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2020.11.27

祖父から孫へ
現代の町のお茶屋
[茶 岡野園]の営み<後編>

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ストーリーを伝えるロゴデザイン

埼玉県のJR東大宮駅前にある[茶 岡野園]は、ごくごく普通の、町のお茶屋さんではあるけれど、店頭にかかるのれんが少しモダンな印象。しかものれんに抜き染めされた記号のような文字に一瞬、あれ?と思考が止まる。ああそうかと合点し、「おかのえん」と読めたときの得意な気持ちに、その気がなくても思わず、のれんをくぐってお店に入りたくなる衝動に駆られる。

のれんは「黒羽藍染紺屋」を営む幼なじみが染めた松煙染。江戸時代は店名を絵文字で記すのが流行った。このロゴには当時と同じような洒落た心意気が感じられる

すばらしい仕掛けともいえるデザインだが、ロゴをつくろうと最初に声をあげたのが姉である相田芽美さん。

「仕事でお茶に関わることになって、[岡野園]には素晴らしいストーリーがいっぱいあるな、と気づいたんです。祖父が続けてきたことを妹が受け継いだり、母は母でずっと茶の湯についていろんな活動を続けてきていて、素晴らしいものがいっぱいあるんですけど、外から見えづらい、わかりづらいな、と思ったんです。あの、お茶屋さんて入るの勇気がいりますよね…。わたしの友人にもお茶屋さんでお茶を買ったことがないっていう人が多くて。それでロゴをつくって、ストーリーが伝わりやすいようにしたかったんです。祖父の代から続くものも大事にしたいけど、それだけだとやっぱり敷居が高くなってしまうから」

狭山茶を淹れる芽美さん。茶器は、50年ほど前から使っている李朝白磁。昔は紙カップがなかったため、試飲はいつもこれを使用していたそう

ロゴを依頼したデザイナーは家族の中に入って、祖父の嘉一郎さん母の初美さん、妹の尚美さんそれぞれと対話し、考えを深めていった。出てきたたくさんのデザイン案は立場も年齢も異なる家族間で意見が割れ、半年寝かせたあと再び議論を戦わせた。最終的に、「お茶はユニバーサルなものだから海外の方でも、子どもでも、ヒントがあれば誰でも読めるようなロゴ」という考えにまとまり、現在のものに決定。そんななか最後まで渋ったのが、3代目を継いでいた尚美さん。

「どうしてもわたしは、祖父の店を守りたい気持ちが大きかったので、昔からのお客さまに摩擦がでるかな、と心配だったんです。でも、摩擦覚悟で変えたら、意外とご年配のお客さまが『まあ、すてきね』と言ってくださったり、『なんて読むの?』と楽しんでくださったり。みなさん、ポジティブに捉えてくださって。あと、お茶屋さんらしくないロゴのせいか、目に止まりやすくて、[岡野園]という名前を覚えてもらえる。ぱっと読めない分、意識に残るみたいです。いまはお気に入りです」

[岡野園]で長年に渡って使用されている茶箱。嘉一郎さんが書いた「さやま茶 岡野園」の文字が茶壺の上に映える。芽美さんは「おじいちゃんフォント」をまとめるのが夢なのだとか

淹れる人それぞれの味が、それぞれ正しくて、どれもおいしい

近年、[岡野園]が力を入れているのがワークショップ。芽美さん・尚美さん姉妹が講師となって狭山茶の魅力を伝える活動をしている。「始めた頃は、ワークショップってすごく難しいなと思っていた」と尚美さんは言う。

「伝えるというのは、普段何気なく行っていることを改めて客観的に話すことですよね。きっとみなさん、家でお茶を飲んでいるはずなので、それをよりおいしく淹れてもらうためにはどう伝えたらいいのかが難しかったんです。悩んだ末、ワークショップに参加して家に帰ったあとも、だれかを想って丁寧に淹れることを習慣化してほしいな、というところに落ち着きました。それで、自分が淹れたお茶を隣の席の人と交換する、というのを始めたんです。そうしたら、全員のお茶の味わいがみんな違っていることがわかって」

[岡野園]のワークショップでは、自分用と隣の人用に2杯お茶を淹れ、隣の人と淹れたお茶を交換する。そうすると参加した人たちから、「同じ茶葉で、同じように淹れたのに、味わいが違う」という発見が生まれ「人柄がでるんじゃないか」と盛り上がるのだそう。

