• ザ・コンランショップ初、アジアをテーマにした代官山店とTEA BAR[聴景居] <後編>中原慎一郎さん・櫻井真也さん対談「日本茶でアジアを表現する」

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    系列として世界初となる“自主編集型”の店舗[ザ・コンランショップ 代官山店]。アジアをテーマとした同店と方向性を同じくして、併設されたTEA BAR[聴景居]もまたアジアのお茶文化を今までにない形で体感させてくれる空間となっている。

    今回は、コンランショップ・ジャパン代表の中原慎一郎さんと、[聴景居]のディレクションを務めた櫻井真也さん([櫻井焙茶研究所]所長)のお二人の特別対談が実現。日本のお茶にこだわり、国内外から注目を集める“TEA BAR”について詳しくお話を伺った。

    中原慎一郎さん(左)と櫻井真也さん(右)。[聴景居]の隣のギャラリースペースにて

    ——独自のセレクトの家具やライフスタイルグッズを展開する「ザ・コンランショップ」ですが、今回そこにTEA BAR[聴景居]というお茶の空間が併設されました。それが実現した経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

    中原 茶室をつくることについては、僕たちから櫻井さんにお声がけしました。一年半くらい前になりますよね。ザ・コンランショップは来年日本で30周年を迎えるのですが、日本のことやアジアのことをあまり深くはやっていない会社でしたので、せっかく日本に根付いているのなら、ミックスさせた何かが必要だなと感じていました。以前、この地下には日本料理店が入っていて、ちょうど今のところに茶室があったんです。和の中で現代的な生活のあり方を提案・模索するには良いところだなと思って、櫻井さんにすぐ連絡しました。「こういう場を使って何かできませんか」と。

    ——すでにあった茶室の存在が今の形につながっていったのですね。お二人はどれくらいのお付き合いになりますか。

    櫻井 2016年に[櫻井焙茶研究所]が西麻布から南青山に移転するときからですね。中原さんがランドスケーププロダクツの代表をされていて、スパイラル(南青山)に入っている[ミナ ペルホネン]さんの設計デザインをなさっていました。それ以前から存じ上げてはいましたが、そのときから仲良くさせていただいています。コンランショップの代表に就任されたというのは聞いていましたし、うちの店にいらっしゃったときには「今度何か一緒にやりましょう」と言っていただいていたので、電話が鳴ったときには「おっ、何かありそうだ」と思いました。お互い仕事の感じも分かっていましたので、中原さんを信じながらついていっているという感じですね。

    ——最初に場を見たときの印象はどうでしたか。

    櫻井 元は茶室で、畳が張ってあって、水屋もあってという感じでしたね。

    中原 ショップを設計してくれた芦沢啓治さんにも相談したところ、営業上の利便性も考慮して設計しなおすことになりました。

    櫻井 コンランショップは、アフタヌーンティーや紅茶の文化があるイギリス発の会社です。そのあたりを踏まえて日本でやるとしたらどうなるかなと考えていました。使うお茶は日本茶なのですが、どういう風に見せるかと。紅茶に振るわけでもないし、日本茶だけに振るわけでもないし。アジアのお茶の歴史とか伝わり方とか、お茶を介してどういう雰囲気を作れるかなというのを考えていったという感じでしたね。

    ——お店をつくるコミュニケーションのなかで、何かキーワードはありましたか。

    中原 ひとつは「アジア」ということです。我々はロンドンがベースの会社、それでお茶をどう出すかという中で、「茶室」というよりは「TEA BAR」と名前に付けることによって、いわゆる茶寮みたいな感じとは変わってモダナイズされたかなと。僕はもっといろんな地域の茶葉を使おうかと思っていたんですけど、櫻井さんがあくまで日本の茶葉を使って表現するとおっしゃっていて、そこはさすがだなと感じましたね。

    日本のお茶が必要でした

    櫻井 中原さんは最初に「アジアをコンセプトにして、コンランショップがアジアから発信したらどうなるか」ということをおっしゃっていました。茶室があるんだけど、茶房と呼ばずに TEA BARにしようと。ロンドン、アジア、お茶、コンランショップらしさ、芦沢さんのデザイン、中原さんのコンセプト……と考えていくうちに、日本の土地から、アジアをロンドンをインスパイアするようなことができないかなと感じました。日本のお茶なんだけど、ヨーロッパっぽいな、アジアっぽいなというニュアンスが出ると面白いと。そういった茶葉があるといいなと。なので、選び方としては日本でつくられる発酵系のお茶がメイン。緑茶としては玉緑茶と玉露があって、それ以外は発酵系のお茶になっていて、それは今まで自分のお店でやっていたこととは別で、中原さんのコンセプトからつくり上げたところです。

