• 新茶にありがとう! オチャ ニューウェイヴ フェス2023 at JINNAN HOUSE レポート<後編>

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    今年で3回目の開催を迎えた、新茶の季節を祝うオチャフェスこと「オチャ ニューウェイヴ フェス 2023 at JINNAN HOUSE」。今年は、東京+京都からお茶屋が7店舗に加えて新たなフードも登場、夜はカクテルバーのポップアップもあり盛況となった。

    ダイジェスト映像も公開となったので、ぜひチェックしてみて!

    CHAGOCOROでは、2日間にわたって開催されたそんなオチャ ニューウェイヴ フェスを店舗ごとに振り返っていく。後編では、前編に引き続きお茶屋3店舗とポップアップバー、茶器作家2名による展示をご紹介。

    べったなさん、釜炒り茶への道
    [a drop . kuramae](蔵前)

    蔵前に日本茶のセレクトショップ[a drop . kuramae]を構え、日本茶の魅力を発信している“べったな”こと田邊瞭さん。徳島県三好市[曲風園]の大歩危おおぼけ茶と共に今回用意してくれたのは、なんと自らがつくった釜炒り茶。ブースでは、9日間にわたって釜炒り製法に取り組み続けた軌跡を、日ごとのお茶を味わうことによって辿ることができた。まさに“エモーショナルなお茶の体験”だ。

    最高300℃にまで達する釜に生葉を入れ、3時間手で炒り続けるという釜炒りの作業。温度だけでなく、香りや音、手の感触から茶葉の状態を見極める必要がある。

    「最初の数日は、文献に書いてあることに頼っていて、とにかく揉めば味が出ると思いながらやっていたんです。だから、味が強すぎた。気持ちが溢れちゃってる感じですね。逆に7日目あたりは、ちゃんと茶葉の“声”を聞くことを覚えだしたというか。結構美味しくなってます」

    左から順に、1日目から9日目までの釜炒り茶。殺青具合や揉み方によって微妙に見た目も異なっており、出来の良い7、8日目は少し白っぽく茶葉の形が残っている

    揉めば揉むほど風味は強くなるが、茶作りでは時に引き算も大切だ。

    「1年前に畑を借りたんですが、そこの木の生命力が圧倒的だったんです。それを見て、自然のエネルギーを最大限活かしたお茶を作りたいと思いました。火や水の味が直に感じられるよう、余計なことはせずにシンプルな味わいを生かしました」

    そんな言葉に誘われて口にした7日目の釜炒り茶は、今までに出会ったどんなお茶とも違う味わい。瑞々しい青さが香る透き通った液体が、スッと体に浸透していった。

    従来の方程式に当てはめた作り方ではなく、自らの感覚で茶の味を生み出したべったなさんだが、本人はまだまだ上を目指しているようだ。

    「来年は薪釜にしたいし、プロのように“狙って”おいしさを作れるようになりたい。もっと本格的にやりますよ。僕のお茶作りの第1章……始まっちゃいましたね」

    お茶愛ゆえの並はずれた探究心は、とどまるところを知らないようだ。べったなさんのお茶作りネクストチャプターにも期待が高まる。

    a drop . kuramae
    東京都台東区蔵前4-14-11 ウグイスビル204
    @adrop_kuramae

    縁で繋がるお茶ワールド
    [TEA BUCKS](代官山)

    代官山に構える日本茶専門店[TEA BUCKS]は、各地の選りすぐりの茶葉を提供するティースタンドでお茶のニューカルチャーを発信している。今回は、熊本県益城町[お茶の富澤。]の「薮北(露地)」と「白茶(きらり31)」という2種類の新茶を提供してくれた。

    ブース横の壁には、茶園でのお茶作りの記録写真が展示されており、お茶を片手に写真を見ながらの会話も弾む。

    「薮北」は現在最も広く飲まれている品種だが、飲み慣れている人ほど店主・大場正樹さんがセレクトした「露地」に驚かされるだろう。

    「今年はとにかく出来がいいんです。お茶作りには気候条件が大きく関わっているのですが、今年は肥料を撒いた後にしっかりと雨が降り、新茶の季節には晴れてくれた。そのおかげでオールドスクールな渋味に加え、甘味や旨味がぎゅっと入って近年稀に見る味わいです」

