• ザ・コンランショップ初、アジアをテーマにした代官山店とTEA BAR[聴景居]
    <前編>アジアのお茶文化を旅するようなTEA BARのメニュー

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    代官山ヒルサイドテラスで
    新たな景色を生む「ザ・コンランショップ」

    建設が始まったのは1967年、東京・代官山という街をかたちづくってきたと言っても過言ではない「ヒルサイドテラス」。そこに、1973年にロンドンでテレンス・コンランがオープンした「ザ・コンランショップ」の新店舗がオープンしたのは、創業50年目という節目でもある今年の4月29日のこと。

    日本における「ザ・コンランショップ」は、新宿パークタワー、伊勢丹新宿、新丸の内ビルディング、神戸阪急(兵庫)、岩田屋本店(福岡)など、商業施設の中にショップを構える形が多かったが、今回は路面店としてのオープン。これは、2022年4月にコンランショップ・ジャパンの代表取締役に就任した中原慎一郎さんによる提案が発端だったようだ。

    「[ザ・コンランショップ]は、基本的に商業施設に入っている形だったので、路面店で自分たちらしいお店をひとつ作りたいなと。自分の中でおぼろげに『ヒルサイドテラスにお店があったらいいだろうな』とは思っていました」と中原慎一郎さんは語ってくれた。

    「代表に就任してすぐに、ヒルサイドテラスにご挨拶に行ったのですが、そんなお話をしたらちょうど物件が空いてるよということでご案内をいただいて。就任直後ですぐに実現できるかもわからない状況だったのですが、その後『こういう場所を作りたい』とプレゼンをしながら進めていったんです」

    生まれたのは、ロンドン発で世界各地に店舗を持つ「ザ・コンランショップ」として初となる“ローカルで自主編集する店舗”だ。「アジア」をテーマに、中原さんと代官山店のスタッフたち自ら各国に赴き選んだユニークなインテリアやライフスタイルグッズを提案している。現在、アジア各地では、古き良きものづくりの伝統に新たなブランディングの動きが合わさり、面白いデザインが次々に生まれてきているのだそう。

    そうしたテーマにふさわしいお茶の空間が、[ザ・コンランショップ 代官山店]には併設されている。その名を[聴景居ちょうけいきょ]。代官山を訪れるさまざまな人たちを静かに迎えるかのように地下に佇むその店を取材した。

    写真左手前に覗く窓が[ザ・コンランショップ 代官山店]の店舗。そこから階段を数段降りた地下にもショップペースとTEA BAR[聴景居]がある

    「店名は日本語にするか英語にするか悩みましたが、日本で愛着を持ってもらうという意味では日本語の名前が良いかなと」と、店名の由来を中原さんは語ってくれた。

    「ザ・コンランショップが日本に来て30年経とうとしていて、日本の文化と混じり合った時に何が起こるか考えていた時期でもあったのですが、たまたま思い起こしたのが京都にある聴竹居ちょうちくきょでした。洋のものが入ってきた時代の、象徴的な日本の伝統的建築だと思っていて、すごく好きな建物なんです。また、この店では香りを大切にしたいと考えていました。香りを『聴く』という言い方をしますが、海外の方に日本のセンシティブなものを伝えるにあたっても非常に良い言い方だと。外国の方には『チョウケイキョ』って言いづらいと思うのですが、それもまた面白さかなと。そしてインテリアをどう表現しようかというところで、『景色』という言葉を使いました。『景色』を『聴く』というのは変な言葉かもしれませんが、コンセプトをしっかり込めようと思いました」

    4席+4席のL字カウンターの店内。賑わう旧山手通りからこの仄暗い地下に入るだけで感覚のスイッチが切り替わる感じがする

    砂で沸かすスパイスと紅茶の「テ」

    [聴景居]のメニューには、「チャ」「テ」「チャイ」「ティー」という、いずれも「茶」を表すであろう言葉が並んでいる。

    「チャ」は、緑茶・玉露・焙じ茶・ウーロン茶・紅茶・黒茶・抹茶という、いずれも日本産茶葉からなる茶種をお湯でオーソドックスに味わうことができる。

    「テ」には、「紅茶とスパイス」と書き添えられていて、どんなお茶だろうかと想像させられる。使う道具は急須やポットなどの茶器ではなく、トルココーヒーの器具だというから、ますます気になる。早速だが、ぜひ「テ」をいただくことにした。

