

イイホシ そうですね。でも、本当バランスというか、量産でそれを生かせたらいいことになるかもしれないですし。毎日使うことを考えると、作家の誰々さんのっていうのは少し面倒になるのではないかとも感じていました。

— その上で味気ないものにならず、かといって個性が出すぎないようにというバランスが難しいですよね。それでいうと、イイホシさんのkyu-suは、「これ欲しい」と思わせるデザインだと思うんです。シンプルだけど、ちゃんとそそられるというか自分で使いたい形だなって思いました。

イイホシ そうなんですか。嬉しい。別の急須はあまり使ってこなかったというか、淹れるときは自分で作った急須か茶漉しだけか。急須があると、いきなり茶の間みたいになるじゃないですか……ほっとするんですけど、それがあまり好きではなくて。いただいた急須を使っていたときもあったのですが、お茶を淹れたら隠しておくみたいな感じだったこともあり、出しておいても違和感のない急須が欲しいなと思っていて、ないから作らないとなぁって。

イイホシさんのkyu-su製作の秘話や暮らしのプロダクトをつくる上で考えていることについて、後編に続きます。

イイホシユミコ|Yumiko Iihoshi
兵庫県出身。器作家/デザイナー。雑貨の輸出入を手がける会社を経て、京都嵯峨芸術大学陶芸科卒業後、自身のブランド「yumiko iihoshi porcelain」を立ち上げる。2010年から目黒区にアトリエ・事務所を構え制作活動を行っている。2020年11月、東京・代官山にカフェ併設のショップをオープンした。
y-iihoshi-p.com
instagram.com/yumikoiihoshiporcelain

Photo: Taro Oota
Interview & Text: Yoshiki Tatezaki

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