• 自分の「好き」にしたがって心動く日本茶を伝える二人
    FAR EAST TEA COMPANY 畠山大さん・藤井航太さん<前編>

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    白い箱には「FETC 1892」の文字。
    「F」「C」の二文字と、年号のような4桁の数字が、なんとなくサッカーのクラブチームのようなイメージを想起させる。あるいは、アパレルブランドのロゴ。CHAGOCOROだからもちろんお茶だろう、という先入観を抜きにすれば、素直な印象はそんなところではないだろうか。

    「FAR EAST TEA COMPANY(FETC)」は、シングルオリジン(単一茶園・単一品種)の日本茶をオンライン販売する日本茶ブランドだ。サッカークラブでもアパレルブランドでもなかったわけだが、この日本茶ブランドを始めたのは、こちらも一見“お茶っぽくない”若者二人。

    CEOの畠山大さんとCOOの藤井航太さんに、創業に至るエピソードから溢れんばかりのお茶へのリスペクトを語っていただいた。

    ずっと「好きなもの軸」でやってきた

    畠山大さん(左)と藤井航太さん(右)。二人とも神奈川出身の93年生まれ。大学卒業後はそれぞれデジタルマーケティング・広告の職に就いたが、今では日本各地の茶畑を巡っている

    現在、自社 EC サイトでの茶葉の販売や定期便のサービスを主軸に、飲食店向けのお茶メニューのプロデュースなどを行なっている。この日撮影場所として利用させていただいた松濤にあるシーシャバー[SWAY]でも、FETC セレクトのお茶が提供されている。ここ最近は飲食店からの引き合いが増えていることについて、藤井さんは「ドリンク全部にちゃんとこだわりたいというお店が増えているなかで、僕らは産地にこだわらず、全国からシングルオリジンのお茶を扱うからラインナップが幅広いんです。その中から料理やお酒に合わせてご提案すると喜んでもらえることが多いです」と話す。さらに、「背景にあるストーリーもそのお茶と一緒に伝えてもらうことで、お客様にも喜んでもらえるという声もいただいていて、すごく嬉しいですね」と続ける。

    藤井さんと畠山さんは元々、小学校時代に同じスイミングスクールに通っていて、中学校が同じの同級生。そこから20年近い付き合いの幼馴染という間柄だという。

    藤井 高校で僕は海外に行く期間があったり、お互い大学も仕事も違うところだったのですが、たまにご飯に行くような仲で。2018年の末に、畠山が渋谷のんべえ横丁でミルクティースタンドを始めたんですよ。その頃たまたま東横線で彼に会って、「インスタに上がってるミルクティー屋さんの写真、何?」って。バイトでも始めたのかと思ったら、お店をメインでやってる、と。アクセスも良い場所だったので、僕もお店に通うようになって、そこから付き合いがまた始まりましたね。

    畠山 藤井はまだ広告代理店で会社員だった時ですね。僕はお店をやりながらも、ウェブマーケティングの仕事もやっていたという感じでした。ミルクティーが昔からけっこう好きで。横浜駅と馬車道にある[サモアール]とか、渋谷の[ケニアン]とか、千駄ヶ谷の[モンマスティー]とか、昔ながらの喫茶店でミルクティーをよく飲んでいて。仕事が忙しくてどうしようっていう時にも、自分でなんとなくミルクティーを淹れて飲んでいたんです。ある時、日本産のいわゆる和紅茶を見つけて「あ、これ美味しいな」と思って、そこから本格的にハマった気がします。

    お店を始めたのはミルクティー好きが高じて、というわけだが、いつか飲食店をやってみたいという思いはあったのだろうか?

    畠山 いや、ないですね。基本的には、好きなことをやっていく、ということかなと。マーケティングやECの仕事にしても、アパレルだったり自分の好きな業種のお手伝いをさせてもらっていて。ずっと「好きなもの軸」でやってきた。

    藤井 僕も全然、飲食はアルバイトくらいしか経験がなくて。でも、飲食はすごく好きだったんですよね。人と話すのも好きなので。手伝いで彼のお店に立ったりもして。その時には友達を呼んで話したりとか、思い返せば自分の好きなことができていた感覚はあったと思います。もちろん広告の仕事も元々興味がありましたし、僕なんかはデータを見てそこから物事を考えることが好きなんですよ。当時、デジタル広告の仕事をメインでやっていたので、すごく肌に合っていました。なので、そういう“畑”からお茶の業界にきたのは、自分にとって決断じゃないですけど、けっこうジャンプというか、全然違うフィールドに飛び込んだ感じはあります。

    「対地球」の仕事を目の当たりにして

    冒頭の白い箱に収められていたのは一杯分4gの茶葉が入ったパッケージ。こちらも英語表記が基本のシンプルデザイン

    畠山 ある時、藤井が店にお客として来て、僕が農家さんの話をしたりしてたんですよね。その時たまたま静岡の牧之原に行く予定があったので、話の流れで「一緒に来る?」って誘ったら来てくれて。彼はデジタルの広告をやっていて、まぁ茶畑に行くことってふつう人生であまりないですけど、彼はそこでこう、衝撃を受けた、というか。どういう感じだっけ?