    年に3、4回は[お茶の富澤。]を訪れ、作業を手伝いながらお茶作りを学んでいる大場さん。生産地での肌感覚を伴った言葉には強い説得力がある。

    バランスと重厚感を兼ね備えた「薮北」とは対照的に、白茶に仕立てた「きらり31」はフルーティーな軽やかさが特徴だ。肥料も農薬も与えていない畑で育った茶葉を微発酵させることによって、梨や桃のようなお茶本来の香りを最大限に引き立てている。

    「シンプルなお茶だからこそ、乾燥させて水を加えるだけでこんなにも華やかだということを直に感じてもらえると思います」

    両者を飲み比べると、全く異なる新茶の表情の豊かさに気付かされる。

    「茶摘みシーズンは、お客さんたちと一緒にお茶園に行きました。熊本、埼玉、静岡の3ヶ所のお茶園さんを回りましたね。お茶は飲むけどお茶作りの現場には行ったことのない人も多かったので、橋渡しとしての存在になれたことが嬉しいです」

    お茶と人、人と人。お茶は、味わうものであり縁を作り出すものなのだということを感じられる時間だった。

    TEA BUCKS
    東京都渋谷区恵比寿西2-12-14
    teabucks.jp
    @tea_bucks

    余すことなく五感で味わう煎茶
    [茶空SAKUU](渋谷)

    「お茶には、いくつもの楽しみ方があるんです」

    そう語るのは、会場でもある[JINNAN HOUSE]で茶食堂兼レストラン[茶空 SAKUU]を営む佐藤奈緒美さん。今回は、屋久島[八万寿茶園]の新茶「くりたわせ」とスペシャリテ「煎茶スパークリング」を用意してくれた。

    一人ひとりにじっくりと3煎淹れ、最後に茶葉の出涸らしを提供する粋な計らいは、2年前のイベント出店時から変わらぬこだわりだ。甘くてまろみのある「くりたわせ」を余すことなく味わえると、来場者からも好評を博した。

    「1煎、2煎と飲み進めると味わいが違ってくることが分かるはず。実はお茶って葉っぱ自体の栄養価も高いんです」

    普段から[茶空 SAKUU]で茶葉をまぶした唐揚げやほうじ茶テリーヌなど、バラエティーに富んだ“食べられる”お茶メニューを考案している佐藤さん。「お茶の出涸らしをオーブンに入れて水分を飛ばしたものにお塩を混ぜておくだけで、良いお料理のアクセントになりますよ」と気の利いたアイデアも教えてくれた。

    今回は新たな試みとして、「煎茶スパークリング」もメニューに仲間入り。[伊藤園]の「深蒸し煎茶ほれぼれ」を水出しにして炭酸水、梅シロップを加えると鮮やかな煎茶の緑が映える三層仕立てのドリンクが出来上がる。口の中で炭酸が弾け鼻に抜ける煎茶の香りを堪能できる一杯は、初夏にふさわしい軽やかさだ。まずはひとくち。その後は少しずつ混ぜながらいただくと、変化してゆく煎茶と梅のマリアージュを感じられる。

    さまざまに姿を変える煎茶の印象。目で、香りで、舌で楽しめる体験と出会わせてくれるお茶の案内人・佐藤さんに新たな扉を開いてもらった。

    [茶空 SAKUU]ではイベント限定のフードも提供された。
    ほうじ茶塩で食べるサバ竜田(左手前)、本日のスペシャル惣菜(右手前)、茶ちりめんおむすび(右奥)

    茶空 SAKUU
    東京都渋谷区神南1-2-5 JINNAN HOUSE 1F
    https://jinnan.house
    @sakuu.jinnanhouse

    プレゼントを選ぶように日本茶カクテルを
    [チャケクラブ]

    前年のイベントで大人気だったバーテンダー・キャメロンさんによる日本茶カクテルバー [チャケクラブ]が、今年は16時からと時間を拡大して開催された。

    「去年は割りもの系が多かったのですが、今年は複雑性のあるカクテルをメインで用意しました。好きな人にプレゼントを選んだり、朝起きて着る服に悩んだりするように、選択肢を前に思考する時間を楽しんでもらえたら」

