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2019.12.06

“世界一”の抹茶カクテル
The SG Clubの
Speak Low

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抹茶フレーヴァー商品の人気はますます高まるばかりで、海外からも“matcha”に熱い視線が注がれている。11月には「口切(くちきり)」と呼ばれる抹茶の“旬”を迎えた。スイーツだけではなくアルコールドリンクにも用いられ、さまざまな風味との組み合わせの可能性が広がっている抹茶を紹介するシリーズ。最後となる今回は、カクテル世界一に輝いた渋谷の世界的有名店の抹茶カクテルの秘密をご紹介。

ルーツへのリスペクトと大胆な発想が生んだ珠玉の一杯

2012年に世界有数のカクテルコンペ「バカルディ レガシー カクテル コンペティション」で見事優勝を果たした後閑信吾さんがオーナーを務めるバー[The SG Club]は渋谷の雑踏を少し抜けた神南の路地にある。「味わって飲む」を意味する“Sip”をテーマにしたクラシックな雰囲気の地下のバーフロア、「気軽に飲む」を意味する“Guzzle”をテーマにした1階のカジュアルバー。店名の「S」と「G」には、さらに“Samurai”と“Gang”という言葉もかかっている。1860年に通商交渉のために初めてアメリカに渡ったサムライたち。遥か遠く、当時は別世界ともいえるアメリカの地で、バー文化やニューヨークのギャングたちと出会った彼らが、日本に戻ってバーを創ったら……。そんな時代的なコンセプトに沿って設えられた店内の壁紙には畳、メニュー表には畳縁、カウンター奥には銀箔など、和と洋が絶妙に溶け合い、異世界に迷い込んだような気がしてくる。

オーナーの後閑さんも、2006年に渡米し2012年前述のカクテル世界一に輝き、上海、ニューヨーク、東京など世界を飛び回る現代のサムライと呼んでいいだろう。後閑さんの名を世界に轟かせることとなったのは抹茶を使ったカクテル。それが「Speak Low(スピーク・ロウ」だ。

すっきりした味わいのホワイトラム、黒糖のような甘みがあるダークラムをベースとして、「世界一甘いワイン」と呼ばれる干しぶどうをつかったシェリー酒ペドロヒメネズに抹茶、香りに柚子を加える。深みのある緑色の液体は、「SG」の刻印が浮かぶ氷とともにロックグラスの中で輝いて見える。柚子の爽やかな香りが鼻に届き、シェリーの甘みと酒精を感じつつ、抹茶による苦味が一体となり快いキレがある。

2012年当時、さまざまな食材をカクテルに取り入れ、ミクソロジーという新しい潮流が広まりつつあったころ、抹茶という素材を取り入れることにチャレンジするバーはまだ少数だったという。後閑さんが抹茶を選んだのは、祖母が茶道をやっていて自身も親しんだ経験があったから。アメリカの地で世界と戦う上で、自身のルーツを見つめ直し昇華させた(2012年の世界大会ではアメリカ代表として出場した)。研鑽の末に身に付けたシェリー酒の知識との組み合わせが生まれたことは、まさに古きを温めて新しきを知るを体現しているといっていいだろう。

Speak Lowを注文すれば、バーテンダーが目の前で抹茶を茶杓ですくい茶筅を使って茶碗の中で点てる。カクテルを注文すれば目の前でシェイカーを振るのと同じようなものだ。抹茶という素材を使うことで、こうした茶道具がバーカウンターに入ることになる。カクテルの作り方の幅を抹茶が広げたともいえるし、モノや設えの観点でも、文化が入り混じるThe SG Clubのコンセプトを象徴するような一杯だ。

この抹茶カクテルにまつわる“逸話”がもう一つある。店内の壁にかけられた女性の浮世絵。題名は「笹色紅(ささいろべに)の女」という。笹色紅とは、江戸時代に流行った化粧で、異なる色の口紅を塗り重ねることにより、光の反射で玉虫色に輝くことをいう。この絵は、その歴史をThe SG Club流に解釈して表現したもの。左手にはグラスに入った抹茶カクテルSpeak Lowを持ち、唇を緑色に染めながら着物姿の女性が美味しそうに飲んでいる。つまり「江戸時代に流行った笹色紅というのは、実はSpeak Lowを飲んだ多くの人々のことだったのでは」という時空を超えた洒落というわけだ。

日本の伝統的な飲み物である抹茶を世界一のカクテルに新しく生まれ変わらせたかと思えば、また江戸時代にタイムスリップさせる。ウィットに富んだ大胆さによって、抹茶を普遍的な存在にすら感じさせる。奥深いインスピレーションが広がる唯一無二の抹茶カクテルだ。

The SG Club
2012年Bacardi Legacy Cocktail Competition世界大会で優勝を果たしたバーテンダー後閑信吾氏が2018年6月にオープンした日本初出店となるバー。1階「Guzzle」の茶割のほか、地下の「Sip」でもさまざまなお茶をつかったカクテルが楽しめる。2019年Asia’s 50 Best Bars第13位。
www.facebook.com/thesgclub (Facebook)
www.instagram.com/the_sg_club/ (Instagram)

Photo: Kenta Aminaka
Text: Yoshiki Tatezaki

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