    藤井 なんかこう、それまでは“パソコン相手に自分の脳みそ”を切り売りして仕事をしていた感覚だったんですけど、畑で農家さんがやっていることって“相手がそもそも地球”で。気候というか地球そのものというか、僕らが見ていた世界とは違うものと戦っていて。そのなかで毎年安定したクオリティで美味しい物をつくりつづけている。
     その時に見させてもらったのが、30年くらいかけてつくった有機の畑だったんですよね。なんかもう「ジブリみたいだな」と思ったんですよ。めちゃめちゃ綺麗な風景で、風の音と鳥の声しか聞こえない、みたいな。虫がいて、鳥がいて、カエルがいて、時々荒らされちゃうこともあるけど、いのちの巡りみたいなものがすごく綺麗だなと思って。その環境でつくられるお茶が美味しくないわけないな、と思って。実際飲んでみたらすごく美味しい。そういうところに感動してしまったんです。
     でも、それと同時に、彼らがこうやってつくりあげてきたものが世の中には全然伝わっていないな、と思ったんですよね。僕ら二人はそこが出発点。良いと思ったものはみんなにも知ってほしいし、作り手は正当な利益を得るべきだし、ちゃんと存続していけるような形づくりが必要だし、というところに僕らのベクトルが向かった。その畑に行った時に一発でしたね。もう「やりたい」っていうふうに、僕の心は変わりました。

    畠山 僕もまだそれが畑に行くのは2回目くらいでした。僕はどっちかというと、畑自体よりは、どうやってどういう想いでつくられているのかだったり、人にフォーカスがあるので、そこに感動した感じ。
     それまでも自分の好きなものを人に勧めるっていうのはすごく好きだったんですけど、今お茶を売っていて、生産者の想いとかストーリーを聞くともっと勧めたくなるなっていうのは思います。だから、元々やっていたことの延長線上にお茶があって、その存在が大きくなっていった感じです。藤井もブログをやっていて、音楽だったり漫画だったり自分の好きなものをずっと発信していて、そういう「好き」を伝えたいっていう部分は共通しているかな。それで誘ったのは大きいかもしれないです。

    二人とも軸にあるのは「好きなことをする」ということ。そして、自分が好きなことは伝えたいということ。裏を返せば、彼らの「好きなこと」というのは自分だけが楽しめればいいという類のものではなく、これならあいつも一緒に楽しんでくれそうという感覚のもの。お茶の世界はまさにそこにはまった。

    二人が好きなお茶はたくさんあるが、この日は一人一種類ずつ淹れていただくことにした。畠山さんが淹れてくれたのは、「やぶきた」という日本茶を代表する品種。鹿児島の南部、頴娃(えい)地区(南九州市)の[はるとなり]がつくるやぶきただ。

    平野部での大規模茶園が多いとされる鹿児島において、あえて山間の畑で祖父の代からやぶきたを育てているという。茶園のストーリーについては、FETCのウェブサイトにある「BEHIND THE SIP」の記事をご覧いただきたい。商品の販売だけではなく、その裏側の人とストーリーを伝える二人の姿勢もよくわかるはずだ。

    藤井 これまで飲んできたやぶきたの中でも、かなり自信をもっておすすめできる。一番美味いって言っちゃうほど。

    畠山 何ていうのかな、やぶきたってどうしてもお寿司屋さんのお茶感がちょっと強いっていうか、けっこう渋い場合が多い。でも、永山さんのはその感じがなくて、甘味もあって渋味もちょうどいい。トータルの味をイイ感じに収めているというか。毎日飲めるお茶っていうところかな。

    畠山 僕らはシングルオリジンを専門にやっていますが、品種のお茶ということでいうと、杉山彦三郎さんというレジェンドがいます。やぶきたという品種を見つけたのが杉山さん。FETCの下に書いてある「1892」というのは、杉山彦三郎さんが発見した「晩一号」という品種が、日本で初めて認定品種として登録された年です。

    藤井 そこからお茶の多様性が始まったなという年を、杉山さんへのリスペクトを込めて、ブランドのシンボルとしてつけさせていただいています。杉山さんの話は大好きで、語ってもいいですか……?

    杉山彦三郎翁だけでなく、各地の畑の話に熱量が上がる様子は後編につづきます。

    FAR EAST TEA COMPANY|ファー イースト ティー カンパニー
    シングルオリジン(単一農園・単一品種)のお茶をオンラインで届ける日本茶ブランド。2018年に畠山大さんが渋谷のんべえ横丁にオープンしたミルクティースタンド(べにふうきという品種専門)を前身として、2019年に幼馴染の藤井航太さんがジョインしECを主軸としながら、今回撮影場所として利用させていただいたシーシャバー[SWAY]など店舗のドリンクメニュープロデュース等も行う。
    fareastteacompany.com/ja
    instagram.com/fetc_1892_jp

    Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki
    Location: SWAY

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