• 錦糸町[And Tei]倉橋佳彦さん<後編>
    「日本茶バリスタ」とは? [And Tei]というお店を持つ意味

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    錦糸町[And Tei]倉橋佳彦さん<前編> 自分と向き合う時間を生む、日本茶とプラントミルクティー専門店

    錦糸町の住宅地に 駅前に複数の大型商業施設を有する墨田区錦糸町。ここに今回訪れたいお茶屋はある。大型商業施設や全国チェーンだけでなく古くから続く商店も多くの人で賑わうこの街では、近年特に駅の北側に新築マンションが建つにつ…

    2023.02.10 INTERVIEW日本茶、再発見

    墨田区錦糸町にある、日本茶とプラントミルクティー専門店[And Tei]。プラントミルクで日本茶の香りを活かすミルクティーを落ち着いた空間で味わえる。日本茶の魅力を確実に残しながらも常識に囚われないスタイル。それは、店主の倉橋佳彦さんが長年コーヒーの淹れ手であったことが無関係ではないだろう。倉橋さんが日本茶と出会い感じたこと、[And Tei]で表現したいことを掘り下げてみよう。

    ペットボトルと急須の違いはなんだろう

    パティシエやバリスタとして、カフェで仕事をしていた高橋さん。昔から興味のあることに没頭する性分だった。

    「6、7年前はコーヒーのバリスタをしていたのですが、コーヒーが好きなあまり、ずっと飲んでいました。そしたら頭痛がするようになってしまって。今は大丈夫になりましたが、コーヒーを飲まない時期がありました」

    そんな時、「飲むとすればお水かお茶だった」と言う倉橋さん。身近にあるペットボトルのお茶からその美味しさを再認識すると同時に、コーヒーは自分で淹れて飲むのが普通だったが、お茶は急須で淹れたことがほぼないということにも気がついた。

    「急須で淹れたお茶はどんな味がするのだろうと、銀座の百貨店地下にある日本茶専門店のカウンター席でお茶を淹れてもらいました。その時飲んだお茶がめちゃくちゃおいしかったです。過ごしている時間も初めてのような気がするけど懐かしさがありました」

    それから日本茶にのめりこむ日々が始まる。倉橋さんは様々な茶屋へ足を運んだ。お茶の知識がなかったからこそ、もっと知りたいと、[Satén japanese tea]店主の小山和裕さんの誘いをきっかけに茶畑へも行くことに。その後、好きな茶葉を見つけては直接アポイントをとり、全国各地の生産地を訪れた。

    「日本茶バリスタ」を名乗るねらいは?

    倉橋さんの熱意とはうらはらに、その当時日本茶に興味を示す人は周りに多くはいなかったそう。「『しつこい』って言われるくらい毎日日本茶の話をして、人に飲んでもらう、ということを繰り返していました。日本茶を飲んでもらうハードルは高いと感じていました」。それでも、コーヒーにも通ずる「淹れ方」のおもしろさに魅了されていったという。

    「バリスタは、抽出方法を理解し、お客さんが何を求めているか考えたうえで飲み方を提案します。同じように日本茶にも淹れ手がいる。ただ、日本茶の淹れ手になろうと思ったときに、それを表す名前がなかった」

    そこで倉橋さんは「日本茶バリスタ」を名乗る。「淹れ手が増えなければ、飲む人も増えないと思いました」と、お茶の淹れ方や茶葉を焙じてほうじ茶をつくるワークショップなど、お茶を淹れることの入口を創るために活動を始めた。

    心臓を包み込むような落ち着き

    そうした活動をつづける中で課題に感じたのは、「ワークショップでお茶を飲む“体験”をしても、自宅で淹れて飲む“習慣”にまで結びつく人は圧倒的に少ない」ということだと倉橋さんは話す。もっと気軽に、いつでも暮らしの延長で、美味しいお茶を飲んでもらう場として店舗を持つ必要性を実感していったという。結果、“ミルクティー専門店”としてオープンした[And Tei]には、どんな考えを込められたのだろうか。

    「はじめは、シングルオリジンの煎茶を気軽に飲めることを提案するようなスタンドを作ろうと思っていました。でも、手軽さの提案ならティーバッグが良いじゃないかと。考えるうち、本質的に伝えたいのは“自分自身と向き合う時間”なんだと気が付きました。だからこそ、[And Tei]ではご注文の際に『淹れる時間がかかります』とお伝えしています。丁寧に淹れるとこんなにおいしいんだと体感していただくには、淹れているところを見てもらうのがいいと思いますので」

