• 世界中のお茶を俯瞰して文化の中心・京都から再発信する
    京都・河原町[7T+]中野賢二さん<後編>

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    途方もないお茶の世界を楽しむ羅針盤になりたい
    京都・河原町[7T+]中野賢二さん<前編>

    京都の中心街を東西に貫く四条通。烏丸から河原町、祇園、そして八坂神社へとつづく通りは祇園祭の山鉾巡行やまほこじゅんこうの通り道で7月には人々でごった返すが、そうでなくとも、大きな商店街、多くの飲食店や小売店、ホテルなどな…

    2024.01.12 INTERVIEW日本茶、再発見

    人々で賑わう京都・四条通。烏丸から河原町の間は特に、国内外からの観光客も地元の買い物客も入り混じっている。冷え込みの厳しい京都の冬でもこのあたりは、人いきれとまではいかないまでも、活き活きと熱気に溢れている。

    四条通から一本下がった綾小路通は、一方通行の小さな路地。そこに構えるお茶屋[7T+]を訪れている。「夜の方が雰囲気があっていいんですよ」というオーナー中野賢二さんの言葉通り、「茶」のネオンサインもガラス越しに浮かぶ店内の風景も、一層“引力”を増したように感じる。

    “フランスかぶれ”から陶芸家、そして中国料理店開業へ

    客足が落ち着いた営業時間の終わり頃、あらためて中野さんにお話を聞いた。前編で触れたように、[7T+]では中国の六大分類法をベースにお茶を7つに分類して紹介することで、よりシンプルによりフラットにお茶の世界への入口を開いている。また、中野さんは「評茶員」という中国茶の製法・品質鑑定のエキスパート資格を持ち、さらには日本茶にも幅広く精通している。「日本あるいは中国と偏りすぎず、無国籍でやることがお茶を一般化するためには必要」と語る、その幅の広さと懐の深さはどこから生まれたものなのか? 中野さんの来歴が気になるところだ。

    「元々、大学はフランス語学科に通っていました。外国といえばアメリカというのが普通な中で他人と同じは嫌だということもありましたし、フランス料理の色とりどりのソースに魅了された経験もあって、カルチャーの中心はフランスだというふうに思っていました。現地にも行って、いろんな場所を旅していた、言ってみれば“フランスかぶれ”だったのですが、その中で日本について知らないことを実感しました。政治のことや、『百人一首で好きな歌はどれだ?』と聞かれて答えられるはずもないといったことまで、恥ずかしい思いをたくさんして、これではあかんと。日本を知らないと思った分、逆に興味が湧いてきて、なぜかその当時、『人里離れたところで陶芸をして生きていけたらいいな』という考えが浮かんだんです。いきなり陶芸家の門を叩いて、伊賀焼(三重)の窯元に拾っていただきました。独立まで7年、独立後はお隣の信楽(滋賀)で8年、陶芸家としてやっていました」

    変化に富んだ20〜30代だ。ただ、フレンチのソースに興味を持つところなど、色や香り、味という要素への興味は今にもつづいていると感じる。「湯呑みも自分で使ってみないと作れない」と中野さんが話す通り、うつわづくりをする中で、自然とお茶に向き合う時間も生まれた。滋賀の信楽町にはお茶で有名な朝宮という地区があるが、その当時に朝宮のお茶文化に親しんだことは今の[7T+]のラインナップにも活きている。

    さて、中野さんの人生にはまだ転換点がある。その後、2004年に京都・出町柳(京都御所の北東、下鴨神社が有名なエリア)で中国料理店を開くのだ。

    「信楽の工房帰りによく寄っていた中華料理店がすごく美味しくて、上海出身のシェフとも懇意になり、彼が独立する際に一緒にお店をやることになりました。出町柳の自由でオープンな雰囲気が好きで、その場所を選びました。その店で中国茶を20種類以上出していて、2004年から(お店の経営を譲るまでの)17年の間には何度も中国に行きました」