    ——櫻井さんは全国の茶産地を巡っていらっしゃいますが、発酵も含めたお茶のポテンシャルが日本にもあるというアイデアは以前から温めていたものだったんですか。

    櫻井 そうですね。各地に行くうちに白茶、烏龍茶、紅茶、プーアル茶といった発酵系のお茶をつくっている方がいて、年々質が良くなっていると感じていたので、本当に良いタイミングでした。日本茶でそういうことも全て表現することができる。ここにくると日本の発酵茶が全部分かるというような、ある意味日本のお茶の教科書みたいな存在かもしれません。こういったことは日本のお茶をつくっている人たちの技術の向上があるからできているものですね。もちろん、インドから紅茶を取り寄せてやることはできたと思います。でも、そこではなくて日本にいるからこそできることにアジアのエッセンスを取り入れてやりたかった。だから日本のお茶が必要でした。

    ——そういったお茶づくりをしている方は、どういう規模、現場でやられている方々なんですか。

    櫻井 少量生産ですね。だからあまり表には出てこないところも多いと思います。いろんな挑戦をされているところを自分たちもピックアップしています。「聴景居ブレンド」(前編記事で紹介)は、オリジナリティのあるお茶として、香りに特徴があります。アジアのお茶を調べたときに、食事にスパイスを使う文化が多いことにあらためて気づきました。そういうところをうまく落とし込められたらと思いました。

    ——スパイスをすりつぶして、ブレンドティーと目の前で合わせるという。これは新しい試みだったんでしょうか。

    櫻井 実は、クリスマスのディナーがあったときに、(三軒茶屋のワインビストロ[uguishu]の)紺野さんから「デザートに合うお茶」というリクエストがあって、牛蒡(ごぼう)、スパイス、焙じ茶を使うお茶をつくったんです。その経験が今回の「聴景居ブレンド」に活きています。使う道具はサイフォンにして、少しお茶の未来を想起させられたらと。茶器を使わずにこういったお茶を淹れるという感覚も面白いかなと思っています。茶室のように釜は使っているけれど、サンドブリュワーも使っていますし、いろんなものがミックスされているような感じになりました。

    ——サイフォンは香りを出すのに適していますよね。

    櫻井 香りと味を出すにはいいですよね。普通にお湯を注いで抽出すると柔らかく香りがたちます。それもおいしいのですが、アジアの激しい感じを出すにはサイフォンで一気にやったほうがいいと考えました。

    中原 柔らかさが違うんですよね。

    櫻井 サイフォンでやると味が違いますね。

    やるからには見たことない空間を

    中原 見ていても面白いですよね。道具って面白いな、と思わされました。全てを急須といった従来の茶器でやるよりも見せ方を含めて現代的な道具が入るのは、TEA BARとしては非常にいいなと感じました。香りをミックスして感じさせるというのは、こういう狭い空間だからこそ感じさせやすいのかなと。そういう意味で、香辛料やスパイス、発酵茶が中心だったというのはすごく面白いなと思いましたね。

    ——“どの国っぽい”というより、すごくミックスされた上で[聴景居]の味として新しいなと感じます。海外の方も日本の方もそんなふうに感じるんじゃないかなと。

    中原 櫻井さんは特にプロだし、“なになに風”になるのは嫌な人だろうと。”そのまま”はやらないだろうなと思っていました。

    櫻井 そういったプレッシャーも感じていたので、期待に応えられてよかったです。

    中原 やるからには見たことのない空間を作りたい。得たことのない体感を自分たちのベースにプラスしたいですね。僕らもインテリアショップをやりながらこういうことをするのは新しいことだし、櫻井さんも自分の本業からプラスして何か新しいことをやるというのが意味のあるコラボレーションだと思うので。お互いにとって挑戦だったと思いますが。

    櫻井 中原さんとやらなかったら多分こういうアイディアは出てこないですよ。

    ——トルココーヒーの器具でお茶を淹れるというのは、びっくりしました。

    櫻井 ゆっくりと沸くのを待つ感じは、ちょっと日本っぽいなと思いましたね。あの間と、沸いた瞬間に淹れるのがいいなと思っていて。

    中原 ほかのお客さんも注目しますよね。「何やっているんだろう」って。メニューに書かれた文字だけだと想像できないですもんね。

    ——ザ・コンランショップのコンセプトに「PLAIN, SIMPLE, USEFUL」がありますが、櫻井さんは今回テレンス・コンランさんの哲学に触れられて、何か感じたことはありましたか。

