• 代官山[TEA BUCKS] in “新しい”茶畑
    熊本[お茶の富澤。]を訪れて<前編>

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    お茶屋とお茶農家、親密さとリスペクト

    「初めて来たのが、2018年。[TEA BUCKS]がオープンした年です」

    そう話すのは、代官山のティースタンド[TEA BUCKS]のオーナー・大場正樹さんだ。5年前から“通いつづける”熊本県の茶農家[お茶の富澤。]での話である。

    日本茶を専門にする者にとって生産者の元を訪れるのは自然なことといえるが、大場さんにとって富澤さんは少し特別な存在だったようだ。

    「僕がびっくりしたのは、他にもいろんな農家さんと会った中でも富澤さんはヴァンズ履いてディッキーズ履いて、すごくカルチャー寄りの方。こんな方がつくるお茶ってどんなお茶なんだろう?っていうのが純粋に知りたいなって思ったのが(茶畑を訪れることになる)きっかけになりましたね」

    今年の4月も大場さんは、熊本県上益城郡[お茶の富澤。]富澤堅仁さんの元を訪れていた。代官山のお店は4日間完全クローズして、スタッフ2名を引き連れて飛行機で熊本まで遠征してきた。

    「新茶の時期は毎年来ています。多い時には年に2〜3回来ることもあるので、そろそろ熊本に家を借りた方がいいんじゃないかと思うほどです」と笑いながら話す大場さん。約1,200キロの距離を軽々越え、“茶畑の常連”になっている。生産の現場を継続して訪れることの意味については、次のように語ってくれた。

    「お茶に限らず農作物というのは、天候や降水量などで毎年どうなるかわからないもの。その現場を見ずして淹れることは自分はできないと思っていて。自分の役目は、生産者とお客さんをつなぐ部分だと思っています。ただお茶をつなぐというだけではなくて、一番大切なのは想いの部分。どんな苦労があったとか、どんな気持ちでお茶をつくっているかとか。そういった部分もちゃんと伝えられるようになるためにも畑には来るようにしています。富澤さんと酒を飲みながら、語り合います」

    親密さの中にリスペクトする関係性がはっきりとうかがえる。実際のところ、収穫予定の前日夜には、富澤さんと熊本の美味しいものを食べながら、早く仕上がった新茶を飲み交わす団欒の時間があった。
    東京ではどんな人たちがお茶を飲んでいるか。どんなアレンジのお茶を出しているか。今年のお茶はすごくいい。お茶はまだまだ可能性があるーー。
    楽しい飲みの席でも、彼らが集まると自然とそうしたお茶に対する熱い想いが溢れ出す。

    自然の中でお茶に触れること

    そしてまた天候も、大場さんが言うように、必ずしも思い通りにはいかないもの。団欒の夜に降りつづいていた雨は、予想よりも長く明け方までつづき、翌日の茶摘みは後ろ倒しということになった。

    せっかくはるばる来たのに、と思っても仕方がないが、その気持ちを体感することにも意味がある。お茶農家にとっても、この時期の雨は特に気を揉むからだ。葉が濡れているときには摘むことができず(作業は可能でも品質に影響する)、その一方で摘むタイミングを逃せば新芽はどんどん成長していってしまう。摘みたいけど摘めないもどかしさ。雨予報をこれほどナーヴァスにチェックすることは、東京に暮らしているとない。

    なんとか午後からスタートすることができた茶摘み。一番茶の美しい茶畑は、この場に来なければ体験することはできない。

    またその規模感も現場に足を踏み入れてこそ感じられる。かぶせと呼ばれる遮光のための被覆ネットを移動させる作業は、見た目以上にハード。畝の端から端まで大きなネットを二人一組で畳みながらひたすら往復する。もちろん足元は土にまみれるし、大きめの蜘蛛の巣もあれば虫もたくさんいる。そうした自然の中に足を踏み入れるということは、現場に来なければ不可能だ。

    もう5年目にもなる大場さんを筆頭に、経験豊富なTEA BUCKSチームの茶畑での動きは機敏だ。これには富澤さんも「みんないると早いわ〜」と嬉しそうだった。

    茶畑の新しい景色

    「5年前に[TEA BUCKS]で(大場)正樹くんに『奥豊』(富澤さんがつくるお茶の一つ)を飲ませてもらったのですが、その淹れている姿が(衝撃的)」と当時のことを富澤さんに振り返ってもらった。

    「ばっちりタトゥー入っている子が、むちゃくちゃ真面目にお茶を淹れているんですよね。それが衝撃的で。お茶に対して真面目で、熱い想いをもっていらっしゃるんだなと思いましたね。『生産の現場を見なければわからないです』ということもお話されていて、すごい子たちだなと。ぜひぜひこっちに来ることがあればということは言っていました。それでほんとうに来てくれているのでありがたいですね」

    山々に囲まれた自然豊かな環境で、若い世代のこんな人たちが畑仕事をしているのは、少し物珍しく映るだろうか。各都市でお茶に惹き寄せられる人が増える中で、生産現場でのこうした場面もまた増えつつある。茶畑の新しい景色は、日々丁寧にお茶づくりに向き合うお茶農家と、それをリスペクトし理解し伝えようとするお茶屋が一緒になってつくり出すものかもしれない。

    大場正樹|Masaki Oba
    1984年生まれ、神奈川県横浜市出身。会社員を辞め、中米・南米・アフリカの旅を経て日本茶の魅力に目覚め、帰国後飲食店の立ち上げなどを経験し、2018年恵比寿西に[TEA BUCKS]をオープン。
    instagram.com/tea_bucks
    「お茶を面白く、 人をつなぎ、カルチャーに。 Tea Bucks 大場正樹」

    富澤堅仁|Kenji Tomizawa
    熊本県上益城郡益城町で栽培・製茶・販売を行なう[お茶の富澤。]の4代目。震災後は地域に残る唯一の茶園となったが、意欲的な茶葉づくりで全国に熊本のお茶の魅力を発信している。人と人、食事とその空間、たくさんの何かを繋ぐ存在としてお茶を考え、お茶屋[Greentea.Lab(グリーンティーラボ)]も運営する。
    ochanotomizawa.co.jp
    instagram.com/greentea.lab (Greentea.LabのInstagram)

    Video & Photo by Atsutomo Hino
    Text by Yoshiki Tatezaki

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