    思わず写真を撮りたくなるような可愛さ満点の「MATCHA MELON SODA」。実はこのカクテル、メロンソーダを名乗りながらメロン不使用なのだ。

    「抹茶の持つメロンに近い香気成分をベースに米焼酎、シロップ、ラムを加えることで、青さや甘さなどメロンと似たニュアンスを肉付けして一体感のあるカクテルを作っています。私は性格がまっすぐではないので、そのままの味を追求するよりお客さんをワッと言わせたいのかもしれないですね(笑)」

    思わず全部試してみたくなるような遊び心が効いた5種類のドリンクメニュー。色も味わいもバラバラだが、ひとくち飲むと、どれも奥からしっかりとお茶が香り立ってくることが分かる。

    「お茶は、茶葉と水だけで完成された液体です。だからこそ、カクテルのようにフレーバーを足し算していくドリンクと掛け合わせることは難しい。そんな中で大事にしたいのはベースの部分ですね。お茶の個性を他と合わせることで、その魅力がもっと伝わればいいなと思っています。メニューから気になるカクテルを見つけて、能動的にお茶の味わいを探しにいってみてほしいです」

    引き算のお茶と足し算のカクテル。一見相反するように見える2つのドリンクが合わさることによって見えてくる可能性は、カクテルの組み合わせくらい無限大だ。

    「一体どんな味?」
    「どんな見た目?」

    メニューを前に思いを馳せるところから、お茶との対話を初めてみるのもいいかもしれない。

    Quarter Room
    東京都世田谷区代田5丁目10-7 nakahara-sou B1
    @quarter_room_tokyo

    茶器で魅せる2人の作家
    中島完・田中茂雄

    奥は田中茂雄さん、手前は中島完さんの作品

    [JINNAN HOUSE]内のギャラリースペースには、しきりに来場者が足を止め目をこらしている場所が。茶器作家・中島ゆたかさんと田中茂雄さんによる2人展だ。

    配色が豊かな茶器たちは、中島完さんの作品。瀬戸・美濃の土を用いてろくろで丁寧に作り出される小世界は、独自に調合した土や釉薬によって生み出されたものだ。細やかで可愛らしい見た目ながら、時代ごとの茶道に囚われない“道具”としての使いやすさを内包する。金平糖のような小さい茶菓子を入れる専用茶器など各作品の用途を想像するのも楽しく、今回のイベントに際して制作された[JINNAN HOUSE]をイメージした色合いの作品も見どころとなった。

    白色の素地に透明な釉を施した白瓷はくじが古陶のような奥ゆかしさを感じさせる茶器たちは、田中茂雄さんが「手引き練り」という手法で制作したもの。自然の中で素材と向き合いながら土に触れ形にするという過程を重んじ、現代の作法の中でも特に内から出る品格と存在感を放つ。田中さんの作品は、李朝など朝鮮半島の古い時代の茶器からインスピレーションを受けているため中国茶寄りの茶器が多いが、今回は新茶というテーマに合わせ日本茶にも使いやすい大きめの急須などがセレクトされた。

    作風の異なる茶器作家2人の作品が並んだ本展示。それぞれの醸し出す空気感が作品を引き立て合い、来館者を深淵な茶器世界へと導いた。

    田中茂雄
    https://utsuwatokobutsu-kan.com/collections/田中茂雄

    中島完
    https://nakashima-yutaka.jimdofree.com

    2日を通じて盛況で幕を閉じたオチャ ニューウェイヴ フェス2023。

    お目当てのお茶屋さんの出店に駆けつける“お茶ギーク”もいれば、通りがかりに立ち寄る人の姿もあり、パンデミックの夜明けを感じさせる開かれたフェスとなった。年齢や性別こそ違えど、ひとたび会場に足を踏み入れれば彼らの目的は皆同じ。

    お茶を味わう今この時を、大切に過ごすこと。

    最高のお茶の淹れ手と来場者、それぞれの思いが織りなす唯一無二のストーリーが同時多発した[JINNAN HOUSE]は、今年も大きなオチャニューウェイヴの発生地となった。

    来年も、新茶の季節をみんなで迎えるのを楽しみにしていよう。

    Photo by Taro Oota
    Text by Rin Inoue
    Edit by Yoshiki Tatezaki

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