    「中 国」という2文字が大胆にデザインされたジャージは撮影用に選んでくれたのかと思いきや「いやいや、これが私のいつもの仕事着ですよ!」とのこと。「もう一杯お茶を淹れさせてください」と、中国のお茶を選んでくれた
    広東省の鳳凰山でつくられる「鳳凰単欉(ほうおうたんそう)」の「桃仁香(タオレンシャン)」。単欉は、“1本の独立した木”という意味で、この茶葉の場合樹齢約130年の大きな木一本から採られた葉だけを使って仕上げられた青茶(烏龍茶)
    「一本の木の個性、ポテンシャルを最大限に活かす仕立て。樹齢が高くなると収量は減るものの葉の凝縮感は増し、量は少なくなってもより高く売れる。したがって条件の良い古木は積極的に残します。でも、これができるのは広東省のこのエリアだけ。発酵と焙煎の技術もずば抜けていて、高い値がつく。だからこうした贅沢ともいえるつくり方ができるんです」
    桃仁香(タオレンシャン)」の名の通り、桃や杏仁のような甘い香りが驚くほど鮮やかに、鼻いっぱいに充満してくる。「5煎目くらいになると、焙煎香がとれてきて一番美味しくなってきます」

    中国が教えてくれた大切な価値観
    「価値が上がる茶葉」と「高い茶葉を求める客」

    「中国茶に見習いたいと思うことの一つは、熟成する良さを研究してエビデンスをとった上で、このお茶は熟成した方がいいという飲み方、カルチャーを育ててきたこと。“今年売れなくても、(同じ茶葉が)来年さらによくなる”というのは、日本の新茶に対する考え方とはとても対照的ですよね。もちろん、農法の違いなど条件の違いはありますからそう単純な問題ではありません。それから、社会全体として大きく違うのは“お金”に対する価値観です。中国では相手に安いものをおすすめすることは失礼なこと。『俺を舐めているのか』と本当に怒りますからね」

    薄利多売という言葉が象徴的であるように、日本では良いものを安く提供するということはサービスであり、一種の美徳として染み付いている感がある。儲けるということに関しても、遠慮や謙遜といった態度で包まないと表に出せない気がする。

    「中国では、お金を稼ぐことは“善”なんです。誰かを喜ばせた“対価”なのだから“徳”を積むことにつながる。そういう考え方なので、お金になるとわかればすごく力を注ぎます。お茶に関しても、これだけ細分化してレベルが上がりつづけるということは、“お金になること”が前提のビジネスができているということ。そこは日本が顧みなければならないところだと感じさせられます。日本茶業界を見るとどうしても、安売りをして自らの価値を下げてきてしまったと感じる部分があります。安くすることがサービスだというのは時に悲劇で、今そのツケが回ってきていると感じている人も少なくないのではないでしょうか」

    中国で見たお茶の“パラダイス”
    四川省の屋外茶館

    もう一つ、中野さんが大切にしている中国でのお茶体験は、四川省ではありふれた日常の風景だという。

    「四川省は、史実として初めてお茶を植樹して栽培することに成功した場所でもあるのですが、人口あたりの茶館の数が中国で最多。屋外茶館というのが多くて、だいたい大きな公園に行くと何百席もの竹の椅子がばーっと置いてある。お茶を蓋碗でひとつ注文したら一日中、何をして過ごしてもいい。カードゲームや麻雀をしたり、お弁当を食べたり、宿題しても仕事してもいい。この世のパラダイスみたいなところが公園ごとにあるんです。そういうことが“日常のドラマ”として四川の茶館では日々繰り返されている。人と人の間に常にお茶があって、お茶を飲みに集まったのに最終的にお茶の話は全然していないみたいなことも含めて、『お茶ってこういうものなんだよな』って、すごく刻み込まれました。それが原体験としてあって、ああいう景色を日本でも見たいなと思っています」

    中野さんが見せてくれた面白い中国茶。江西省は質のいい紅茶をつくるが、名産地というイメージがないため知恵を絞ってギフト用に編み出したのが、こちらの紐でぐるぐる巻きにした紅茶。色付きの紐は正しい順にほどかないといけないらしく、そのコミュニケーション含めて贈るのだそう。発想がすごい
    こちらは前編記事のトップ画像中央に写っていた輪っか型の茶葉にお湯を注したところ。「女儿环」(ニュウアーホアン、女の子のイヤリングという意味)は、大ぶりな新芽を輪っか状に丸めてつくられたジャスミン茶。「中国茶は乾燥状態・茶殻ともに茶葉の見た目を重視」するそうで、こうしたさまざまな工夫を凝らしてお茶を売ろうとチャレンジをしている

    「中国では、定番でずっと飲まれるお茶もありながら、トレンドがあり、規模が大きいですので流行り廃りもすごく大きいんです。評茶員という資格で学んだことももちろん大事なのですが、テキストブックが追いつかないほど中国のお茶は日進月歩。やはり、現場が一番楽しいんです」