    櫻井 自分も新宿にザ・コンランショップができたときに行っていました。見せ方、空間のつくり方だったりは本を見ながらイメージをつくっていきましたね。それがどういう形になるか、最終的には中原さんが編集してくれるので、僕はテレンスさんより中原さんを見ていましたね。

    櫻井さんに玉緑茶を淹れていただいた
    櫻井さんのことを「茶人というには収まらないような。表現者のような感じです」と評する中原さん

    中原 言葉では“シンプル”と言っているのですが、シンプルって実は複雑だったりもして。そういう意味では、空間としてはミニマルなんですけど、中身は複雑な歴史と作法、道具などいろんなものが詰まっている。それからテレンスは、嗜好品に付随する道具が好きでした。彼は葉巻が好きだったり、ワインが好きだったり。自邸がオークションに出ていたのですが、内容を見ると三分の一くらいが飲み物でしたよ。そういう嗜みや作法や道具や、いろんなものがつながっていくのは面白いなと。

    ——仮にテレンスさんが日本のお茶文化に触れていたらかなりのめりこんでいたかもしれないですね。

    中原 絶対そうですね。正座は嫌いかもしれないので、こういう椅子ならちょうどいいと思います。

    ——今回お茶の空間を一緒につくられて、お互い感じたことを教えてください。

    中原 できあがって体感してみて、空間の雰囲気とお茶の流れが見事に合ったなと思います。あとは我々がスキルを上げたり、スタッフと一緒にお店のキャラクターをつくっていくこと。そうすると、さらに誇らしい雰囲気になるんだろうなと思っています。場所柄、海外の方が多くいらっしゃるので、どういうふうに捉えられるかなと楽しみです。日本の人たちにとっても、お茶の楽しみ方を新しい方向性に向けられたらいいなと思います。日本茶の生産者のこと、技術のことにも触れていただけたらと。ザ・コンランショップは日本中のインテリアショップに影響を与えた会社だと思うのですが、日本という国は輸入してきた後にほかの国と違うレベルでどんどん細分化して独自になっていくことが多い。これってすごく面白いことだなと。お茶業界にも何か変化が起こることになればさらに面白いんじゃないかなと思っています。

    櫻井 私としてはほっとしたというのが一番です。ですが、まだまだ本当に道半ばというか、自分たちがやりたいことの第一段階です。これからもっと多くの皆さんに知ってもらいながら、メニューを増やして楽しみ方をつくっていくというところです。食事メニューもそうですけれど、アジアらしいアフタヌーンティーを見据えながら。お酒も[聴景居]らしいカクテルをつくっているところですので、ここからどんどん発展していく。自分でもワクワクしているところです。

    中原慎一郎|Shinichiro Nakahara
    鹿児島県出身。株式会社コンランショップ・ジャパン代表取締役社長。2000年にランドスケーププロダクツを設立。東京渋谷区にてオリジナル家具等を扱う[Playmountain]、カフェ[Tas Yard]などを展開。家具を中心としたインテリアデザイン、企業とコラボレーションしたプロダクトデザインも行う。デザインを通して良い風景を作ることをテーマに活動。
    www.conranshop.jp

    櫻井真也|Shinya Sakurai
    長野県出身。株式会社櫻井焙茶研究所代表取締役、SABOE 株式会社取締役、一般社団法人茶方薈 草司。和食料理店[八雲茶寮]、和菓子店[HIGASHIYA]を経て2014年に独立、東京・南青山に日本茶専門店[櫻井焙茶研究所]を開設。現代における茶の様式を創造し継承するため、国内外で呈茶やセミナー、メニューの企画・提案、淹れ手の育成を行う。
    sakurai-tea.jp

    聴景居|Chokeikyo
    東京都渋谷区猿楽町 18-8 ヒルサイドテラス F 棟 B1F
    12:00~19:00(L.O. 18:00)
    不定休
    03-6703-6710
    instagram.com/theconranshop.daikanyama(ザ・コンランショップ 代官山店)

    Photo by Masayuki Shimizu
    Interview & Text by Yoshiki Tatezaki

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