• お茶とともに生きてみる。[hitofuki]森繁麗花さん <後編>ふわふわと舞う綿毛のように

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    お茶とともに生きてみる。[hitofuki]森繁麗花さん <前編>お茶を淹れるふつうの時間の意味

    とある“茶人”に会うために、熊本県の阿蘇山を越えて、小国(おぐに)という小さな町へと辿り着いた。「北里柴三郎記念館」が近くにあるらしいことが地図からうかがえたが、周辺にピンとくる名前は他に見当たらなかった。車を走らせて山…

    2023.06.09 INTERVIEW日本茶、再発見

    各地でお茶会や喫茶を開く[hitofuki]の森繁麗花さんとこの日会ったのは、熊本県阿蘇郡小国町おぐにまち。前編でお茶を淹れていただいた滞在先の一軒家から車で20分ほど、お気に入りの場所だという[リトルカントリー]にお邪魔した。

    車移動の道すがら、湧水を汲んでいく。いつもお茶淹れるときにはこの水を使っているのだそう

    この[リトルカントリー]は、オーナーご夫妻がセルフビルドで建物を造り、カフェや宿泊施設として営んでいる。新緑の季節、爽やかな風が木々を揺らす空気はとても心地よい。

    小国との出会いも、お茶会に参加してくれたお客さんがきっかけだったという。小国から車で1時間ほどの菊池という町でお茶会をやったとき、20代のお客さんがはるばるやってきて、「今度は小国でお茶会をしてほしい」と呼び寄せてくれたのだそう。

    「今住まわせてもらっているお家のさやかちゃん(関西から移住してきた同世代の女性)も、見ず知らずなのに『お茶会、もちろんどうぞ』という感じで。本当にぜんぶ縁ですね」

    淹れてくれたのは、熊本県上益城郡山都町[岩永製茶園]の和紅茶。母娘で営む茶園には何度も訪れていて思い入れの深い一杯。生産量の多くはない貴重な茶葉を淹れてくれた

    各地でお茶を淹れて回り、それに伴って暮らす場所が移り変わる生活をしていると、周囲からは「今どこに住んでいるの?」と聞かれるのはあるあるだ。

    「毎回の挨拶みたいな感じで。熊本?大分?福岡? どこなの?って。『私もわからん』って言っています(笑)。でも、暮らすなら絶対九州と思っています。ご飯と、水と、自然と、温泉と、あとは人。九州は全部がいい。さらに阿蘇には阿蘇、別府には別府の良さがある。貪欲なので、すぐ移動しちゃうんです」

    この新茶時期も、各地を巡る。森繁さんがお茶の世界へ歩み出そうとして最初に出会った[ちぃっとらっつ農舎 & ポラーノ農園]がある藤枝や、急須で有名な常滑、それから東京でのお茶会など、予定が控えていた。

    一方でここ数年、お茶を介してさまざまな人と触れ合ってきた中で、緊張が積みかさなった部分もあった。その見えない疲れを癒しつつ次への英気を養うために、熊本での暮らしは彼女にとっての小休止だった。

    「去年から自分のお店を開こうと考えているんです。未だにどうなるかわからないのですが、その感じが楽しかったりもします。お店を持つなら、自然の豊かなところで、古民家をリノベしてみたいなと思っています。母は書道やフラワーアレンジメントができるのですが、そんな母と一緒に表現ができればと思い、(故郷の)福岡がいいのかなと思っています。母は昔から応援してくれているので、心強くありがたい存在です」

    一方のお父上に認められる日はもう少し先になりそうだとも言う。個人で仕事をすることの大変さがわかっているからこその心配の裏返しのはずだが、まだ面と向かってお茶を酌み交わす場面には至っていないのだそう。

    それでも、「今じゃないだろうな。でも、いつか届くだろうな」と、いつか淹れるお茶のイメージは胸に秘めている。

    少しずつ会話を重ねていくと、いい意味で普通の20代の若者らしいと感じてきていた。インスタグラムで見ている限りは、静かで厳かな、何か完成された世界観を持った人物くらいに映っていたのだが。

    「普通の25歳です。『意外に普通だよね』ってみんなに言われます。普通にお酒も飲みますし、ドラマも観ますし。お茶の時だけそういう(静かな)感じにはなっていると思います。飲食店でバイトしていたときもあるのですが、ハツラツとみんなで上手く回すようなお店だったこともあり、テキパキ働くのもすごく楽しめるタイプ。両方ある方が、エネルギーとしてはちょうどいいというか。でも色々一周回って思うのは、どうしたって25歳だなって思います。わからないこともたくさんで、論理的ではなく感情的に動いてしまったり。まだまだだなぁと思うことばかりです」

    学生自体には自分の生き方自体に悩んでいた森繁さん。“お茶を淹れる人”という、一見ユニークな生き方をつづけてきた今、自分自身を「普通の25歳」と振り返り、「まだまだ」と意識できるのは、けっこういい状態じゃないだろうか。

    「ここの茶葉は、淹れるとすっごく綺麗に一枚に開くんですよ」

    お茶を淹れながらの会話は、急に切り替わることがある。

    「揉捻機(製茶する機械の一つ)のときとか、ずっと茶葉を見てあげているんです。そういった細やかなつくり方がお茶に出ているなと、淹れるときに感じられるのです」

    そんなふうにお茶づくりのことからお茶を語るのは、やっぱりちょっと面白い25歳だなと思った。

    最後に、[hitofuki]という屋号の由来を聞いた。

    「たんぽぽの綿毛がモチーフです。フーって“ひと吹き”するという意味です。昔、種にまつわる映画を観たことがあって印象に残っているのですが、種は一つずつ全部違っていて、唯一無二なんですよ。人と似ているなぁ、みんな種だなぁってずっと思っていた。お茶の時間を通じて、種をフーって吹いて、その種が舞い降りたところで美しく咲くでしょう、という思いを込めました」

    ふわふわと風に乗って飛んでいく綿毛は、自分のあるべき場所で力強く咲く。森繁さんは次にどこに飛んで、どんな花を咲かせるか。楽しみになる時間だった。

    森繁麗花|Reika Morishige
    1997年生まれ、福岡県北九州市出身。大分県の大学在学中に喫茶を始め、以来、予約制茶会・喫茶を基本とした[hitofuki]として活動。その時々の環境や相手によって一期一会のお茶を淹れる。今年秋を目標に初の自店舗オープンを計画中。
    instagram.com/_hitofuki_

    Photo by Atsutomo Hino
    Text by Yoshiki Tatezaki

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