    自分自身「飽きやすいタイプ」だと語るが、そんな中野さんのことをお茶が離さないようだ。最近、感動したお茶はなんとスコットランド産の紅茶だという。スコットランドでお茶をつくっているんですか?と思わず聞いてしまう。

    「ウイスキーを造る国ですから、自分たちの土地への畏敬の念が深い。そして世界で3番目に人口あたりのお茶消費が多い英国ですので、自分たちの土地で育ったお茶を飲みたいという思いが強い。Tea Scotlandという組織を創って、温室やマルチで熱が逃げない工夫をして、相当手間をかけてやっていますがお金にはならないですよ。夢なんです。ロマンが詰まっているんです。そのファーストロットが100gで2万円以上。関税や送料別です。もうお祝儀価格ですが、“この瞬間を共有した”という気持ちで買わせてもらいました」

    中野さんとお話をしていると、お茶は多面的だと感じさせられる。お金になるもよし、お金にならぬもまたよし。追いきれないほどのバリエーション自体も中野さんを飽きさせない理由の一つには違いないけれど、こうした感動する出会いもまたその一つなのだろう。

    愛用の抹茶椀を手に。有名牛丼チェーン店のどんぶりを抹茶椀として使っている。「さすが、よく考えられているんです。フチは5mm厚くらいで口に入ってきやすい。呉須、金彩、赤絵と、てんこ盛りの有田焼です」

    最後に、抹茶ラテをいただいた。ここまでにいただいたお茶や伺ったお話とは対照的で、大衆的なメニューと感じるかもしれないが、カフェとしてのお茶は[7T+]のもう一つの“入口”といえる。

    「おくみどり」「鳳春」「きらり31」「うじひかり」「あさひ」といういずれも宇治産の単一品種の抹茶を選べるように、“茶葉屋”としてのこだわりも満点。イタリア産オーガニックオーツミルクのみを使用して点てる。いただいたのは「鳳春」と「うじひかり」。前者の方がややすっきりしていて、誰もが飲みやすいと感じそう。後者は渋みを感じやすく、より本格派という印象。

    「マレーシアなど東南アジアの抹茶好きは、品種から産地、摘採方法といったディテールまで非常によく研究しているので驚きますよ。日本で知られていないだけで、海外で有名な宇治の抹茶農家さんというのも実はいるんです」

    お茶を俯瞰できる場所から文化をリビルド

    「中国茶をある程度見てきて、なおかつ朝宮の近くに暮らしたことがあり、お茶の文化的な中心である京都にいる。陶芸家として暮らしたことがあるので、生産者がいかに大事かということも理解しています。なので、自分で言うのはなんですが、日本茶を俯瞰できる立場にいるのかなと思います。京都は、九州、四国、静岡など各都市の中間にありますし、今は中国、台湾からの茶人が多く訪れている。東京以上の密度で世界の茶人と交われる街なんです。私自身は京都出身ではありませんが、ここでお店をやることで、京都からお茶の文化をリビルド、再発信していくことができたらいいと思っています」

    そんな普段は秘めた思いまで語ってくれた中野さん。そんな理想のために忘れてはならないのは「まず楽しくお茶を飲める場所が増えて、自由に楽しもうという気持ちになってもらうこと」。すっかり話しすぎて、閉店時間はとうに過ぎてしまっていたが、中野さんが大事にするお茶の時間をしっかり体感させてもらえた。

    中野賢二|Kenji Nakano
    大阪生まれ、東京育ち。大学ではフランス語を学び、渡仏し数年を過ごす中で、日本文化に目覚める。伊賀焼の窯元で7年修行した後独立し、滋賀・信楽町に窯を開き8年陶芸家として活動。縁あって上海出身のシェフと出会い、2004年、京都・出町柳に中国料理店[燕燕]をオープン(現在は別経営)。2021年6月、河原町に[7T+]をオープン。中国の国家職業資格である評茶員。日本茶インストラクター。

    7T+|セブンティープラス
    京都府京都市下京区塩屋町73番地1
    11:00〜19:00、無休
    (変更の場合あり。インスタグラムストーリーズにて告知)
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    instagram.com/7teaplus_kyoto

    Photo by Tameki Oshiro
    Text by Yoshiki Tatezaki

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