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2021.04.20

茶畑からうつわ一杯へ
好きの先に紡いでいく
映画『ごちそう茶事』
たかつまことさん
<前編>

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目の前に差し出された「うつわ一杯」。この向こう側に、どんな世界が広がっているのだろう。

“お茶のご縁”に引き寄せられ、共感の連鎖で製作された日本茶のドキュメンタリー『ごちそう茶事』が完成し、映画観賞会が開催された。茶の品種開発を行う育種家から、茶葉を栽培する茶農園、茶葉の特徴を見極めお茶の味をつくる製茶問屋に、日本茶の愉しみを伝える淹れ手まで。制作を開始してから3年の月日を経て、時間と空間を繋ぎながら茶畑からうつわ一杯の日本茶へ。世代と国境を超え紡がれるリレーが映し出される。

上映中、会場では映画に合わせた日本茶が振る舞われた。淹れ手は、映画制作の発起人であり、“発信する日本茶ファン”を自称するたかつまことさんだ。これまで訪問した茶農家・茶商さんの働く現場は50カ所以上。東京を中心に、茶葉男子ユニット「オッサム・ティ・ラボ」で活動するほか、ジャパン・ティーフェスティバル2019での瀬戸内番茶ブースの企画・運営やオンライン茶会などお茶の虜になってから今年で10年余、その活動範囲は多岐にわたる。「うつわ一杯の非日常」を届けることを信条に、日本茶を楽しみ・学び・発信する彼を突き動かすものは何なのか。「ファンにしか伝えられないことがある」というたかつさんにお話を聞いていく。

日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事』の発起人で、脚本、プロデュースを務めたたかつまことさん

良い偶然”を忍ばせている日本茶の二歩、三歩先に

山口県出身。実家は祖父の代から日本茶の卸小売業を営んでいたが、近さ故に興味を持つことはなく上京して就職。30歳になる手前、帰省した時に父の本棚で積読になっていた日本茶インストラクターのテキストが偶然目に留まり、手にとった。日本茶の存在を意識し始め、活動の原点となる「うつわ一杯」と出逢ったのは10年前のこと。日本茶ニューウェーブに大きな影響を与えた名店として知られ、開店時から土地の味を生かす単一農園・単一品種、「シングルオリジン」の緑茶を提供する[表参道 茶茶の間]の和多田喜さんによるものだ。

「はじめて[茶茶の間]でお茶を飲んだ瞬間はとてもショックでした。香駿こうしゅんという品種を使った『桃源郷』という名前のお茶を淹れていただいて。砂糖でもないし、蜂蜜でもないし、あえて言語化すると甘さなんですが、お茶独特の味わいがお店を出て家に帰るまでずっと残っている。美味しい、で終わるのではなく、美味しいの先をもっと知りたいとお茶を再発見した瞬間でした。お茶に対する“好き”の指標が今100%だとしたら、当時は30%ぐらいだったと思いますが、そこからさらに二歩目に進んでみたいと一つの壁を大きく超えるような感動があって。はじめはどちらかといえば“好き”というよりもすごく良い偶然にぶつかったという感覚で、この良い偶然を忍ばせているお茶を広げたいという思いが出発点でしたね」

そこから堰を切ったように和多田さんの開講していたセミナーに通い、日本茶インストラクターの資格を取得。インストラクター同期らと「オッサム・ティ・ラボ」を立ち上げ、茅ヶ崎の海岸や夕暮れ時の日比谷公園、神田のラーメン店など、あらゆる場で日本茶を振る舞い、チャンスがあればお茶農家さんや急須の産地に足を運んだ。

「こんなお茶知らなかった!」とお茶を差し出したときのリアクションが、もう一歩先に行ってみようという原動力になり、知って学んで伝えて……を繰り返していく。“好き”を伝えたいという想いが強まる一方で気がついたことがあった。

言語化されていないお茶の世界で

「お茶業界のど真ん中に農家さん、製茶問屋さんがいるとしたら、その周りにお茶屋さん、淹れ手がいて、ファンがいる。活動をしながら気がついたのは、そのど真ん中から少し離れた周りの人たちが圧倒的に足りていないということです。伝統的な技術や茶葉の製法が継承されても、それを伝える人、語る人、受取手が圧倒的に足りていない。置いておけば売れると言われていた親父の世代、一世代前はそもそも言語化する必要もなかったのかもしれない。でも今、日常のお茶はペットボトルで、リーフのお茶は特別な存在。伝えなければ手にも取ってもらえない。どうすれば伝えられるかと考える過程で飲み比べて、言語化シートを作ったり、ワインの伝え方は参考になるかもとワインエキスパートの資格も勉強したり。伝える手段を増やしたいという思いがずっと自分の中心にありました」