    日本茶バリスタという言葉がよく似合う、カフェライクなカウンターでケトルやスチーマーを操ってサービングをする倉橋さん。ミルクティーを看板に据えたのも、日本茶が難しくなりすぎず、生活の中で親しんでもらえるような、倉橋さんの肌感覚を基にしたスイートスポットだったから。前編でいただいた通り、その味と香りはしっかりとお茶らしさがあり、それを包み込むようなプラントミルクとの組み合わせが、日常のいい時間を演出してくれる。

    「コーヒーは仕事をしているときや覚醒したいときに飲みたくなりますが、お茶を飲むときは心臓を包み込むように落ち着かせたいときや、夜にも合いますよね」

    それは、肩の力を抜いて自分の感覚に没頭するような感覚だろうか。たしかに、緊張を感じている時でさえ、日本茶を飲むことで自分と向き合えるモードに切り替えられることはよくあると思う。日本茶はほっとしたいときにぴったりのお供だ。

    [And Tei]では、ミルクティーだけではなく、ストレートの国産茶(有機玄米茶、有機ほうじ茶、国産紅茶、国産烏龍茶)も飲むことができる
    国産和紅茶(¥750税込)。鮮やかなオレンジ色に気分が高まる。口に含むとふわっと華やかな香りが広がった。和紅茶に対してどちらかというと控えめな柔らかい香りという印象を持っていた人は驚くと思う。飲み進めるごとに渋味と甘味の味の印象も浮かび上がり、存分に和紅茶の魅力を味わえる

    自分に安堵を届けるお茶の場所

    最後に、店名の由来を伺ってみる。「And」には「安堵する」という意味を込めているそうだ。「Tei」は造語であり、フランス語でお茶を表す「thé(テと発音)」と、自分を指す「moi(発音はモワ)」をかけ合わせている。

    「自分と向き合う時間をとって、ほっとするひと時を過ごしてほしいです。また、お茶が主体なのではなく、『〇〇とお茶』というように、お茶は空間をつくりだす存在としてあるイメージです」

    [And Tei]が店を構えた錦糸町は、秋田から東京に住んでからずっと下町が好きだという倉橋さんがこだわって選んだ。オープンしてから「この辺りで日本茶が飲めるお店ってなかった」と、お互いにとってありがたい声も聞かれるそう。「錦糸町は街の人が街を利用している街だと思います」と倉橋さん。暮らしのなかにあるお茶、という当たり前が基本にあるからこそ、誰にとっても安堵できる場所が生まれるのだろう。

    今後はさらにイベントの開催や情報発信を通じて、自宅で日本茶を飲む提案もしていきたいと話す。

    「僕はこれまで日本茶にどっぷりつかっていなかったからこそ、今のスタイルになった。日本茶は謎だらけ。いまだに自分自身も素人だという思いでやっています。それまでおいしいとされていたことが、お茶に馴染みの薄い人にとっておいしいであるとは限らないです。農家さんがつくられたお茶を使わせていただきながら、既存のスタイルのアップデートではなく、本当に新しいものを提案することで、イメージを変えてもらうきっかけになれれば」

    ゆったり流れる時間の裏には、数々の工夫があった。これからも日々進化するだろう[And Tei]の表現を、ぜひとも体感してみてほしい。

    倉橋佳彦|Yoshihiko Kurahashi
    1988年生まれ、秋田出身。カフェでバリスタ、パティシエとして活動する中で日本茶と出会い没頭していき、2017年ごろから「日本茶バリスタ」としても活動を開始しほうじ茶ワークショップなどさまざまな形で日本茶を発信。2022年3月25日、日本茶とプラントミルクティー専門店[And Tei]を開業。
    [And Tei]
    東京都墨田区太平4-22-6 1F
    平日 12:00~18:00(店内L.O.17:30)、土日 10:00~18:00(店内L.O.17:00)
    不定休(詳しい営業予定は公式Instagramをご確認ください)
    instagram.com/_and_tei
    andtei.com

    Photo by Tameki Oshiro
    Text by Hinano Ashitani
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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