「せっかちな人はちゃちゃちゃって淹れたり。几帳面な人は均等に注いだり。微々たる違いですけど、その違いをみなさん、それぞれに発見されて。『人に淹れてもらったお茶ってこんなにおいしいんだ、じゃあ家でも家族に淹れてあげよう』って思ってもらえたらいいな」(尚美さん)

「うちは狭山茶専門店なので、静岡茶とか鹿児島茶とか産地や品種ごとの飲み比べはできないんですよね。淹れる人によっての味わいの違いを楽しんでもらってます」(芽美さん)

現在、立位置は異なるが、ふたりとも[岡野園]を未来へ繋いでいきたいという気持ちでは一致している

まさに、狭山茶しか扱わない[岡野園]の特性が幸いしたというか…。わたしたちはすぐに「正しい淹れ方で正しい味」に囚われてしまいがちだが、同じ条件でも人によって味が異なるのなら、もっとポジティブに自分の味と向かい合えるはず。

「そうですね、正しい淹れ方があるってみなさん思っていらっしゃるので、自分の味を否定的にとらえるんですけど、それぞれの味わいがあるので、それぞれが正しい。不思議と人が淹れたお茶はおいしいと感じるんですよね。自分では薄いと感じていても、人から「やさしい味だね」と言われると、「わたしのもおいしい」って自信につながるみたいです。わたしたちも互いにお茶を淹れ合うんですけど、姉のお茶とわたしのお茶は違います」(尚美さん)

「うちはむかしから淹れ合う文化があったというか。祖父が『今日はだれに淹れてもらおうかな。最後の一滴はおいしいからおじいちゃんにね』って。当たり前にお茶があって、当たり前に淹れる人によって味わいが異なるのを知っていたのはよかったと思います」(芽美さん)

変わらずに広げていく

店舗の奥には嘉一郎さんの住まいと茶室が続く。茶室は表千家の設えで、2代目初美さんがお世話になっている釜師・二代長野垤志先生に「嘉祥庵」と命名していただいたそう

最後にこれからの岡野園についてふたりに尋ねた。

「昔ながらの町のお茶屋さんはお客様も固定化していて、同じ年代で一緒に歳を重ねていると思うんです。それだけお客様の生活に寄り添ってきたのかな、と。祖父の代、母の代のお客様も大切にしながら、でも、新しい、若いお客様も町のお茶屋にきてくれたら、もっといいなって思います。とはいえ、岡野園であんまり新しいことやマニアックなことをしたいわけでもないんですよね。町のお茶屋として、ひとびとの日常でありたい。でも、ライフスタイルやお茶のたのしみ方も変わってきていて…その塩梅が難しくて、いまも模索中です」(芽美さん)

「時代にあわせてとか、若い人にもっとお茶を飲んでもらうために、というのは、そんなに思っていないんです。やっていることも昔と変わらない。わたしは祖父の味、岡野園の味を守りつつ、でも、姉がデザインやアイデアで、手に取りやすい形や見せ方を考えてくれるのはありがたいです」(尚美さん)

嘉一郎さんが書いた文字と茶壺のモノトーンデザインが魅力的な紙製のパッケージ。嘉一郎さんの達筆は長生きのお守りによいと評判で季節の禅語を書いてプレゼントしては喜ばれているそう

実直に初代の味を受け継ぎ、未来へつないでいこうと奮闘する尚美さん。尚美さんの味を守る姿勢は尊重しつつも、[岡野園]を時代に寄り添った存在にするために、見え方伝え方を模索する芽美さん。3代目姉妹ふたりで支える岡野園の未来が非常に楽しみだ。

茶 岡野園|Cha Okano-en
1953(昭和28)年、埼玉県大宮市で創業。契約農家から直接仕入れた狭山茶と茶道具の専門店を営む。10年ほど前に、大宮から東大宮に移転したのに合わせ、芽美さん・尚美さん姉妹が、祖父が築き上げ母が培ってきた[茶 岡野園]を未来へつなげる日々を送る。
okano-en.com
instagram.com/cha_okanoen
facebook.com/cha.okanoen

Photo: Yutaro Yamaguchi
Interview & Text: Akane Yoshikiawa
Edit: Yoshiki Tatezaki

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