どうしたら“日本茶の語り手”を増やすことができるのか。ヒントになったのは、オッサム・ティ・ラボを介して知り合った男性が教えてくれた映画『A FILM ABOUT COFFEE』の上映会。コミュニティスペースで、6〜8人ごと1テーブルを囲み、上映後には映画について感想を語り合う。映画を観た後にコーヒーを飲むと、味や香りを分析しただけでは想像できなかった一杯の向こう側の情景が浮かんだ。農家から加工を担う作り手、バリスタまで、映画であれば時間と場所の繋がりが表現できる。会場に集まっていた人たちの中でコーヒー好きな人は2〜3割ほどで、たまたま観たのがそのコーヒーのドキュメンタリー映画だったという人も多く、偶然性が高いことにも魅力を感じた。日本茶に偶然出会う場を、映画であれば作れるかもしれない。同時に、それまで感じていたコンプレックスにも似た感覚が背中を押した。

ファンが「好き」を語っていいんだと伝えたい

「映画を観た次の日からよし作るぞ、とすぐに動き出せたわけではもちろんなくて。発酵期間が5ヶ月くらいあったかな。ファンである自分が、お茶を生業にしている方に対してある種のジェラシーにも似たコンプレックスを感じて、お茶の仕事に就かなければ越えられない壁があると思った時期もありました。野球少年がプロ野球の選手に感じるような憧れを抱いていて。でも悩んでいる時、[茶茶の間]の和多田さんに言われたのが、『趣味としてできることはもっとたくさんあるし、仕事ではない形で好きなお茶と付き合うからこそできることがあるよ』と」

その言葉を受けて、好きなものとしてお茶をやり尽くしたかと自問すると、まだやり尽くしてないなと思い直した。「趣味のへりみたいなところまで行ってみたい」という思いが生まれたとき心が決まった。

「映画を作る体験はボールボーイとしてグラウンドに入ったような感覚に近かったですね。入ってみたグラウンドは、スタンドからは見えない色んなことがあった。そりゃもちろん農業だし、厳しいところも色々見たんですけど、やっぱりグラウンドの芝は青かったなっていうのが、僕の感想で。スタンドに戻って、これをちゃんと伝えたいなってピュアに思えた。もちろん当事者でなければ伝わらないこともありますが、自信を持ってファンが好きを語っていいんだと映画を見てくださる方にも伝えたい」

天地人人人”で繋がるお茶のご縁

ファンだからこそ伝えられることがある。そう再確認したたかつさんはクラウドファンディングを立ち上げ、お茶のファンによる寄付を募り映画制作と上映会を開催することを決意。リターンとしてオリジナルで制作した急須は三重・萬古焼の急須職人、清水潤さん、清水うしおさん兄弟に依頼した。兄・潤さんによる青磁の急須が「天」、弟・潮さんによる土の急須が「地」。間に人が入り、2つの急須を手にとることで、「天地人」が完成するというコンセプトだ。

「映画を作り始めた当初はタイトルを『うつわ一杯の非日常を描く天地人の物語』としていて。茶農家と問屋と淹れ手、3つの「人」が入って成り立っているので、僕は『天地人人人』って言ってるんですけどね(笑)。撮影させていただいた方も映画のために初めてアポを取った方はいなくて、7年間の中でお茶を介して出逢った方々。つくづくお茶のご縁でできているなと」

急須の底には「ごちそう茶事」の文字が一点一点刻まれている

「ご縁の象徴なので、上映会ではこの急須を使おうと決めていて。映画を観てもらいながらお茶を通じてどういう体験をしてもらおうかなと、ワクワクしながらペアリングも考えてきました」と話すたかつさん。

後編では映画に合わせ振る舞われた日本茶についてもご紹介。現在進行形の「うつわ一杯」のリレーを紡ぐ現代茶人の物語を、引き続きお届けしていきます。今しばしお付き合いを。

たかつまこと|Makoto Takatsu
仕事はお茶関係でも映画関係でもないが、日本茶の「好き」をおすそ分けしたくて、日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事 – A film about Japanese tea-』を制作(プロデュース・ 脚本)。オフの日には、「オッサム・ティ・ラボ」での活動、茶農家さんのお手伝いなど、お茶の好きを深めたり伝えたりする活動を行う。最近は、増えた在宅時間でおうち喫茶を満喫・拡散中。
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Photo: Taro Oota
Interview & Text: Moe Nishiyama
Edit: Yoshiki Tatezaki

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