    茶葉は沖縄産の紅茶。そこに、シナモン、カルダモン、アニスというスパイスをプラスした上で抽出するのだそう。

    沖縄産の紅茶
    石臼でスパイスを砕く

    スパイスは香りが立ちやすいように、目の前で潰してから茶葉と混ぜる。タイ料理で用いられるクロックヒンと呼ばれる石臼が登場するのも面白い。

    茶葉とスパイスを、今度はトルココーヒーで用いられるイブリック(もしくはジャズヴェ)と呼ばれる柄のついた、少し柄杓にも似た抽出器具の中でお湯と合わせる。それをサンドブリュワーと呼ばれる熱い砂の上でゆっくりと回す。

    砂の中でずずずっと回されるイブリック。しばらくは何も起こる気配すらないほどだが、急にふつふつとお茶が沸き上がってくる。素早く砂から離し、茶海へと「テ」を移し替える。

    そうして淹れられた一杯からは、スパイスの香りをまといながらも、それに負けない芯の強い紅茶の香りを感じた。

    ふだんの日本茶とも紅茶とも、もちろんコーヒーとも違う。淹れてもらう時間を含めて味わい深い一杯だ。

    じんわりふわっと身体を温めてくれる「聴景居ブレンド」

    メニューに目を戻すと次に書かれているのは「チャイ:聴景居ブレンド」。
    インドでお馴染みのミルクティーかと思えば、否。牛乳は使わず、ブレンドに含まれるのは国産の紅茶、焙じ茶、それから牛蒡ごぼう、みかんの皮、生姜、山椒といった和の食材。

    このシグネチャーブレンドは、ブレンド茶葉としてパッケージ販売されてもいるが、お店では先ほどの「テ」と同じように目の前でスパイスを追加ブレンドした上で淹れてくれる。

    シナモン、カルダモン、クローブを、先ほどと同様にクロックヒンで潰し、ブレンド茶葉と一緒にサイフォンに入れる。サイフォンは昔ながらの喫茶店でよく見られるコーヒーの抽出器具だ。コーヒーを淹れるのと同じように淹れられた「チャイ」は、琥珀色の液体。

    香りだけで充分に呼吸が整うよう。ほっこりとする牛蒡の風味だが、意外とピリッとする感じも持っている。スパイスのエキゾチック感と和食材の安心感を感じるうちに、身体の内側からじんわりと温まってくる。

    まるでシルクロードを辿るかのようなお茶の体験が、この8席程度の小さな空間でできると言えば大袈裟だろうか。これほど“未知”なお茶の体験をさせてくれるが、使用される茶葉は全て日本のものにこだわっているというからまた驚く。アジアをテーマにした新たな「ザ・コンランショップ」のお茶として、すごい完成度だと思わされた。

    他にも、玉緑茶とフレッシュミント、パクチー、セージをグラスの中で合わせて淹れる「ティー」など、一度訪れただけでは味わい切れない、さまざまな「お茶の景色」がメニューには詰まっている。季節の移ろいを一つのきっかけに、足を運んでみてはいかがだろうか。

    後編では、中原慎一郎さんとディレクションを務めた櫻井真也さんから直接[聴景居]が生まれた経緯などさらに詳しくお話を伺う。

    中原慎一郎|Shinichiro Nakahara
    鹿児島県出身。株式会社コンランショップ・ジャパン代表取締役社長。2000年にランドスケーププロダクツを設立。東京渋谷区にてオリジナル家具等を扱う[Playmountain]、カフェ[Tas Yard]などを展開。家具を中心としたインテリアデザイン、企業とコラボレーションしたプロダクトデザインも行う。デザインを通して良い風景を作ることをテーマに活動。
    www.conranshop.jp

    櫻井真也|Shinya Sakurai
    長野県出身。株式会社櫻井焙茶研究所代表取締役、SABOE 株式会社取締役、一般社団法人茶方薈 草司。和食料理店[八雲茶寮]、和菓子店[HIGASHIYA]を経て2014年に独立、東京・南青山に日本茶専門店[櫻井焙茶研究所]を開設。現代における茶の様式を創造し継承するため、国内外で呈茶やセミナー、メニューの企画・提案、淹れ手の育成を行う。
    sakurai-tea.jp

    聴景居|Chokeikyo
    東京都渋谷区猿楽町 18-8 ヒルサイドテラス F 棟 1F・B1F
    12:00~19:00(L.O. 18:00)
    不定休
    03-6703-6710
    instagram.com/theconranshop.daikanyama(ザ・コンランショップ 代官山店)

    Photo by Masayuki Shimizu
    Interview & Text by Yoshiki Tatezaki

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